『天穂のサクナヒメ』から学ぶ、単純作業の楽しませ方
【これ、どんな記事?】
超絶飽き性なゲームデザイナーの私が、単純作業もあるゲームを楽しめているのはなんでだろうな?どんな仕組みかな?というのを分析した記事。
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『天穂のサクナヒメ』と言えば、農林水産省のHPが攻略本だ!とか言われたりしていた話題作です。リアルな稲作シミュレーションがバズり、売上本数も50万本を突破したヒット作になりましたね。
話題になった稲作なんですが、実際に遊んだ評判も良いです。次はどんなお米を作ろうかな、良いお米を作るにはどうすればいいのかな、と考えて実践していくのは楽しい。
しかしこの稲作シミュレーション、単純作業も多いです。単純作業と言うとそれはもう蛇蝎のごとく嫌われる要素だったりしますが、皆受け入れいて楽しんでいます。
なぜ、この単純作業に飽きずゲームを楽しめているのか?分析していると巧妙かつ的確な仕掛けがあったので、今回はココの謎に迫ってこうと思います。
◆単純作業ってどんなの?
説明に入る前に、今回話題にするゲーム内の単純作業は何があるか並べていきます。ここに認識がズレていると話がアレになるので。簡単な紹介なので、ここは飛ばしても大丈夫です。
【田起こし】
Yボタンを長押しして鍬を振り上げ、Yボタンを離して鍬を振る。田んぼ一面が良い感じの耕し具合になるまでひたすら繰り返す。
【種籾選別】
ツボを持ったらAボタン長押しで泥(塩)を入れ、Lスティックをぐりぐりしてひたすらかき混ぜる。
【田植え】
Xボタンで苗を手に取りつつ、いい感じの間隔になるようにしながらYボタンでひたすら植えていく。
【収穫】
出来上がった稲をYボタンでひたすら刈り取っていく。
【稲架掛け】
Yボタンで刈り取った稲を拾って干していく。ここの作業自体はほぼ収穫のオマケみたいな感じ。
【脱穀】
「↓」で稲を持ち、「→Y」でこき箸にセット。「←」でも籾を外す。これを延々と繰り返す。※道具が発達するとだんだん操作が簡単になる
【籾摺り】
「↑」で杵臼を持ち上げ、「↓」で搗く。これをひたすら繰り返す。玄米にするくらいならすぐ終わるが、白米にするならけっこう大変。※道具の発達すると楽になってくる。
なお道具も農技も無しで白米にしようとすると、数百回は↑の作業を繰り返す必要がある。大変じゃった……。
以上。7種類ですかね。他にも肥料を上げたり雑草を抜いたり水の量を調整したりと、考えたりすることはありますが、大きな単純作業としてはこれ等になります。
では説明再開。
◆単純作業を楽しませるためには?
はい、じゃあ謎にじっくり迫らないで結論からいきましょう。
『天穂のサクナヒメ』が、単純作業を楽しませるためにやっている要素がこちらです。
①単純作業に報酬を用意し、目標を作る
┗ 米作りによるスーパーインフレ
┗ 単純作業の中に『変化』を作る
②異なる作業を混ぜて飽きさせない
┗ 稲作、アクション、アクション、稲作……
┗ 単純作業でも、全て違う単純作業
③作業の納得感
┗ 現実に存在するものを題材にする
┗ プレイヤー自身が作業を始める
順番に解説していきます。
・
・
・
嘘です。解説に入る前にそもそも「飽きる」って何だろうって話をします。
◆そもそも飽きるって何だ?
