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「なぜ友は死を選んだのか。答えは見えない」自殺志願者に寄り添う僧侶の原点

「もう駄目です。消えたい。もう終わりにしたいです」。そんなメッセージをスマホに送ってくる自殺志願者の悲痛な声に耳を傾け、寄り添い続けようとする僧侶がいます。岐阜県関市の住職・根本一徹さん(46)。14年間にわたって自殺防止活動に取り組む根本さんの日々の生活が、『いのちの深呼吸』という名のドキュメンタリー映画となりました。(亀松太郎

※この記事は2018年9月10日、ひとりを楽しむメディア「DANRO」で公開されました。

米国の女性監督がドキュメンタリーを撮影

根本さんのもとには、さまざまな悩みを抱えて人生に行き詰まり、「死にたい」「生きている意味がわからない」と訴えるメールや電話が、全国から寄せられます。その声をていねいに聞き、ときにはバイクや新幹線で、死に急ごうとする人のもとに駆けつけて、同じ目線で語りかけます。

「死んでしまったら、悩みが報われない。周りの人には辛さしか残らない。なんとかそこは手助けして、光を見つけてほしいと思って、こんな活動を続けています」(根本さん)

ドキュメンタリー映画『いのちの深呼吸』(C)DRIFTING CLOUD PRODUCTIONS LLC 2017

そんな根本さんに注目したのは、米国のニューヨークを拠点にドキュメンタリー映画を製作しているラナ・ウィルソン監督。

「どのようにして自暴自棄の人を説得し、一歩前に進み出させているのだろうと疑問が湧き、生死を賭けた会話の空間に行ってみたいと思った」

という新進気鋭の女性監督は、繊細なタッチで根本さんの言葉や表情をとらえ、その心の動きを伝えます。

映画で印象的なのが、根本さんが自分の寺で開いている「旅立ち」という自殺志願者向けのワークショップのシーンです。「自分がこの世を去るとしたら、何を残したいですか」。参加者たちに問いかける根本さん。小さな何枚かの紙片に大切な人やものを書かせたうえで、1枚ずつ、ぐしゃぐしゃと丸めて捨てさせます。

最後に残った紙には「子供」「母」「思い出」といった、各自にとって一番大切なものが書かれています。深刻な表情で紙を見つめる参加者たち。しかし、それも捨てなければいけません。その紙が捨てられたとき、根本さんが「すべてを失ってしまいました。これが死です」と参加者に告げるのです。

ドキュメンタリー映画『いのちの深呼吸』(C)DRIFTING CLOUD PRODUCTIONS LLC 2017

辛い体験を語り始める参加者たち

ワークショップでは、参加者同士で語り合う時間も設けられています。「みんな、話しているうちにいろいろ出てきますね」と根本さん。それぞれが心を開いて、辛い体験を語り始めるのだそうです。

「先日は、自死遺族で子供を亡くしたという方がいました。1人が話すと、『実は私も』と続く人が出てきます。『DVで子供を虐待してしまうんです』と告白する人がいると、『夫からDVを受けて死にかけた』という女性が出てきたり。ふだんはひた隠しにしていることが、何かのきっかけで、次から次へと出てくるんですね」

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