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中国のインディーゲームパブリッシャーと契約してたけどお別れすることになったので、その経緯とやっていく中で得た知見を書こうと思う

※最初に言っておくと、喧嘩別れしたわけじゃないので悪しからず。

今回の話は表題の通りです。

現在制作中の『いのちのつかいかた』を作っている過程で、必死こいてパブリッシャーさんを探して契約までこぎつけたりしたんですが……

契約をする前も、した後も、色々とあったし今回の経験で今後パブリッシャーさんを探す人にも役に立ちそうな知見が得られたので共有しようかな~と。思いましてね。
(あとついでに↑のゲームがアーリーアクセスを開始したので、その宣伝もしたいな☆と思いましてね)

ということでこの記事では

・なぜ中国のパブリッシャーと組んだのか?
・パブリッシャーと組む利点は何なのか?
・パブリッシャーと組む時に注意した方が良い点は何なのか?

みたいなことを書いていこうかと思います。


◆そもそもパブリッシャーって何?

記事を読み始めたはいいものの、そもそもパブリッシャーってなんじゃいという人もいるかもしれないので、あらかじめざっくりと説明をしておくとですね。

インディーゲームにおけるパブリッシャーって

◆パブリッシャー
「そのゲームを広めて多くの人に届ける」のが担当。
主に宣伝や翻訳、資金援助、その他雑務などを引き受ける会社。

◆ディベロッパー(開発者)
ゲームを作っている人・会社。
「面白くて魅力的なゲームを作る」のが担当。

と思ってもらえればだいたい合っていると思います。
開発者が面白いゲームを作っても、それを上手く広めることができないと売れない。あと開発者は開発に集中したい。

じゃあ売り上げの何割かを渡すから、広報系の仕事とかそっちでがっつりやってねパブリッシャーさん、というのがざっくりした開発者とパブリッシャーの関係です。

なお、あんまりよろしくないパブリッシャーさんと組むと

利益配分しているけど、正直その分に値する仕事はしてもらってないな
 ↓
これ、契約しないで自分でやった方が良かったんじゃ……

ともなりかねないので、慎重に契約する必要があります。
その辺りを嫌ってセルフパブリッシングでやっている人達もいますね。

……で、色々と検討した結果、私はまず最初に中国のパブリッシャーさんと組むことになりました。それはなぜか?


◆なぜ中国のパブリッシャーと契約をしたのか?

正直、最初は契約する気なかったんですよ。
これは断言するんですが、

怪しくない中国のパブリッシャーはいない

と思っています。というのもTwitterで自分のゲームを公開しながら制作を進めていくと、翻訳者さんやパブリッシャーさんからDMをもらうことがあり、特に(当時は)中国の方からのコンタクトは多かったんですが……

①片言の日本語 or 英語
②恐ろしく低いTwitterのフォロワー数(たいてい数人~数十人)
③会社名をググっても公式HPが出てこない

というのが「普通」でした。というか全部これ。
中国特有の特殊なインターネット事情があったり、Twitterは主戦場じゃなかったりと理由はあると思うんですが、まぁこんな相手からDMがきたらこっちとしては怪しいわけですよ。不安になる要素はあっても安心できる要素がない。

じゃあお前はなんで契約したの?というと、答えは非常に単純です。

お 金 が な か っ た

ひじょ~にシンプル。そして切実。世の中金ですよ、金。

当時、人から紹介してもらった日本のパブリッシャーさんと話をしていて、けっこう良い感じに話が進んでおりまして。
でまぁ仕事の方も少し嫌気が刺すような状態だったし、自分の制作しているゲームを早く出さないと私も前に進めないし、契約も上手くいけば資金は確保できそうだし、自分のインディーゲームの制作に集中したいなぁ!と思っていたので……

仕事を辞めたわけですよ。
そしてパブリッシャーとの契約が上手くいかなかったわけですよ。(今季に使う資金と工数がもういっぱいで、手を貸せないって言われちゃった)
なので

あ!やっべ!!どうしよ!!!やっべ!!!!

