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ショート小説まとめ

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毎日投稿中のショート小説をまとめました.
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2020年8月の記事一覧

ショート小説「変人の悩み」

「悩むなー」 僕はとても重要な局面を迎えている. 「これもいいしな.いや,やっぱこっちの方がいいかな.でも,こっちの方が安いしな」 かれこれ20分悩んでいる.お店の人がジロジロと見てきて,あまり時間がない.少し焦ってきた. 「よし.やっぱこっちにしよう」 最後は自分の直感を信じた. 僕はガリガリ君を買うことにした. え?たかがアイスを選ぶことが重要な局面かって?はは.笑わせないでくれたまえ.あなたにとってはどうでもいいことかもしれないが,僕にとってはとても重要な

ショート小説「YESマン」

僕のあだ名はYESマンだ.頼まれたことは絶対に断らない. 「ねえ.これやっておいてくれる?」 こんなこと言っている間にまた頼みごとをされた. 「いいよ」 僕は断らない. なぜ断らないかって?それは僕のポリシーだからだ. そして僕の座右の銘はこれだ. 情けは人の為ならず.僕にぴったりだ. たとえ陰で笑われようが,僕は僕のポリシーを貫く. 「ねえ.これもやっておいてくれない?」 「いいよ」 今日も,僕は僕のために頑張り続ける.

ショート小説「学校は嫌だ」

「学校行きたくないな」 夏休みが終わり,今日から学校が始まる. 私にとっては学校は苦痛な場所だ. 夏休み中は,数少ない友達や家族とお祭りに行ったり,花火をしたりと楽しい日々を過ごしていた. 楽しい日々を過ごしている時は学校のことを忘れることができた. ただ,休みが少なくなってくると学校のことが頭によぎり,気分が悪くなってくる. いつからこうなったのかは覚えていない. いじめられてもいないし勉強もそこまで嫌ではない. ただなぜか行きたくないだけ. 親にはこのこ

ショート小説「夏の始まりと終わり」

8月上旬 ミーンミンミンミンミーン セミの鳴き声が聞こえる. 四方八方から絶え間なく鳴き続けている. 夏が始まったと感じる. 8月中旬 ミーンミンミンミンミーン まだセミの鳴き声が四方八方から聞こえる. 夏を過ごしているなと実感する. 8月下旬 ミーンミンミンミンミーン セミの鳴き声が減ってきた. 道路にひっくり返って死んでいるセミ,踏まれてしまってぐちゃぐちゃになっているセミがいる. セミの寿命は1週間から2週間という俗説があったが,その後1ヵ月生

ショート小説「1日の始まり」

目覚ましが鳴り,僕は浅い眠りから目覚める. フラフラとよろめきながらカーテンを開ける. 「まぶしいっ」 今日はいい天気だ. おぼつかない足取りで洗面所に向かう. 冷たい水で顔を洗うと意識がはっきりしてきた. 「ふう」 顔を拭いていると,ぐぅーとお腹が鳴った. そういえば昨日の夜は何も食べていなかった. 冷蔵庫を漁ってもいいものがなく,仕方なく卵がけご飯を食べた. お腹が膨れたところで時計を見たら,時間があまりなかったので,急いで仕事着に着替えた. 「よし

ショート小説「頭の中」

僕の頭の中はいつも渋滞している. あれもやりたい.これもやりたい. 次々に新しくやりたいことが出てくる. これはいいことだが,ルールを守らず追い越しをすることもある. まだやっている途中なのに,新しいことに目を向け始める. そこからまだ何も得てないのにどうして追い越しをしてしまうのだろう. 頭の中に道路交通法がないから?いや,追い越しは違反ではないはずだ. ならどうやってやめさせようか.独自に追い越し禁止のルールを追加するか. いや,ルールを追加したところで守

ショート小説「正義と悪」

正義ってなんだろう?悪ってなんだろう. ふと疑問に思い調べてみた. 正義:正しい道理.人間行為の正しさ. 悪:正しくない.よくない.不道徳.また、法律に反すること. 正しい道理?人間行為の正しさ? 誰がそんなこと決めるの? 自分?相手? 自分が正しいと思えば正義になる?相手が正しくないと思えば悪になる? わからない. こんなことを考えているのは僕だけかもしれない. なんてことないことが気になる.ただそれだけなのに.

