我が人生を完成させる再会の期 【瞳をとじて】映画♯108
【ストーリー】
ミゲルが監督している映画の撮影中に、フリオ・アレナスという俳優が失踪した。それから20年以上が経ち、俳優の失踪事件を追うTV番組が制作される。その番組に協力したミゲルは親友だったフリオとの関係を、完成されなかった映画と共に想いを巡らせていく。
【解説というか、レヴューというか、】
ビクトル・エリセの新作が観られるなんて思いもしなかった。そう思った映画ファンは多いでしょう。現在83歳のエリセ。この映画の主人公はやっぱりエリセ自身なんだろう。ファンはご安心あれ、晩年の有名映画監督にありがちな、独りよがりな終活映画ではないのです。非常に豊かな内容を持った作品に仕上がっています。
まずはアナ、アナ・トレント。あの名作「ミツバチのささやき」のアナの表情は半世紀の時を超えても変わっていない。今作もやっぱりアナという役名でトレントは演じています。なので予習は必須。この映画を知らない人は本作の醍醐味は感じ取れないかもしれない。
物語は人生のピークを一旦終えた、元映画監督のおじいさんを主軸に進む。未完成の作品に対する心残りを解消すべく、失踪した俳優を探す旅に出る。
その旅の中で、自身を消して他人になろうとする俳優という生き物の心情や、ひとつの作品が完成するとは作者にとってどんな意味があるのか、観る者に人の人生の深遠を見せていく。映画が出来上がる瞬間と、人生の軌跡の瞬間が時を超えて重なるような、そんな大人の作品。
人生はいつ完結するか分からない物語、
「我が人生こそが映画なのだ」
静かな情熱を感じる、円熟期に達したビクトル・エリセなのです。
【シネマメモ】
ビクトル・エリセはスペインの映画監督。これまでに長編映画の公開は本作で4作目と少ない制作数にも関わらず、その質の高さから宮崎駿などの多くの作家に影響を与えている。
エリセの過去作
「ミツバチのささやき」1973年作
「エルスール」1982年作
「マルメロの陽光」1992年作
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