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家のない眼 第六話

コロナが一年ほど過ぎ、少し国民は冷静になってきては・・・いなかった。
相変わらずネットのSNSは荒れ、テレビは左翼のワクチンの副作用は出てはならぬという論調で人々はメディアに嫌になってきていた。
家入充はYouTubeでとある動画をリアルタイム配信で、タブレットで観ていた。時間は土曜の夜九時。季節は春。
MCは中堅の芸人で、ふたりの男性が物事を論じている。
「コロナなんてインフルエンザよりはるかに死なないんだから分科会をつく他のがそもそも間違いなんですよ。RNAワクチンの件だって根拠のないうわさでしょ。陰謀論者が喜ぶだけですよ。」
「全く、それも喫煙者、肥満、糖尿とか死ぬ確率がどうとか、うるさいよね。くそ主要メディアは。お前ら安全パイしか踏まないじゃないかってね。」
段々ヒートアップする。
「大体今のメディアと企業は肥満とか筋トレとか、庶民をまた大本営発表見たいに洗脳しよとしてますよ。そりゃ誰しも健康ではありたいけど、芸能人の体系は仕事でやってるのであって庶民がなぜ影響を受けねばならないのか?インフルエンサーだって言ってますよ。日本と韓国は上っ面だけで異常だって。そりゃそうだ。家父長制が生き延びているくだらない国なんだから。」
「わかってる人は分かってるんですよ。標準体重より10キロ以上あったほうが健康にいいって。大体元気なお年寄りはほとんど大きいですからね。現実が分かってない。誰がダイエットなんかするか!」
男二人はガタイはいいが大デブというほどでもない。
「要するに、年金を払いたくないんですよ。破綻している年金制度がばれたくないから必死こいて痩せて年金貰う前に死ねと。それと、私たち三人は東京暮らしですが街歩いたらおかしくないですか?皆マスクしてるのにスマホに夢中なんて。」
「全くです。スマホ依存はアル中や薬物依存と同じですからね。私はラインもツイッターもメタもしません。ショートメールとEメールで充分です。そもそも家の電話ありますし、スマホの電源は好きな時に切りますよ。だって誰かに電子管理なんてしてほしくないから。自由でありたい。」
コメントに称賛が多く集まる。
「今の時代、多分疫病とセットで戦争が起きますよ。多分ね。かつてのスペイン風邪と第一次大戦みたいにね。」
「確かに、時代的に間引きが必要ですからね。人類は多すぎる。自然の摂理に反してます。デジタルの進化も異常だし。」
一時間ほど彼らは話して、さんざん現政権を批判して動画は終わった。視聴者は300万人を超えていた。
充は見終わって、自分の少し出た腹を見ていた。
「コロナで引きこもるんだから当たり前だよなあ。ワクチンの一回目がそろそろだな。タダのワクチン、打たないわけないじゃん。神奈川はあほか。」

最近は充の家は通ってはいけないリストに入っていてほとんど通る人はいない。充はスカイプで洋子やリツ子とやり取りをして、大分落ち着いてきた。

新開満はまだ警備員の仕事が続いていた。大叔父の太は最近元気がないが今年は法事をすると言っていた。会わねばならないときもあるのだ。

もうすぐ先送りされた東京オリンピックが始まるのだ。誰も望んでない無観客の。

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