ショート小説「ジャスティスマン」

「助けてー,ジャスティスマーン」 誰かが私に助けを求めている. 「行かなくては」 会社を抜け出し,ヒーロースーツに着替え現場に向かう. 現場に着くと,1人の女性が怪人に捕まっていた. 「ジャスティスマンが来てくれた」 「彼が来てくれたからもう安心できるね」 周りからはこんな声が聞こえる. 「その人を離しなさい.抵抗しなければ命だけは助けてやる」 いつもと同じように怪人に問いかける. 「げはは,ジャスティスマンか.なんでお前の言うことなんか聞かなきゃいけない

ショート小説「つながり」

「おはよう」 ぼくの1日はあいさつで始まる. 「おはよう」 お父さん,お母さんもあいさつで1日が始まる. 「こんにちは」 ぼくはいつもあいさつをする. 「こんにちは」 相手の人もあいさつをする. 「こんばんは」 ぼくはまたあいさつをする. 「」 相手の人はあいさつをしなかった. かなしいと思った. あいさつでぼくらはつながりを持てる. 「おはよう」 今日もぼくはあいさつをする.

ショート小説「オンライン大学」

「今日もオンラインで講義か」 僕は今年から大学生だ. 大学に行って,友達もたくさん作って,サークルにも入って,思いっきり大学生活を楽しんでやろうと思っていた. しかし,現実は違った. 「今話題のウイルスの影響で,前期の講義はすべてオンラインで行います」 春休み中に大学からこのようなメールが届いた. 「まじか」 この一言しか出なかった. 春休み中もウイルスの影響で,どこにも遊びに行けなかった. 4月になり,オンラインガイダンスが始まった. 単位の説明や今後に

ショート小説「空白」

中学,高校と私は独りぼっちだった. 学校に行き,授業を受けて帰る.毎日これの繰り返し. 授業で先生に指名されること以外には言葉を発しない. もちろん友達は1人もいない. 修学旅行,文化祭,体育祭.誰かと協力してやらなければいけないことはすべて避けてきた. 卒業式の日.みんなで集合写真を撮っていたが,私はそこにはいない. 私には必要ないこと.そう思い込ませた. 大学生になり,1人だけ友達ができた. その子は私と正反対な性格で,友達も多く人気者だ. 私にとっては

ショート小説「きっかけ」

「きっかけを作れば前に進める」 この言葉は,私が中学生のころに教えてもらった言葉だ. 私は,中学2年生の後期から学校に行かなくなり,家に引きこもって過ごしていた.何もすることもなく1日を過ごし,みんなが頑張っている中私だけこんな生活をしているなんて,と自己嫌悪に陥る日々を送っていた. そんな時,担任の先生が家庭訪問をしに来た. 「調子はどう?」,「早く元気になってね」と優しい声で話しかけてくれる. 「大丈夫です」,「はい」とうつむきながら答える私に,先生はこう声をか

ショート小説「変わらない日常」

いつもと変わらない道. 私は毎日同じ道を歩いている. 7時に起き,顔を洗い,朝ご飯を食べ,スーツに着替えて家を出る. 家から駅まで,1kmほど.その途中には小中高一貫校があり,私は1ヵ月ほど前まで通っていた.12年間,毎日同じ道を歩いた.12年前に初めて歩いた道は,毎日歩けば変わらない日常になっていく. 一貫校から駅までの道,駅から会社までの道,私はまた変わらない日常として過ごしていくのであろうか.こんな日常を望んでいたんだろうか. 私は今日も同じ道を歩いている.