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繊細さんの中国駐在

海外赴任者というと、鉄のメンタルと鋼の体力を持っているイメージがありますよね。事実、そんな人たちがたくさんいる世界でもあります。

ただ、みんながみんな、そんな猛者ばかりじゃない。トラブルに巻き込まれて精神的に追い込まれた駐在員から、個人的な相談を受けたりもします。

今回は、繊細さん・敏感さん・抱え込んでしまいがちさんと、そういう赴任者がいる会社向けの話。自分は別に繊細じゃないという人も、近くにそういう人がいたら、今回の話を踏まえて対応してもらえると嬉しいです。

このnoteは、毎週水曜に配信するYouTube動画のテキストバージョンです。
記事の末尾に動画リンクがあります。


繊細さんに伝えたいこと

中国を含む海外駐在では、メンタルを損なって途中リタイアしまう人がいます。残念ながら、命を落として帰国できずに終わるという痛ましい状況も毎年のようにあります。

こういうケースでは、本人も、家族も、それから現地の社員たちや、取引関係者や、日本側の任命した人たちも、みんなが非常につらい状況になります。駐在員がそこまで自分を追い詰める必要はまったくありません。もしいま追い詰められている人がいたら、ぜひ読んでほしいと思います。

①逃げ場がないなんてことはない

現地に行くと、日本とは違って本当に逃げ場がないなと感じることもあると思います。閉鎖的な拠点、通じない言葉、見知らぬ街、知り合いも近くにいないというのでは無理もないのですが、それでも逃げ場がないなんてことはありません

中国の年間標準勤務日数は250日です。会社のカレンダーによって多少の差はあるものの、365日のうち115日、つまり3分の1弱は仕事以外の時間です。出張などがあれば移動中はだいたい自分の時間になるでしょう。どうですか。年間カレンダーだけ見ても、意外と逃げ場はあると思いませんか。

中国なら週末帰国もできなくはないです。駐在先がアフリカや中南米だとそうもいかないですけど、日本企業が進出している都市はたいてい中国の沿岸部。厳しかったコロナの時期を過ぎ、今はもう一日に何本もフライトが出ています。

金曜の夜か土曜の朝に出て、日曜の夜までに帰れるところも多い。費用は多少かかっても、自分の居場所に一時退避することは可能です。

そして重要なのは「必ず帰任がある」こと。任期はだいたい3年から5年。もっと短い場合もある。いつか必ずゴールがあります。いよいよ苦しくなったら、手を挙げて「もう無理」と会社に伝えたっていい。なんなら辞めてしまえば駐在そのものから下りられます。一歩引いて眺めると、常に逃げ場はあります。

②無理してフルに付き合わない

客先の接待、取引先の会食、社内宴会など、苦痛を感じるような局面は無理してフルに付き合う必要はないし、むしろそこまでしない方がいいです。「自分は立場があるから逃げるわけには……」と思うかもしれません。しかし、いつもいつも100%付き合う必要は本当にないです。

【取引先や客先の場合】

仕事の立場があると対外的な飲み会を断るわけにはいきません。そこで飲める現地社員たちを対応要員として連れていきます。「悪いけど、飲み要員として頼む!自分は下戸だけど行かないわけにいかない。代わりにみんなで飲んでくれ!」と正直にお願いします。

これは私の体験から発見した方法。私は下戸なので、最初の頃、中国式の乾杯(しかも52度の白酒)が本当に辛かったです。それを見かねた社員たちが「できるだけ自分たちが相手するから、ついていくよ」と言ってくれたのがきっかけでした。

まだ一方的に頼むのは気の引ける関係なら、お礼と言ってはなんですが、引き換えに彼らの苦手な仕事を引き受けるねと伝えます。日本側との折衝や、本社向けのレポートや、体裁の整った書類作成など。お互いの得意分野を交換するわけですね。

これなら、苦手な場に行くストレスを緩和しつつ、貸し借りの関係で社員との距離も縮められて一石二鳥です。

【社内宴会の場合】

部下たちが乾杯乾杯と持ちかけてきたら、中国語の「随意」で受け流します。これは「お互い自分のペースで」という意味です。社内ならある程度は効きます。

やんちゃな社員などが「乾杯しましょう」と挑んできても、微笑みをたたえながら、じっと相手の目を見て「随・意・吧」。普通は気圧されて、それ以上は押してきません。

そこでゴリ押ししてくる部下や、酔っぱらったふりをして絡んでくる社員は、多少雑に扱っても大丈夫。「いやいやいや、じゃ白酒じゃなくて、ビールで乾杯〜」と自分のペースで対応してかまいません。無理して飲む必要は全然ないです。

これで白けたり距離感ができたりする社員は、もともと深い信頼関係を築くのが難しい相手。ある程度こちらも尊重してくれるような人は、ゴリ押しで飲ませたりしないです。

要注意対象は日本人上司

実は最も要注意なのは、現地にいる日本人上司です。本当に夜な夜な、駐在員のみんなを自分の食事・飲みに連れ回す人がいます。参加して気晴らしになる場だったらいいですよ。しかし、ひたすら本社や中国人への文句と愚痴を言ってクダを巻いているとなると、これは苦痛でしかない。

