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新産業づくりはまち、ひと、社会づくり

2/24(木)に行われた Industry-Up Day Spring 2022 のテーマセッション2、新産業づくりはまち、ひと、社会づくり - リビングラボというイノベーション - の内容を簡単にご紹介いたします。登壇者の紹介については以下のnoteをご参照ください。

キーノート、およびテーマセッション1で、新産業創出のための「共創の場」が必要だという話をしてきました。その具体的な事例として「リビングラボ」というものがあります。リビングラボとはどんなものなのか、どうしてリビングラボがいいのか、どうやったら作れるのか、どうやったら活性化できるのか、といったところを本セッションでは掘り下げていきます。

リビングラボについては、半年前の Industry-Up Week Autumn 2021 でも紹介しているので、こちらも合わせて紹介しておきます。

なぜリビングラボが必要なのか

リビングラボというのは、生活空間を実験場所とすること。新しく考えた商品アイデアを実生活の中で使ってみる、そうした実証実験の場です。これはイノベーションを起こすために必要不可欠なファクターですが、こうした場作りを推進しようとしても「それって儲かるの?」などと聞かれて、なかなか進まないのが現実です。

今の時代「両利きの経営」が大事と言われていて、知の探索と深化を進める必要があります。しかし実際に多くの企業では深化ばかりに取り組んでいて、探索が全然足りていません。どうやったら新しい知の探索ができるか、そのためのアンテナを張れるのか。

たとえば副業する、越境する。バウンダリースパナーという言葉がありますが、境界を越えて組織/個人をつなぎ、縦横無尽に組織行動に影響を及ぼす者になることです。つまりSUNDREDのかかげる「インタープレナー」「越境人材」そのものですね。

しかし、そうした人々がバラバラなままでは新しいものを生み出すのが難しいので、「場」が必要になります。自分の会社での肩書を外して対話する場所。社会の実生活に関する仮説を立てて、社会に実装するためのプロトタイピングをするための場所。大企業でも「フューチャーセンター」のような名前で、そういう場を作るケースが少しずつ増えてきています。

こうしてイノベーションを起こす価値観は生まれるようになってきました。しかしそれがなかなか社会実装されていかない。実際にモノにしようとすると壁があって、頓挫してしまう。それは、社会実装のための実証実験をする機能が足りていないからではないでしょうか。だからこそ、リビングラボが必要なのです。

https://twitter.com/kibiyurie/status/1496575090254831616

オープンイノベーションは、研究所から生活の場へ。仮説を仮説で終わらせず、他人事にせず、繋げていく。個人の、個社の力では複雑な社会は変えられないけれど、そこを越境人材が繋げて解決していくのです。それがリビングラボです。

各地域での取り組み

こうした新しい取り組みは、東京で始めようとしても関係者が多くて、課題も複雑で、なかなか難しいです。そこで、地域から始めると、新しい価値も作りやすかったりします。実際にリビングラボに取り組んでいる事例を2件紹介します。

秋田ノーザンハピネッツ

秋田に縁もゆかりもないところから、ゼロからプロバスケットボールチームを立ち上げ、11シーズン連続黒字。今ではスポーツを軸に秋田県と街づくりについて話を始めている。たとえば街のシンボルとなるような、いろんな人が集うアリーナを作りたいという提案をしています。

他にも、みんなのテーブルというこども食堂を常設。農家の直売所と提携して食材を提供してもらっています。しかし食材が偏ったりする課題をどう解決するか。公共性が強い中で、どう事業を成り立たせていくか。こうした、スポーツをきっかけにした地域づくりを模索しています。

長野ITコラボレーションプラットフォーム NICOLLAP

「長野に魅力ある場を作る」ということだけを決めて、具体的な計画を作らずにスタートしました。長野市には善光寺という観光スポットがあり、その門前町をどうしていくか考えています。オフィスを作って地元の方々を集めてワークショップをしたり、外国語の先生を集めてミートアップの場にしたり、行政とコラボしてソーシャルアントレプレナーを集めて、新しいことにチャレンジしたい人たちの旗印となってきました。

具体的な実践事例はまだないけれど、門前町でリビングラボを進めている中で、いろんなポテンシャルがあると感じています。インタープレナーだけで運営していて、副業的に関わる人が増えたので、そのときに報酬の基準などは悩むところ。

企業の関り方について

リビングラボのような働き方は、まだまだ個人の裁量で黙ってやっているグレーゾーンも多いです。個人の熱量だけで、個人がリスクをとって実証実験に参加している。これでは大きな事業・産業にまで発展させられません。企業にどうやって参加してもらうのがいいか、そこのモデルを作りたい。

なんとなく価値を生んでいるけれど、それをどう評価したらいいか分からない。大企業は株主へ説明してコンセンサスを取る必要があるなどの難しさもあります。アイデアを持っていくのに知財権はどうするか、もらったアイデアはどう扱うか、どこまでが活動経費として認められるか、etc.

これを突き詰めていくと、その会社が何のために存在しているのか、という話になる。20世紀社会であれば、ハイスペックのパソコンを作るとか、パッケージ化された食品を作るとか、シンプルな目的で良かった。けれど21世紀社会ではそのあたりが満たされて、ウェルビーイングとか地球規模の課題解決とか、そういったところを目指すようになってきた。従来の企業の動き方だととてもたどり着けない、企業の枠を超えた活動が必要になる。

企業が提供しているものは部品でしかなく、それをどう組み合わせて、どう経営していくか。もはや企業そのものが部品であり、大きな中心となる目標に対してどのように関わっていくか、という「パーパスモデル」が重要になってきます。

パーパスモデル

このモデルを使うと、どんな人がどんな思いでどう関わっているかを、みんなで見て評価できます。隣の人の本音が見えるようになって、みんながどういう方向にむかっているかが分かります。対話して、この方向に行こうとすり合わせることができます。

ただ現状では、個人が掲げたパーパスに企業がタダ乗りする形になりかねません。個人がリスクを取って情熱をかけてつかんだパーパスをしっかりと評価して、グレーゾーンの活動をオープンにしていくこと。個人のリスクを軽減して、活動を担保してあげること。そうした役割が企業に求められてくると思います。

視聴者の意見

企業による熱量の搾取は確かにある。コミュニケーションコストの高さを、個人の熱量でカバーさせるな!と言いたい。

報酬をくれとは言いませんが、経費の自由度はもう少しいろいろと認めてもらいたいところです。

上司の言うことを聞くのが社会人という感覚が厳しすぎて、上司の認定しない活動は許さん、というのをやめた方がいいなと思っています。

経済産業省がときたま「経営人材」「産業人材」といったレポートを上梓していますが、広まっていないんですね。『組織の論理』は『あなたは私の言うことを聞きなさい、その代わり対価を与えます』という捉え方をしているので、『組織の論理』に代わる論理が必要になりますね。

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