という状態でけっこう焦ってましてね。(状況が確定していない中で賭けに出たのは私の自己責任なんですが)
そんな中、中国のパブリッシャーから上記のような怪しいDMが届いたわけです。普段なら警戒して断る所ですが、私も弱っていたので、ちょっと藁をも縋るような気持ちで話を聞くことにしました。

で、話を聞いてみたら契約の条件は悪くないし、クリエイターを尊重しようって気持ちは感じられたので、契約に至ったわけですね。

※パブリッシャーの担当してくれる人と話をして「良い感じになる」のはけっこういけます。担当の人もそのゲームに興味があるからコンタクトをとってくるし。ただ「いいですね、やりましょう!!」みたいな雰囲気になるのと、その人が会社の会議で通すことができるのかはまったくの別なので、

契約書を正式に締結するまでは、契約が不成立になる可能性は高い

と思って行動した方が良いですよ。ほんとに。


◆契約することでどんなメリットがあった?

じゃあ契約して何が良かったのか、という話ですが、これは中国のパブリッシャーと組んだからといって特別な話があるわけではないので、そもそも「パブリッシャーと組むメリットは何か」という視点で書いていきます。

◇開発費を確保できる

まぁ私の場合はお金のために契約したので、まず当分の開発費(あんど私の生活費)をギリギリとはいえ確保できたのが大きかったです。
これが無かったら精神的にも金銭的にも潰れていたかもしれないし

ちなみにちょっと詳しく話しておくと、資金援助と言っても「くれる」というより「貸してくれる」というのが近いです。

「前金」「MG(ミニマムギャランティ)」なんて言ったりしますが、多くの場合は

売上の前借り

といった形での支援になります。例えば契約で500万円の援助を受けるとしたら、

売上でまず500万円の売上を出して、援助していた資金を回収。
この間は開発者には売上で得たお金は入ってこない
それが終わった後の売上に対しては契約時に決めた配分で分配する。

みたいな感じです。給料の前借りみたいなもんですかね。
ただ個人の開発者にとってありがたいのは、多くの場合

もし売上で援助していた資金を回収できなかった場合の損失は、パブリッシャーが負担する

という点です。1000万円かけてゲームを作って売上50万円でした、みたいな事例もある世界なので……

1本作って失敗して破産しました、チーン

といった悲劇を防ぐことができます。もし失敗しても、最低限の売上分さえ確保していれば、再起できる可能性はグッと上がるわけですよ。
その失敗の経験を生かして次のチャンスにつなげることができるし。

※当然、売って回収することが前提の支援なので、制作途中で「ゲーム制作つらいからやっぱやーめた!」とか言ったら払っていた前金を返す必要は出てきます。

逆に言うと、パブリッシャーは自身が担当する「売る」という仕事をきっちりやらないと、前金をちゃんと回収できないので損になるわけです。

なので、パブリッシャーに対して自分のゲームを「自分たちがリスクを負ってでも出したい」とか「ちゃんと前金が回収できそう」と思わせることができないと、契約はできない……という話にもなります。
もしパブリッシャーを募集するなら、その辺も念頭においてアピールした方が良いかと思います。

※ウチは会社の方針として前金ださないよってパブリッシャーもいる……というか、むしろ日本のパブリッシャーだとそっちの方が多いかも?
なので開発費を要求しない方が契約はしやすかったりはします。私は絶対条件として要求して動いていましたけど。

※開発者に対する期待と信頼が厚い場合は、前借り制じゃなくて単純に金額の支援をしてくれるパブリッシャーもいるかもしれません。ただお金持っているパブリッシャーがハイパーつよつよクリエイターと契約する時に限られるかも。


◇翻訳してくれる

これはもうパブリッシャーの標準装備というか。
日本だけの市場だと狭すぎるので、翻訳して世界中に広めるのは「売る」のを担当するパブリッシャーさんのお仕事です。
特に海外のパブリッシャーさんなら、当然自分たちの言語に翻訳しないと話になりませんからね。

これは直接パブリッシャーが社内の人材で翻訳してくれるパターンもあれば、ツテのある翻訳者・翻訳会社に依頼してパブリッシャー自体はそこのパイプ役として機能するパターンもあります。

翻訳費に関しては場合によっては前金みたいに「回収対象」となる場合もありますが、パブリッシャー自身が負担してくれる場合が多いです。個人で進めて翻訳するなら自己負担になるので、ここは嬉しい所。

ただ「翻訳できる」と「質の良い翻訳」ができるのはまた別の話で……。
テキスト量が多くて文章が大事なゲームの場合、「翻訳の評判が良い」パブリッシャーさんと組むのも大事です。