心理学の世界では、『飽きる』ことを『順化』という用語で説明しています。仕組みを簡単に説明すると、こう。
■馴化
・何か同じことをやってると、それに対して『慣れ』が蓄積する
・『慣れ』の蓄積が一定ラインを越えると『飽きる』
モンハンの状態異常みたいなもんです。慣れが一定以上蓄積したら、飽きます。
じゃあ一度飽きたら永遠に飽きたままか?っていうとそうではないです。この『慣れ』の蓄積値は
・時間経過
・別の事をやる
とかで減っていきます。一定ラインを越えたら「飽き」から回復するわけですね。これを『脱馴化』と言います。テストにはでないので用語までは特に覚えなくていいです。
要するに、
RPGをいっぱいやったら飽きてきてアクションゲームがやりたくなってくる。で、アクションゲームをやってたらまたRPGがやりたくなってきて……
みたいのは、こういう仕組みで成り立っています。
ちなみに飽きやすい作業は存在していて、特徴としては
・地味〜な作業(強度の弱い刺激)
・同じことを繰り返す作業(連続した刺激)
が飽きやすいです。ただし同じ作業でも、
・目標の有無
・報酬の有無
で飽きやすさは更に変わります。
さて、これらの知識を踏まえた上で、ゲームの分析をしてみましょう。
◆【目標と報酬】米は力だスーパーインフレだ
このゲームはアクションゲームですが、かなりRPG寄りのゲームデザインをしています。
お米を作った際のステ上昇量が高く、それがアクションパートの難易度に大きく影響しているんですね。硬いし痛いしで強かった相手を、米を作った後に軽く捻ったりできたり。
上手いのはプレイヤーへの学習のさせ方で、
最初のボスにそのまま挑むと苦戦する。硬い。痛い。
↓
少し時間が経つと米が完成。ステータスが大きく上昇。
↓
苦戦していたボスに簡単に勝てるようになる
というのを『ゲーム序盤に』やるわけですね。最初の米作りの時点です。
米を力にすることで世界が変わると言ってもよく、この『米によるスーパーインフレ』を体験することで、プレイヤーは『米作り』の意義を実感します。『言葉』ではなく『心』で理解するわけですよ兄貴。
一応、簡単に例えると、
・よく分からないボタンを100回ひたすら押す
・100回押したら100万円貰えるボタンをひたすら押す
だと、100万円もらえるボタンの方が押していて楽しいわけです。押した後の『期待』で胸が膨らみますからね。それと同じことをしています。
これが3回くらい米を作ったら実感できる…とかだと、恐らくプレイヤーに与える印象が弱くてそこまで機能しません。『最初』に『強い実感』を持たせるのが大事。
◆【目標と報酬】単純作業の中に『変化』を作る
あともう1つ上手いな、と思ったのは農作業(単純作業)にレベルアップ的なものを入れた所。
序盤はけっこう大変なんですよ。農作業。田起こしの時はそれはもう、ちまちまちまちまと耕しますし、田植えの時もちまちまちまちま植えていくわけです。めんどくせぇ。田植え唄でも歌ってないとやってられない。
ただ農作業をやっていくとその作業に対する経験値が溜まって農技を覚えて、これらの農作業が楽になります。
鍬を振るえば一撃で広範囲を耕し、苗を植えれば複数の苗を同時に植えたりできるようになり、バリバリ稲作をこなせるようになっていく。ゲームを始めた時は駄女神だったサクナヒメが、スーパー稲作マシーンに変わるのです。ゲームの途中からずっと「スーパー稲作マシーン:サクナ」って呼んでました。
つまるところ、
・単純作業中に
・レベルアップの効果音が鳴り
・単純作業の内容にちょっと変化が生まれる(楽になる)
ことで目の前の作業に意義と変化が生まれ、単純作業を飽きにくいものに変えています。
◆【飽き】「慣れ」を蓄積させないゲームサイクル
順化の説明の所で書いたコレ。
RPGをいっぱいやったら飽きてきてアクションゲームがやりたくなってくる。で、アクションゲームをやってたらまたRPGがやりたくなってきて……
『飽きにくいゲームを作ろう』と思った時、↑の仕組みを「1つのゲーム内で完結させる」のは非常に有効です。
『天穂のサクナヒメ』ではアクションの合間に稲作シミュレーションが入っています。例えば、私がゲームをやっていた時の1年のサイクルを簡単に書くと、こう。
【冬】
1:アクション
2:アクション
3:種籾選別、田起こし
【春】
1:アクション
2:田植え
3:アクション
【夏】
1:アクション
2:アクション
3:アクション
【秋】
1:収穫・稲架掛け
2:アクション・脱穀
3:アクション・籾摺り
こんな感じで異なるジャンルを交互に遊ぶようなゲームサイクルのため、飽きにくい作りになってます。
…って思うじゃん?
