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読書日記 「途方に暮れて、人生論」保坂和志

夏に会った地元の友達(むっちゃん、仮名)が「最近本を読みたいんだけどずっと読んでなかったらどんな本を読んだらいいかわからない。よかったらどんな本を読んでいるか教えて」と言ったので、たまに本の紹介をしますね。


その子は私がほとんど唯一連絡を取り続けている地元の同級生で、高校や大学、結婚してからも細々と繋がってきた。ひょろ〜っと背が高くて、ちょっとクセのある話し方をするんだ。並んだら超デコボコ。だけど、すごく好き。


海外で仕事をしている期間も長くて、ごく稀に更新されるFacebookを見ては「今ここにいるのかー」「帰国したら連絡してみよう」と思っている間に15年くらい経ってしまっていた!



話し出したら止まらなくて、ずーっと話をして今までどこで何をしてたかを時系列でやっと理解した。こちらも近況報告しながらもうすぐ離婚することを伝えると「ま、なんとかなるっしょ」と真顔で言った。数々の危機を乗り越えてきた人のシンプルな言葉ほど重みがあるよね。


お互い地元に対するしっくり来なさがすごくて、そういう意味で気が合った。友達は地元を出るどころではなく日本も出てしまって、その流れもある意味自然な流れなんだよなーと思った。


この面白い友達の話はまた今度書きますね。



本の紹介、感想を書くのは苦手だから、いいなと思う文章を抜き出すことにしようと思う。


保坂和志はいわゆる流行の売れっ子作家というポジションではないと思う。でも私はすごく好きで、この人が芥川賞をとった「この人の域」と言う本を繰り返し読んでいる。


まどろっこしい文章を書くから好みが分かれそう。でも知らない街の路地裏を目的もなくぼーっと歩いているような、独特の空気感があって良いです。猫と一緒に生きている人です。


猫のように、時間があまってしまった子供のように、<人生の素顔>と向き合うこと、それは楽しいわけではないけれど、「それが人生なんだ」「生きるとはそういうことなんだ」と思うこと、それが私にはかけがえがないし、尽きない興味の対象でもある。


人が自分の代わりに生きてくれたり、自分に足りない分を人に託したり、あるいは自分はたまたま今の仕事をしていると感じたり、人生は不確定要素だらけで、強い意志で今の自分になったわけではなくて、家族や友達やそれらいろいろな力学の産物としてこうなった。


自分の人生においてすら、自分が当事者であることは些細なことなのだ。


私の基本的な考え方はこの人と同じで、それが福祉をしようと考えるきっかけになっていると思う。


自分が何者でなくても、不安でも不安定でも、とにかく、若いというだけでいいんだと私は思う。(中略)若いということはそういう、世界がいきいきしていることで、それは地位や名誉や財産には換えられない。反対にこんな歳になると世界がどろんとしている。


子ども達が今どんな状態でも、「世界を単純ないきいきしたものと思い込んでいるんだな」と感じると、すごく嬉しい。今はややこしく、どろんとした世界を知ってしまったけれど、できるだけそういうものとは関わらないようにしよう、という感じでいるから。


問題は「愛の感じ方」と「愛のあらわし方」もあり方なのだ。



両親の世代はブラックボックスというものを認めがたく、仕組みを理解しないと使う気になれないのではないか。一方、分数の足し算もできない子どもたちにとって、仕組みなんて難しいことを知りたいなんていう気持ちはもともとなくて、世界はブラックボックスだらけなのだからいっこうにかまわない。

これは携帯電話についての記述。


思考というものは、ただ言葉を論理的に使うことだけではない。その人が経験によって獲得してきた体と言葉の両方を使って、世界の姿を考えたり再現したり、世界と自分との関係のあり方を考えたりそれを実践したり、自分が関わる物が世界のどこに位置すればいいのかを考えてそれを実践したり・・・などなどが「思考する」ということだ。


次男がこのまえ話していたのは「思想するだけの人ってなんかやだなーあんまり好きじゃないかも」というようなことで、ちょっと鋭いんじゃないかと思ったんだよね。


若くて賢いと頭でっかちになって、すっごく色々考えているんですよ!というふうになったり、ムダにこの世の中を憂いたりするけれど、経験が伴ってもっと広い視野を持っている人はあんまりそういうふうにはならないんじゃないかと思う。


でも今の自分からすると、その浅くて薄っぺらい考えすら若さゆえのまぶしさに感じる。まぁ、あまり巻き込まれたくはないけど。自分だってそんなもんだったんじゃないかと思うし。



このくらいにしておこう。


最初の1冊にしてはめんどくさい本を選んでしまった!むっちゃん(仮名)は忙しいだろうから読まなくていいよ、へーこんな作家もいるんだなーと知ってもらえたら。



ではまた!!


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