翻訳の質は悪いしパイプ役としても全然役に立たねぇ、みたいな事になると悲惨ですからね。「翻訳できますよ!」とはみんな自信ありげに言ってきますけど。

ちゃんとLQA(翻訳のチェック。翻訳した分をそのまま通すんじゃなくて、おかしい表現が無いかとか第三者がチェックする)もしてくれるのかとか、ファミリアライズ(ちゃんとそのゲームを触って理解する)もしっかりやった上で翻訳してくれるのかとか、その辺はチェックした方がいいかもしれません。
とりあえずよく分かんなくても、具体的な翻訳の工程は聞いた方が安心。

ただ、その言語が分かんなくても翻訳のチェックはしておいた方が良いです。例えばゲーム内に出てくる各用語の翻訳とか。
私の経験だと「ステータス」と「属性」が一緒の単語で訳されていたことがあって、「そこはゲームシステム的にまったくの別物だから同じ単語にしないでくれ!」とお願いしたことがありました。

※ちなみに、パブリッシャーと契約するなら文字数が少ないゲームの方が圧倒的に有利です。パブリッシャーとしても翻訳費の回収が楽なので、その分リスクが少なく済みます。

※10万字とか言うと嫌がられ始めますね。ちなみに10万字は文庫本1冊分。私のゲームは完成予定で30万字だったので、どこも渋い顔してましたよHAHAHA

※どんなに開発が序盤でも「で、文字数は何文字くらいになる予定ですか?」って聞かれます。そんなもんまだ分かんねーよって思っても答える必要がある(契約するかどうかを決める上で必要な情報になる)ので、最初から文字数を答えやすい形で作ると吉。


◇イベントに楽して出せる

イベントに出展するの、わりと大変なんですよ。
出展登録するための情報を色々まとめて書いたり、出展費を払ったり、そもそもそのイベントの審査に落ちたら出せなかったり。

パブリッシャーさんと契約すると、その辺はあっちの方で良きにはからって出してくれます。
特に日本のイベントに出すのも面倒なのに、海外のイベントに出すのは言語的・地理的な話もあって更に面倒なわけですよ。中国のパブリッシャーさんと契約した場合は、中国のイベントに色々と出してもらえましたね。

あと私は今PLAYISMさんとも契約しているんですが、PLAYISMさんは自社専用のゲームイベントを持ってたりするので、そういう所は認知度的・広報的な意味合いでパブリッシャーとしてはやっぱ強いよなーと思います。

INDIE Live Expo2022 にもタイトルピックアップ枠で紹介してもらえましたが、パブリッシャーさんと契約せずに一人で活動していたら難しかったんだろうなぁと思います。
私は無名で肩書ない人だから、やっぱり注目度的にね……。



◇PlayStationで出せる

日本の個人開発者がPlayStationでゲームを出すことはできないです。
(2022年現在)

PSで出すにはパートナー登録が必要なんですが、パートナー登録ができるのは法人だけなので、個人事業主とかは無理。ヨーロッパの個人事業主はできるっぽいんですけどね。

なので個人開発者の人で「プレステでもゲームを出したいぞ!」と言う人は、パブリッシャーの会社と契約して出す必要があります。
それが自分で会社を作っちゃうか。


◇テストプレイヤーが確保できる

個人開発者には切実な話ですが、

ゲーム作ってテストプレイしてもらいたいけど、やってくれる人がいないよぉ!友達いないよぉ!!ひぃいいん!!!!

みたいな人でも、パブリッシャーがつけばテストプレイをお願いすることがはできます。どのくらいの範囲までやってくれるかは会社によると思いますが、少なくとも担当の人はやって意見をくれたりしますよ。社内の色んな人がやってくれる場合もあります。

ある程度はデバッグもして報告してもらえるので、リリース前にはけっこう助かってました。やっぱり一人でデバッグするのは色んな意味で難しい所がありますしね。(人間、自分が作ったところだと見逃しがち)


◇その他、プレスリリース等の広報関連

色んなメディアにプレスリリースを送って掲載してもらうとか、そういうのはやっぱりパブリッシャーを通した方が掲載率とか上がるんじゃないのかなーと思います。
ファミ通本誌にも載ったりするかもしれない。

プレスリリースって何?って人に対して簡単に言うと、メディアに対して

俺んとこで今度こういうニュースがあるから(ゲームを出すから)、記事にしてくれや!

