見出し画像

キレイゴト抜きで語ります! 成長意欲のない中国Z世代に現地駐在員はこう対応して! 【後編】

前編に引き続き、成長意欲の薄い中国Z世代に駐在員はどう対応すればいいのか、考えていきます。

↓ 前編から読む


企業としてどう対応するか

採用の失敗は育成で挽回不能

成長意欲のないZ世代に、企業としてどう向き合うか。キレイゴト抜きの本音を言えば「採用の失敗は育成で挽回不能」のひと言に尽きます。

成長意欲を持てない人たちを採ってしまったら、育成で意欲を刺激し、伸ばし、熱量を上げるのは難しい。できなくはないと思いますけど、駐在員の任期を考えると苦しいです。私は任期のない立場ですが、自分の仕事人生の残り時間を思えば、意欲のないZ世代の育成に手をかけている暇はないと言わざるを得ません。

では、どうするか。そうじゃないZ世代を採用することです。そもそもY世代でもX世代でも、ゆとり世代でも氷河期世代でも、その世代に括られる人たちがみんな同じというわけではないですよね。せいぜい一定の傾向があると言えるだけです。

Z世代にも熱度の高い人はいる。私は成長意欲の薄い人たちをどうやって刺激するか考えるより、会社が採用の自由を行使した方がいいと思っています。

新人採用やスカウトにいろんな制限があるプロスポーツのような世界と違い、普通の会社はどこのどんな人材にも来てもらうことができます。ここは実に工夫のしがいがあります。

私のチームも、採用にかける熱意やマンパワーは年を追うごとに上がっていて、いまは常時「いい人がいたら、どんどん面接する」意識が徹底されています。育成より採用。比率としては1対9かそれ以上に採用重視です。

採用難の時代に入った

とはいえ、中国でも日本でも、いかにして他社よりも先んじるかを考えていかないと、いい人材とは出会えない時代に入っています。これまでと同じ流れで、同じ担当者に任せて、同じメッセージを出して、同じような人材を採用しようとしていては未来がありません。

少し前、中国の若年層の人口、日系企業が採用ターゲットにしたいような層の母数の変化について、試算したことがあります。

「いい人材」の母数が10年前の約5%に低下!?

2023年の20代の人口は、30代の7割近くまで減っています。さらにギグワーカー層の拡大があります。2022年には当局トップが「いまの中国には2億人のギグワーカーがいる」と発言していました(いまはもっと増えているでしょう)。

新しく労働市場に出てくる人のうち、ざっくり3割がギグワークに流れると見積もって掛け算すると0.49。採用ターゲット層の母数は10年前の49%ということになります。

それに加えて、前編で取り上げた若者気質の変化があります。私が面接で得ている感覚では、自社で採用してもいいレベルの熱量や熱度を持っている人の割合は10〜15年前の1割程度。すると0.7×0.7×0.1=0.049。つまり「いい人材」の母数は10年前の約5%しかない。しかもこれは熱量の問題だけで、考え方やスキルなど自社が求める他の条件を満たす人はさらに減ります。

母数が減っている時代の採用〜戦力化

そんな希少な人たちを自社に惹きつけるには、相当な工夫と努力と資源投入が必要です。「処遇は中の中だし、ウチは若い人を惹きつける特徴も特にないなー」などと言っていると、採り負けてしまいます。

入ってくれても、その人たちが自社にフィットするかどうかはまた別の話。採用者全員が力を発揮できることはまずないです。入れてからも見極め、合わない人材はチームから下りてもらわなくてはなりません。

そして、間違いなく自社で伸びる余地のある人材だったとしても、その潜在力をどうやって引き出すかという次の問題があります。

ここまでクリアして初めて若手を戦力化できます。

……途方もなく大変な作業でしょう? 経営者やリーダーには、それぐらい難しい状況だと認識してほしいです。

駐在員ができることは?

対策① こちらから採りに行く

現状、どんな採用活動をしていますか。基本的には人事に任せて、紹介会社にオーダーを出す、ヘッドハンティング会社に頼む、オンラインで募集要項を出す、学校の就職イベントに参加する、社員の口コミで……といった感じだと思います。

それで出遅れはないかもしれませんが、他社も同じですから埋没します。他社がやっていないこと、そこまでできないと思うことまで踏み込まないと、いい人材は採用できません。

「具体的には何?」と言いたいですよね。ここで簡単に思いつくようなことはもう他社がやってます。だから難しい。他社が気づいてないことを、脳みそに汗かいて探し出し、試行錯誤していくしかありません。

すぐできるのは、採用の定石・常套手段を打ち破ること。ずっと使っている採用ルート、人事中心の採用活動、トップが出るのは最終面接だけ、みたいな慣習をやめてみる。「採用ブースにいきなり偉い人が来る」「部署のエースが面接する」「意外な採用ルートを発掘する」などは試す価値があります。

私の会社でも、毎年、試行錯誤しながら採用活動の中身を変えています。2、3年前は効果があっても、数年経てば同じ手段は通用しません。とにかく「いい人と出会う」ことだけを条件にして、あらゆる方法を試しています。

対策② 非常識な尖り方で関心を惹く

何とかしていい人材に出会えても、「この会社、面白いかも。とりあえず履歴書を出してみよう」と思ってもらうのはまた至難の業です。

2024年の春、私たちは本拠地の天津で採用活動をしました。日本語学科があるほぼ全ての大学に行きましたが、合同面接会・会社説明会などに来る学生のうち、日本語専攻者はせいぜい1〜2割。丸1日ブースにいて、履歴書を出してくれた学生が1〜2人、ゼロということもありました。