それだけなら私は「巧妙かつ的確に」なんて表現しません。もう少し踏み込んで考えていくと、上手いなーと思ったのは
・1年のゲームサイクルの中で、同じ単純作業を入れない
こと。『◆単純作業ってどんなの?』の項目で各作業について説明しましたが、同じ操作内容の物がないんですよ。どれも違います。
なので『この単純作業をやったら同じことをやるのはだいぶ後』になります。言い換えると『同じ単純作業をやるのは慣れの蓄積値がしっかり下がった後』になるわけです。
なので単純な「アクションと単純作業を交互にやらせて飽きさせないようにしている」ゲームサイクルよりも、更に飽きないような構造になっています。
はい。いったん、これまでの話をまとめると
交互にアクションと稲作を混ぜる
×
連続で同じ単純作業をさせない
×
単純作業の成果でスーパーインフレを体感させて明確な目標を作る
×
単純作業自体もやっていくと楽になり、作業自体に報酬がある
の合わせ技で、単純作業を楽しませにきています。だから稲作が飽きずに楽しめるわけですね。
さて、次は別の方向性から。作業の納得感の話です。
◆【納得感】現実に存在するものを題材にする
「稲作」は現実にもあります。これ、けっこう強力だと思うんですよ。
なぜ土を耕さねばならぬ?
なぜちまちま田植えなんぞをやらねばならぬ?
なぜちまちま↑↓を連打してゴリゴリゴリゴリ籾摺りをやらねば……
という話に対して『いやだってこれ稲作だし』という言い訳ができるだけで納得感は違うものです。
いやほんと籾摺りなんて、稲作とか関係ないオリジナル要素であの作業をさせてたら
・なんでこんなの入れたの?おばかなの?ばかばか
とか言われかねないですよ。でも『いやだってこれ稲作だし』で済んじゃう。強い。
もちろん、クソみたいな作業がそれで何でも許されるわけではないです。ただ、既に説明した仕組みも合わさって単純作業を飽きさせない仕組みを構築しているので、問題ないレベルになっています。
◆【納得感】プレイヤー自身が作業を始める
あと、もう一個大事だなーと思ったのは
・強制的に稲作が始まらない
こと。冬の3日目になったら『そろそろ田起こしの時期だぞ』と促されたりはしますが、あくまで稲作自体はプレイヤーの意思で行われます。あくまで自分が「強くなりたいし、稲作をするか」と能動的に単純作業を始める。
これ地味に大事だな~と思っていて、『やらされている感』が無いんですよね。同じ単純作業をやるにしても
・強制的に始まった単純作業
・自分から始めた単純作業
では後者の方が納得感があり、単純作業の苦しさは軽減されます。
◆まとめ
ということで、今回の話をまとめます。
・人間、同じことを続けていると飽きるよ(馴化)
・人間、別の事をしていれば飽きが収まるよ(脱馴化)
・『目標』『報酬』のある作業は飽きにくい
・この単純作業を乗り越えれば良いことがある、と思わせるのが大事
┗ サクナヒメでは最初のボス戦でそれを実感させている
・ゲームサイクルの中に別ジャンルの作業を混ぜ込むと飽きにくい
・同じ単純作業は連続でさせないのも効果的
・単純作業をする時の、納得感は大事
・現実にあるものを題材にすると納得感が得やすい
・単純作業をさせる場合は、プレイヤーの意思でさせる作業をさせる
一口に「単純作業」といっても、工夫次第で色々できるわけです。実際に制作者の方がどのくらい意識したかはわかりませんが、とりあえず構造的にはこうなっているなー……と。
ちなみにこの記事を書いている途中から、コレ「単純作業の楽しませ方」じゃなくて「単純作業を飽きさせない方法」の記事じゃねーかと薄々感づいてましたが、タイトルは変えませんでした。見てもらえなさそうだし。い、いやまぁ楽しませ方も載ってなくは…ないし……。
ごめんなさい。おじさん嘘つきなんです。
◆蛇足
中学生くらいの時に初代『花咲か妖精』を狂ったようにやっていた私としては、「えーでるわいすさんといえばぶっ飛ばしアクション(とSTG)」というイメージが強かったりします。なのでゲーム中に『花咲かサクナ』が出た時は笑いました。花咲か妖精については↓
手っ取り早く動画を確認したい方はこちら。せっかちな方は9:20秒くらいをみれば(狂った)雰囲気わかります。
ちなみにダウンロードしてみたら、Windows10でも動きました。意外といけるもんですね。
◆宣伝
私もインディーゲーム作ってます。体験版が遊べるので、興味のある方はプレイしてみてください。こうやってゲームデザインについて考えるのが好きな人間が作ってます。
ゲームデザインについては他にも色々書いているので、興味のある方はそちらもどうぞ~。
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