と送りつけることです。ちなみに個人でもできます。
実際にやってみた結果と考察を昔ツイートしていたので、興味があれば見てみてください。(ついでに私をフォローしといてください)

あとこの辺のプレスリリースは個人開発だと全部自分でやることになるので、単純にその作業を受け持ってくれるのは助かる所ではあります。
リリース前ってクソ忙しいんですよ。疲弊しながらデバッグと修正を繰り返す中、プレスリリースの準備も進めて……みたいな作業が入るとけっこうキツいので、修羅場っている状況で分業できるのは素直に有難かったです。PVも作ってもらえたし。

あと、アーリーアクセス版をリリースするにあたって、「メディアに先行プレイレビュー依頼しておきますね~」みたいな事もしてくれていたようなので、プレスリリースはともかくこの辺は個人だと中々手の届かない所かも。

ただ全てのパブリッシャーがコレをやってくれるのか?っていうとちょっと怪しい所があるので、パブリッシャーさんと契約する時は広告関連は具体的に何をやってくれるのか聞いた方が良いかもしれない。


◆じゃあ何で別れたの?

色々とメリットを語ってきましたが、まぁ今回は中国のパブリッシャーさんとはお別れすることになったわけです。何でかっていうと、

今の中国の情勢的に十分な活動ができそうにない

とのことで……。
「中国の1万4000社以上のゲーム会社が倒産したぜ!」と前にニュースになっていて(特にモバイル系は)大打撃だったみたいなんですが、その煽りをモロに受けた形になります。

このニュースがあった当時から「もしかしたらヤバいかも……」というのは中国のパブリッシャーさんからも前もって言われていて、その数か月後に「無理ですわ」と言われた感じです。

私もまぁ「しゃーないな」としか言えない話だったので、解約の書類を整えて円満にお別れしました。

※ちなみに『いのちのつかいかた』の中国語翻訳に関してはPLAYISMさんに引き継いでもらってます。


◆契約時の注意

なんだか本題っぽさそうな所があっさり終わりましたが、パブリッシャーと契約を交わす上でもうちょっと役に立ちそうな知見を書いておきます。
(あわよくばバズりたいので)

◇利益配分について

パブリッシャーさんも慈善事業じゃないので、当然契約時には「売上の何%をもらうよ」って話が出てくるわけなんですが。
利益配分の業界標準、色んなパブリッシャーさんに聞くと皆ちがうこと言うので、あんまりアテにできないんですよね。

私の今のところの肌感で言うと、

開発者6:パブリッシャー4

がベースになるのかなと思います。強気な所は「5:5」って言ったりもしますし、良心的な所は「7:3」って言ってくれたりもします。

ちなみに私以外の人で「6:4」主張をしている記事だとこの記事があって

「7:3」が基本だったよって言われた的な記事にはコチラがあります。

いや、パブリッシャーさんが「7:3」って言ってくれるなら「7:3」が業界標準なんでしょう。そう、きっとそうだ。


ただこれ注意したいのは、必ずしも「5:5」が悪で「7:3」が善か、というとそうじゃない点です。例えば

利益配分は「5:5」だけど前金は1000万だすし回収の必要もないよ。

って言う話もあれば、

利益配分は「7:3」だけど、前金が出せるのは200万までだし前金はもちろん翻訳費も回収に含むよ

って話もあるでしょう。この辺りはお互いが何を重視するのかで着地点が変わるので、あんまり利益配分にこだわるよりは全体の利益と方向性に応じて柔軟に変えた方が良いと思います。

例えば私の場合は1作目というのもあって、利益配分よりも前金の額を重視して交渉したりしていました。(まずは知名度が欲しいので、売れた時の利益よりも作品のクオリティを上げるための開発費が欲しかった)


◇プラットフォームを限定した場合の契約

契約によっては、プラットフォームを限定して契約する場合もあります。
例えばSteamのみの契約で、我々の契約にはSwitchは含まれないよとか。

↑のような例の場合はSwitch版の利益配分が生じないのでウハウハな所がありますが。こうした場合、気を付けた方が良いのは

翻訳してもらった文章は契約外のプラットフォームでは使えない

という点です。そりゃ利益配分ないんだからこっちで作ったのを使うんじゃねーよって話はあるのです。
なので例えば

中国のパブリッシャーと契約したけど、契約範囲はPC版のみだから、PlayStation版で中国語を使って出すことができない。出すなら別で翻訳コストを払って翻訳するか追加契約をする必要がある。