はっきり言いますけど、そもそも毎日誘う上司がおかしいです。赴任直後の部下なら「一人で寂しくしてるから連れてってくださいよ」なんて言われたりもするし、意図的に多めに声をかけるのはいいことです。それでも、食事だけでサクッと解散する日も作るとか、慣れてきたら回数を減らして相手の時間に配慮するとか、それぐらいの気遣いは上司として当たり前。

毎晩のように引っ張り回して、自分がしゃべりたいことだけしゃべって、自分の満足のために部下を付き合わせるような人はリーダー失格。そんな上司に真摯に付き合う必要はないです。

日本に戻った後もずっと同じ人の下で働くことは少ないでしょうし、現地にいる間も、その上司の裁量で自分の評価がそこまで変わることはないでしょう。アイツは変わり者だ、ノリがよくないと思われたところで大したダメージはありません。

誘いを断るときに使える理由を紹介します。

誘いを断る理由①赴任の条件なので… 
単身赴任でも「週2日は必ずオンラインで家族と話すと約束してるんで、火曜日と木曜日はすみません」と最初から言ってしまいます。これに対してNOと言う上司はただのKY(またはリーダー不適格者)なので気にしなくていいです。週のうち何日かは堂々と自分の時間を作れます。

誘いを断る理由②健康上の理由
偏頭痛だとか腰痛持ちだとか、健康上の理由も使えます。「1日8時間を超えて座ることはできるだけ避けろと医者に言われていて、最近腰から下が痺れぎみなのでパスさせてください」みたいなことを言ってもいいです。

誘いを断る理由③ガチ趣味
着任時にガチ趣味を打ち出しておくと、自分の時間を確実に確保できます。夜はランニングしている、ゲームにハマっている、何でもいいです。「もう10年やってる」とか言って最初からキャラを確立してしまう。1年も2年も我慢した後ではタイミングが難しいので、なるべく早めがおすすめです。

すでに「なるべく早め」を過ぎちゃったという人は、最近痛めたことにして健康上の理由を使うか、最近家族と一緒に趣味を始めたとか、今から言い出してもおかしくない感じにしてください。

最初の何週間かは気まずいかもしれませんが、この先1年も2年もずっと我慢し続けることを考えたら、何週間か居心地が悪いぐらいは耐える価値アリ。実際にそうしている駐在員はたくさんいます。

そのせいで社内で浮いてしまったとか、非常に苦しい立場になったという人もそうそういません(よっぽどアレな上司だったらあり得なくはないか。そんなの相手にする必要ないですからね)。

③6掛けでもいい

無理を重ねてまで全力で立ち向かう必要はないです。6掛けぐらいのペースでもいいと私は思います。

数字で考えてみましょう。

6掛けのペースでいいんです

自分の限界を超えて頑張って、1人で1.2人前の力を出したとします。1.2の力で250日間の仕事日を駆け抜けた結果、1年でダウンしてしまいました。すると、実質的な貢献量は単純に掛け算で300です。

一方、6割の力で250日間働き、3年の任期を全うすると、450の貢献です。無理して行き詰まるより、6掛け7掛けの力で完走する方が現地法人にも派遣元にも貢献量は大きいことになります。

無理に追い込んでも、どこかでバランスを崩してしまったり、ダウン・リタイアしたりしたら誰にも得がありません。そんなに頑張ったのに、トータルの貢献量は少なく、現地法人は帰さざるを得ず、任命側も目算が狂い、自分も苦しい。lose・lose・loseです。

まずはマイペースで完走を目指す。完走できなかったとしても、そこは組織で仕事をしている人間の特権を使ってください。私のような自営業・起業家だとどうしようもないこともありますが、社命で赴任しているのであれば、完走できずに日本に戻っても何とでもなります。

ギリギリまで追い込む必要なし。そのために心身に不調をきたしても、報われる人はどこにもいません。

今日のひと言

「無理は無理」

とにかく無理しないこと。頑張るのはいいですけど、つらいのに自分を追い込むようなことはしてはダメです。字面通り「無理なものは無理」。無理すると自分も苦しいし、結果的に周りも全然得しません。

6割の力でも完走する方が、途中でリタイアするより組織への貢献も大きいです。過度に踏ん張らないで、逃げ場をつくり、フルに付き合わず、自分のペースで駐在期間を完走してもらえたらと思います。完走できなくても、それはそれでいいじゃないですか。自分の人生は、代わりの効く組織の駐在任務より大切です。

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【中国編|変化への適応さもなくば健全な撤退】シリーズは、中国/海外事業で経営を担う・組織を率いる皆さま向けに「現地組織を鍛え、事業の持続的発展を図る」をテーマとしてお送りしています。

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