いまは不景気で採用を控えている会社が多いので、学校によっては日系企業は2社だけなんてこともあり、私たちは優位なはずです。なのに、就職イベントに足を運ばない学生が多数いる。やってきた学生でさえ、話を聞いたり履歴書を出したりしない。若者が仕事にその程度の熱意しか持っていないことを痛感します。

ここから言えるのは、いかにして最初の一歩を踏み出してもらうかも会社が考えないといけないということ。常識を取っ払って、彼らに刺さるメッセージを出す必要があります。

例えば、会社案内。創業年や事業内容などを並べて、他社と同じようなフォーマットで作っているなら、カラーもメディアも全然異なる会社紹介を考えてみてはどうでしょうか。

私たちも「いったい何なんだこの会社は?」ぐらいの強い関心を引き起こそうと思ってやっています。合同説明会などのブースを見てもらえば、いかにして独自色を出すかに腐心していることがわかると思います(日本語に関係なくても、当社のポスターを「かっこいい」とか「個性的」と撮影していく学生が結構います)。

対策③ 試用期間と期限で厳格な見極め

ここまで頑張って採った人材が「入れてみたものの……」ということもいっぱいあります。

そうなると会社は出口を考えなければなりません。中国では、募集要件を満たしていない、方向性が違うといった理由で合法的に労働契約を終了できるのは、試用期間と、1回目の固定期限労働契約の終了時だけです。

このタイミングでの見極めが、多くの日系企業では形骸化しています。人事部門が期限を管理していて、経営者にどうするか聞き、特にマイナスがなければそのまま採用、というところがほとんどです。

私たちの会社は逆です。試用期間終了/1回目の労働契約終了のタイミングで、評価者全員が「ぜひ続けて一緒にやりたい」と認めた人でなければ採用(更新)を見送っています。

採用支援している会社に同じことを助言すると、「ぜひというほどじゃないけれど、やっと採ったんだし、解雇する必要まではないのでは」という反応をもらうことが多いです。

でも、経営者と一緒に試用期間にあったことを一つ一つ振り返っていくと、たいていは採用見送りという結論になります。試用期間の仕事ぶりのまま働き続け、そこに悪い意味の慣れ(狎れ)が加わったらどうなるか、冷静に判断した結果です。

人材を見極めるには、ここで労力を惜しんではいけません。人事任せ、部署任せにすると、「本人に自分が見送りを伝えるのはイヤ」「せっかく教えたのに、無駄になる」「また抜けたら誰が埋めるわけ?」といった基準で判断してしまいます。

試用期間で終了というのは「何となく本人に悪い」と思う気持ちはわかります。その心理的なハードルを超えるため、言いにくい場合は私たちが通知を代行することもあります。見極めの基準は「本当にこれからも自社で活躍してくれる人か」だけに絞ることが重要です。

毎回そのタイミングで判断するのは面倒くさいと思われるかもしれません。確かに数百人単位の現場で、ワーカーまで全部トップが判断していたら大変ですが、オフィススタッフや管理者候補に絞れば年間数人だと思います。採用にそのぐらいの手間暇はかけてくださいと言いたいです。他の経営課題には時間を割くでしょう?

成長意欲が高く、会社の価値観やトップの方向性とズレがない人材は、日常業務を通じてどんどん育ちます。逆に、違和感のある人材を採用すると、入ってきた頃はわずかなズレでも、10年も経てば大きな差になってきます。

せっかく法律で認められている機会です。最大限有効活用しないのは大損だと思います。

対策④ 管理者の意識変革も同時に

潜在力のある人材にいかにして伸びてもらうか。ここでネックになるのが上司・先輩です。

先輩世代の熱度が低いと、意欲ある若者の熱を冷ましてしまいます。あるいは若い人の方が「こんな冷めた上司の下では無理」と早期に辞めてしまいます。

職場に「成長して当たり前」という雰囲気をつくれているなら、新人だけにフォーカスすれば大丈夫。しかし「意欲ある若者が採れても、先輩たちの仕事ぶりを見たら冷めるだろうな」と思ったら、Z世代よりそちらに手をつけなければダメです。

せっかく入社した熱意ある若者が潰されないように、逆に会社が若者たちから見切られないように、若者たちの成長を後押しする環境をつくっておくこと。採用を改革しても、会社の幹部、管理者、監督者、先輩の意識を同時に変えていかないと、なかなか会社全体の気風は変わりません。

今日のひと言

採れない前提で本気の攻めを

中国Z世代の「いい人材」と出会うこと、採用すること、自社で力を発揮してもらうことがどれだけ難しいか、感じてもらえたのではないかと思います。

もちろん不可能ではないです。拠点のトップやエース級が本気で取り組めばできることばかり。頭を使って試行錯誤し、工夫しながら、手間暇を惜しまずに他社がやっていないことを不断にやり続けること。それさえできれば、いい人材には出会えるし、採れると思っています。

いままでと同じ採用活動では絶対に採れないという前提で、本気の攻めを若い人たちにぶつけてください。採用段階でいい人が採れれば、後の育成が楽になります。「採用で本気の攻めを」、これが今回の私の結論です。

YouTubeで毎週、新作動画を配信しています。
【中国編|変化への適応さもなくば健全な撤退】シリーズは、中国/海外事業で経営を担う・組織を率いる皆さま向けに「現地組織を鍛え、事業の持続的発展を図る」をテーマとしてお送りしています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?