みたいなことが起こりえます。プラットフォームを限定して契約する場合は後で「こ、こんなはずでは……」とならないように考えておいた方が良いです。


◇契約書は作り上げるもの

契約書。めんどうくさいですよね。
やたら小難しい文章で書かれていて分かりにくいですし。

大抵はパブリッシャーから送られて、それの内容に対してOKなら捺印する形ですが、しっかり読み込んで直して欲しいところはハッキリ言った方がいいです。読み込んでみるとまぁ色々あって、

●基本的に相手が有利になるように書かれている場合もあれば
●お互いの認識がすれ違っていて思っていた条件と違う場合もあれば
●純粋に相手がよく分かっていなくてお互いが幸せになれない書き方になっている場合もあれば
●テンプレを流用した結果、今回の契約にそぐわない部分が残っている場合もあれば
●海外のパブリッシャーの場合、契約書の翻訳が上手くいってなくてよく分からない文章になっている場合もあれば……

みたいなことが起きます。
契約書はトラブル時の対応の重要なカギを握るので、少しでも疑問があれば聞いてみた方が良いです。聞くことで相手が嫌がるとかそういうのはないはず。というか嫌がる所はヤバい。

う~ん、たぶんこれは…こういうことかな……?

と予測で済ませて勘違いした状態になっていると、のちのち後悔することになるのでメールで文章に残しつつ確認していくのをお勧めします。
お互いが納得できる、後悔のない形を目指しましょ。

◇裁判はどこで?

それとパブリッシャーと契約する際に、契約書へ明記されるのが

裁判が必要になった時にどこの国で裁判を行うのか

です。大抵はパブリッシャーの国を指定されますが、これ不安ならゴネても(日本の裁判所を指定するように言っても)いいのかなって思います。

特に個人開発者なんかは「企業 vs 個人」でも苦しいのに、そのうえ言葉の分からない海外の裁判所でアレコレするのはハードモードもいいところです。なので

「あなた達を信用していないわけじゃないけど、個人開発者の自衛として裁判所は自分の国を指定するようにしている」

と海外のパブリッシャーに伝えた時に、難色を示されたなら契約をしない……というのも1つの選択肢だと思います。

ちなみにこういった話を色々と乗り越えて契約をするので、「パブリッシャーと契約をする」という作業だけで1ヵ月分は他の作業ができなくなると思っていた方が良いです。けっこう時間かかりますよ。


◇販売価格にご注意

契約書には、予定している販売価格まで書かない事の方が多いです。だから契約を交わす時はこの辺を「後で決めればいっか~」となぁなぁにしちゃったりもするんですが……

Steamなんかは、けっこう国ごとに別の金額にすることを推奨していたりします。Steam自身も「地域別の推奨する価格設定」みたいのを出してますからね。

これは国ごとの物価の違いというのもあれば、「中国は『喜+1』といって、〇〇元以上のゲームは売りにくい」みたいな話もあってパブリッシャーさんから安めの価格を提案されたりもします。

で、その時に

考えていた値段の4分の1くらいの値段を提示された

みたいな話も実際にあってですね。
それが受け入れられない場合は両者が納得できる値段になるように議論する必要がありますし、そこが絶対的に決裂するなら

契約なんてするんじゃなかった!

となるわけです。
特に海外のパブリッシャーと契約をするなら、その地域で販売したい価格を契約前に(だいたいの値段でもいいので)話し合っておくのをお勧めします。

あとこういう話もあるので、「日本で売った1万本」と「海外で売った1万本」の売上は違う事もある、というのは頭に置いておいた方が良いかと。



◆複数のパブリッシャーと契約するのってどうなの?

