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FRBの歴史的な発表?


 8月末に開催されたジャクソンホール会議の中で、米連邦準備制度理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長が、約30年ぶりとなるFRBの金融政策の方針変更という歴史的な発表を行いました。これによって長期的に、米国経済はもちろん、あなた資産運用とポートフォリオにも大きな影響があるはずです。このニュースについて、以下の3点からお伝えしたいと思います。

1. 具体的に何が発表され、それがなぜ重要なのか。
2. 米国の金融市場にはどう影響があるのか。
3. 上記を踏まえた上での資産運用、ポートフォリオについてのアドバイス。

 さっそく1番目の「何が発表されたのか」から始めましょう。そもそもジャクソンホール会議とはどういうものなのか。これは米国ワイオミング州のジャクソンホールで毎年8月に開催される、カンザスシティ連邦準備銀行が主催する経済政策シンポジウム。ここに各国の中央銀行総裁たちが集まり、今後の世界経済や金融政策について議論が交わされます。今年は8月27日(木)に開かれました(新型コロナウイルスの影響でオンライン形式)。

 この会議では、今までも、マリオ・ドラギ(第3代欧州中央銀行総裁)やジャネット・イエレン(第15代FRB議長)などが、さまざまな重大ニュースを発表してきた前例があります。そうした中、今回、FRBのパウエル議長は、大きく分けて2つのことを発表しました。

1つは、インフレのさらなる容認。インフレ率を平均2%という目標に近づけるようにするため、一時的に2%を上回る物価上昇を受け入れるというものです。これは事前にある程度予測されていました。

そしてもう1つが、雇用の最大化についての政策方針の修正。これまでは「雇用の極大レベルからの乖離(deviations)」を考慮して政策決定がなされるとしていたものを、「雇用の極大レベルからの評価 (assessment)」へと表現を改めました。これが何を意味するのか、後ほど説明したいと思います。

 その前に改めて歴史を確認すると、米国の中央銀行にあたるFRBの設立は1913年。そして1977年に連邦準備改正法で当初の方針を修正。新たに雇用と物価の2本柱を重視するように定められ、これらは「2つの責務(デュアル・マンデート)」と呼ばれています。ちなみに、改正法で記載された設立目的は「最大雇用の達成」「安定した価格」「長期金利のコントロール」の3つですが、後ろ2つは共にインフレ(物価)と関係があって似ているため、まとめて2つの責務と認識されています。

 その上で先のパウエル議長の発表を見てみると、1番目の項目、短期的にはインフレ率2%以上を容認することは、「安定した価格」「長期金利のコントロール」に該当。そして2番目が「最大雇用の達成」への言及で、それに関する政策方針の変更が発表されたことが、重大な意味を持っているのです。

 では、この方針転換が一体、何を意味するのかを考えてみます。従来のFRBの金融政策では、雇用が減った(失業率が上がった)場合は金利を下げ、逆に雇用が増える(失業率が下がる)と金利を上げていました。イエレン前議長も2015年秋ぐらいから短期金利を上げ、2年ぐらいまで続けていました。これは当時、米国の雇用率が高かったため、大きなインフレになる前に少しずつ金利を上げて、調整を図っていたわけです。

しかし今回のジャクソンホール会議での発表によると、今後はFRBの長期的なポリシーとして、もし雇用率が大きく改善したとしても、まだ下がる可能性があると評価すれば、金利は上げないでしょう。乖離(deviations)より評価 (assessment)で結論を出すということです。つまり金融緩和について、これまで以上に積極的に支持する姿勢を見せたのです。このよりリフレーション的な政策方針への転換が、市場に大きなインパクトを与えると私は思っています。


 そこで2番目にお伝えしたいのが、「これが米国の金融市場に具体的にはどう影響してくるのか」です。

米国を代表する株価指数、ダウジョーンズとS&P500について比較すると、ダウジョーンズで多いのが工業株、金融株、一般消費財株で、少ないのがテック株です。この点を理由として、現在、パフォーマンスに大きな違いが出ています。コロナショックがあったにもかかわらず、今年になってS&P500は約20%も上昇、一方、ダウジョーンズは8.5%ほど。これが2つのセクター(業種)のウェイティングの差によるものなのです。

 ところがFRBの金融政策転換によって、長期的にリフレーションとなる確率が上がった米国において、これから最も恩恵を受けるセクターは何か。それは金融株です。あるいはエネルギー株、コモディティ株になります。

 歴史的には、安定した2%程度のインフレになれば、エネルギーやコモディティの価格が上昇しやすくなり、株価も上がる傾向があります。一方、多くのアメリカ金融機関は短期的にFRBなどからお金を借り、長期的に、例えば住宅ローンとして顧客にお金を貸し、この利鞘を主な収益としています。リフレ(インフレ誘導)では長期金利が上がる可能性が高まり、短期金利と長期金利の差がもっと開き、金融機関にとっては大きな恩恵となるわけです。

実際にチャートを見ると、このニュースが発表された木曜日。米長期金利(米国債10年利回り)に大きなパフォーマンスがありました。8月にボトムを着けた後、ジャクソンホール会議でインフレ容認が発表される期待によって一度上昇し、それから少し下げた後、もう一方のサプライズニュースによって大きく上昇したのです。

またセクター別に見てみると、同じ数日間ではテック株とリテイル(小売業)株、一般消費財株はほとんど動きなし。これは一つには、すでにかなりのパフォーマンスを出していて、コロナショック前の価格まで上がっていることが理由。そしてもう一つには、お金のローテーションが起こってるのだと思います。どこに動いているかというと、一つが金融株です。チャートを見ると、ジャクソンホールでパウエル議長が演説された木曜日に金融株(XLF)は約1.5%、金曜日に約0.5%と2日間で2%ほど上昇。ボリュームもそこそこありました。そしてもう一つ、エネルギー株(XLE)も金曜日に1.8%ほど上昇しています。

この2つのセクターは、コロナショックからの回復がまだ十分でありません。逆に言えば、今後、価格上昇の余地が大きいということです。従って大きな投資機関は、長期的にテック株、リテイル株、一般消費財株の株を売って、金融株、エネルギー株を買うといったポートフォリオのローテーションを行うと思います。これこそが今回のFRBのリフレ政策への転換がもたらすであろう、米国の株式市場への具体的な影響なのです。

 最後に3番目として、以上を踏まえて、私からの資産運用に関するアドバイスをお伝します。しかしもちろん、投資は自己責任。最後は自分の判断で決めてください。

もし、あなたが米国のテック株やリテイル株、一般消費財株を保有しているのであれば、大型投資機関と同様に、長期的視点として、それらを金融株、エネルギー株、あるいは場合によっては工業株に少しローテーションをして買い換えるのをお勧めします。また、すでにXLFなど金融株を持っている場合は、米国債10年利回りの動きを参考にして、まだ上昇傾向にあるうちは、しばらくは保持したままでいいと思います。


高橋ダン
令和2年9月8日

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