私はまず中国のパブリッシャーさんと契約して、その後に日本のパブリッシャーである『PLAYISM』さんと契約をしました。

今は中国のパブリッシャーさんとお別れしたので『PLAYISM』さんのみですが、一時期は複数のパブリッシャーと契約していた状態だったので、その時に感じたメリット・デメリットを書いていこうかと思います。


◇資金確保には良い

メリットはこれですね。例えばパブリッシャーさんに前金をせびるとして、パブリッシャーさん的には

う~ん、この条件なら前金出せるのは400万が限度だなぁ

って状態の時に、

1000万くれ!!!

って言われても難しいわけですよ。
でも、パブリッシャーが複数だと、それぞれ契約条件は変えられるので

A社、お前は400万だけどちょっと利益配分多めに頂戴!
B社、あんたは600万くれ!

みたいなことができます。パブリッシャーとしても「リスク」を分散できるので条件が成立しやすく、開発者も必要な1000万を確保しながら契約ができるわけです。


◇めんどい。コミュニケーション編

さて、複数のパブリッシャーと契約したからといって、その会社同士が繋がるわけではありません。つまり

   開発者
 /     \
A社 ―――― B社

という繋がり方ではなく、

A社 ―― 開発者 | 開発者 ――― B社

という繋がり方をするので、場合によっては開発者自身がパイプ役として機能する必要が出てきます。
例えば「リリース日いつにする?」と言う話をするときに、A社の希望とB社の希望を開発者が聞いて取りまとめて……

みたいなムーブに放っておくと自然となります。開発に専念したくて契約を結んだのにナー?
それが面倒でしょうがない場合は、「A社・B社・開発者が集まって同時に話せる場所」をちゃんと用意して進めた方が良いですね。


◇めんどい。銀行口座編

さて、ひっじょ~に面倒くさいのが売上の振込です。
例えばSteamは「そのゲームが売上が振り込まれる口座は1つ」という形式をとっており、パブリッシャーが1社の場合は

パブリッシャーのアカウントにゲームを移管
 ↓
毎月、売上と利益配分額に応じてパブリッシャーから振り込んでもらう

という形になるんですが、複数いる場合は「誰が受け取る?」という問題が出てきます。どちらのパブリッシャーも契約をしているのは開発者であってもう片方のパブリッシャーではないので、

契約関係にない別のパブリッシャーから売上が振り込まれる

という状況はとーぜん嫌がるのです。なので

じゃあ開発者が売上を受け取って、それを利益配分に応じてそれぞれのパブリッシャーに振り込めばいいじゃん!

という話になるし、それが一番トラブルが少ないんですが

これから契約が続く限り、何年にもわたって毎月毎月その振り込み作業をやらなければいけない

というのは(事務の人がいる会社ならともかく)個人開発者がやるにはひっじょ~~~~~~~~~~に面倒な話です。開発に専念したいのにね。

更に言えば、片方が海外のパブリッシャーになると、海外送金をする必要があります。海外送金ってやり方にもよりますが、普通に銀行から窓口で振り込もうとすると

1万円を振り込むのに1万円かかる

みたいな感じで手数料がクッソ高いし面倒だったりもするので、毎月の振込作業は更にのしかかります。
Wiseのような手数料がなるべく少なく済むサービスを使いたい所ですが、「個人だと一回100万円までね」みたいな縛りはあるので、もし500万の分配が出たら5回に分けて……みたいな話にも繋がります。スーパー面倒。
あと金額が大きくなると審査も厳しくなり、Wiseで送ろうとして失敗したりもします。こっちから送るなら、相手に日本の銀行口座を持ってもらうのが一番良いです。

複数のパブリッシャー、特に海外のパブリッシャーと組むのなら、この辺は覚悟するか解決案を考えておく必要はありますね。


◆おまけ:パブリッシャーさんと最初に話す前にまずやること

※これはあくまで私の場合です
TwitterのDMとかでパブリッシャーさんから初めて話しかけられた時、挨拶や自己紹介と共に

いちどお話できませんか?

的なことを言われますが、元気よ~く「はいっ!」と答える前にやることがあります。最低限の条件の確認です。

条件が合わなきゃ話をしても契約が成立するはずもなく、時間を無駄にするだけです。(……まぁ、人脈はちょっとだけ広がるかも?)
例えば前金が500万もらえるのは絶対条件としているなら「ウチは前金は出さないよ」って所と話をしても不成立になるのは当たり前なわけですよ。

なので、最初に話をする前に自分の大事にしている所とか最低条件を伝えておいて、

最低限、この条件は呑んで欲しいんだけど可能?
→ YES!お話ししましょう。
→ No!縁がなかったですねサヨナラ

とできると色々とスムーズに動けます。
サンプルとして私がしている質問を晒すと、

①開発費の支援は可能か
開発資金確保のための資金援助は絶対条件なので、まずこれを聞いている。
あと、自分のゲームのためにリスクを負ってくれるかどうかも個人的には重要。

②望んでいる利益配分について
許容範囲内の利益配分か。ここの感覚がかけ離れすぎていると契約は成立しないと思う。3:7とか言われたら泣いちゃうし。
前金で1億円くれるなら3:7でもいいけど。

③IPの所有権について
大抵は開発者100%なんだけど、もし違ったら面倒だから聞いておく。

④御社の特徴、強み
パブリッシャーとして優れている点を聞きたい。私の場合は特に重視しているのは翻訳(ローカライズ)クオリティとか、どんな広告に強いとか。
そりゃ私も大事なゲームを預けるわけだから、できるだけ優秀で自分のゲームと合いそうな所と組みたいわけですよ。

「翻訳します」「コンシューマで出せます」だけだと、パブリッシャーは皆そうなので「他に何かウリはないんか」となる。

⑤これまで御社がパブリッシングしたゲームの売上本数
差し支えなければ、「だいたい」でいいから教えてく~ださい☆
という形で聞いています。「機密上言えない」っていうパブリッシャーさんもいるけど、正確な数字でなくだいたいの数字を求めているので、答えてくれる所は答えてくれる。

ある意味「パブリッシャーとしての能力」を一番測りやすいのはココだと思う。売れているゲームを出しているなら、広告能力が高い可能性はあるし。

でも、まだ会社できたててであんまり胸張って言えないんだけど……とかでも、その分熱意とか④を説得力のある形で提示してくれるなら別にいい。
信頼できそうかを知りたいので、「言えない」だけでバッサリ斬られた場合は個人的には「話さなくていいかな」になる。(「言えないけど……」とその後に続く言葉があればまだ良し)

⑥このゲームにどれくらいの売上本数を見込んでいるか
コンタクトとってくるからにはある程度の利益が見込めるとふんで話しかけてきているとは思う。ある程度の根拠をもって、「何本くらい」と予測を立てられる所と組みたい。
複数のパブリッシャーに聞いていくとだいたいの数字が固まってくるから、自分のゲームの市場価値みたいな予測の参考にはなる。

以上です。
他の人がどうしているかは知らないし、あくまで私の場合ですけど。
たぶんパブリッシャーさんから「面倒な人に話しかけちゃったな……」と思われていそうな気はする。

まぁどうせいつかは聞くし、オンラインで通話するにしても、あらかじめてコレを聞いておいた方が有意義な時間にはなるな~と思っています。
相手も色々と考えて返信できるだろうし。


◆宣伝

はい、こういった話を乗り越えてですね、パブリッシャーさん(PLAYISMさん)と契約に成功してただいま制作しているのがこの『いのちのつかいかた』です。この前アーリーアクセス版をリリースしました。

主人公の『執着』によって結末が変化するゲームブック風RPGで、戦闘システムもオリジナルのこだわったやつを積んでおります。
PLAYISMさんに『前金を払ってもいい(リスクを負ってもいい)』って思ってもらえたゲームでございますよ!!!

切実な話、アーリーアクセス版もある程度売れないと私の懐には入ってこないんですよ。今回の記事で説明した仕組みなので。
前金パワーで頑張っているけど限度はあるので、よりクオリティの高い完成版を遊んでみたい方は、アーリーアクセス版を買って感想をいただけると嬉しいです。


あとゲーム制作に役立つ話として、普段はnoteでゲームデザインの話を書いてます。例えばコレとか。

興味があれば読んでみてください。


◆他の人のパブリッシャー関連の記事

今回の記事はあくまで私の主観なわけですが、他の人のパブリッシャー関連の記事もあるようなので載せておきますね。

参考になれば幸いです。では!

サポート(投げ銭、金銭支援)歓迎です。 頂いたお金はゲームの開発費に使用させていただきます。  ↓ 支援が多いと私のゲームのイラスト枚数が増えたりオリジナルの曲が組み込まれたりします。美味しいお肉を食べに行ったりはしません。