見出し画像

ヒュゲ Hygge について

「ヒュゲについて説明するのは、難しい」とデンマーク人は皆、口を揃えて言います。それでも説明してみてと頼むと「うーん、一言では言えない」、「外国人に説明するのは難しい」などと一拍置いてから、大抵の人は「親密な人達との楽しいお喋りの温かな時間、かな?」と言います。ちょうど日本語の「侘び・寂び」のようにいろいろな背景があっての言葉なのでしょう

7-8年前くらいから世界でブーム」になったこの「ヒュゲ」という言葉、確かに、デンマーク人は一日に何回も使います。ヒュゲリな時間だった、ヒュゲを楽しんできてね、というような使い方をするのですが、彼らのライフスタイルにおいて、ヒュゲがあればあるほど幸福感が増すようです。

 日本でも最近はこの「ヒュゲ」という言葉が知られてあちこちで使われるようになり、嬉しく思います(日本語では発音と離れて「ヒュッゲ」と表記されることが多いようです)。でも、ときどき、あれ?と思うような使い方をされているときもあります。「ヒュゲな時間にぴったりのノート」や「ヒュゲ・パーティーにぴったりの部屋」などは「うーん、ノート?パーティー?」と思ってしまいます。
では、デンマーク人も説明しがたいというこの「ヒュゲ」とはいったい何なのか、改めて見ていきたいと思います。 

まず、「VisitDenmark」というデンマーク観光局が海外からの旅行者向けに出しているサイトで、どのように「ヒュゲ」が説明されているかを見てみました。

・「ヒュゲ」とは室内で温かい雰囲気を作り出し、良き人々と人生における「良いこと」を楽しむこと。例えば温かいキャンドルライドの光や、愛する人と一緒に映画を見たりすること。

・人生において、親しい友人達や家族と座って、大小様々なトピックについて、楽しくディスカッションするが最高の「ヒュゲ」。

・恐らく「ヒュゲ」によって、デンマーク人が世界で最も幸せな国民になれている。

なるほど、やはり「親しい関係」「温かい雰囲気」「楽しい会話」というのがキーワードのようです。そして、「ヒュゲ」にはハイシーズンとオフシーズンがあるようです。

・「ヒュゲ」のハイシーズンは何といってもクリスマスである。デンマークの冬は長く暗いため、デンマーク人は何百万もの溢れるキャンドルの光と共に、この「ヒュゲ」という「最強の武器」で闘うのである。クリスマスシーズンにはチボリ(コペンハーゲンの有名な遊園地)や街の通りで、美しいライトアップとグルッグ(甘いホット赤ワイン)と大きなマフラーとブランケットと共に、デンマーク人は「ヒュゲリ」に過ごす。(お、外でもいいのね。)

・でも、もし夏にデンマークに来るとしても落ち込むには及びません。「ヒュゲ」はその気になれば、どこにでも存在するのだから。公園でのピクニック、友達とのバーベキュー、野外コンサート、ストリート・フェスティバル、そして自転車、ボート・・・。何でもです!

こうなるとちょっと外国人には意味不明、「え、どういうこと?」となります。

私なりに解説しますと、デンマークの「ヒュゲ」にはまず背景として、「とても悪い天気」というものがあるのだと思っています。デンマークの冬は寒く厳しいため、人々が屋外であまり楽しめることがなく、温かい家の中で楽しく過ごすのが何よりとなります。もちろんいつも一人ではつまらないので、楽しくお喋りをできる家族や友人と良い時間を共有すること、それが「ヒュゲ」の基本形なのです。

私も閉鎖的な暗い冬のデンマークに行くと、「ヒュゲ」を実感していました。美味しいものを食べたり、コーヒーやワインを飲んだり、ソファでくつろいだりしながら、夫の家族の昔話を聞いたり、友人宅でテーブルに集まり、笑える面白い話を披露し続けたりするのは、本当に心が満たされる「ヒュゲリ」な時間だといつも思いました。対話や楽しいディスカッションを通じて、お互いの「心」が通じ合う、そういう充実感がありました。それは確かに人生のとても幸せな時間だと感じました。日本でも友人同士で集まり、楽しい会話をするといった団欒がもちろんあります。ただ何が違うのかというと、デンマークの「ヒュゲ」の背景の部分には厳しい自然環境と深く刻まれた個人主義の存在があるのかなと思います。

さて、夏のくだりの方ですが、なんだか面白い言い方をするなあと私は思いました。正直なところ、もしデンマークに行くなら、私は一点の迷いもなく夏をお勧めします。東京のような湿気はなく、どこまでも爽やかな北欧の夏! いろいろなイベントも目白押しで、楽しいことこの上ないと思います。デンマーク人にとっても、待望の夏です。
そして、実際デンマーク人は、ここでデンマーク観光局が挙げているような夏の楽しみ方をし、何をしても「ヒュゲリだった!」と彼らは喜びを全身全霊で表して言います。
ここで定義がちょっと揺れて、外国人にはわかりにくくなってしまいますが、「家族や友人と親密な楽しい時間を過ごして、人生の幸福感を味わう、だからヒュゲ!」ということなのでしょう。

「ヒュゲ」は誰かと一緒に楽しむもの。心地よい空間、温かい光、飲食、そして何より楽しい対話、それが「ヒュゲ」です。大騒ぎや騒々しいパーティーは「ヒュゲ」ではありません。それから私の義母はよく「一人でヒュゲをしている」という言い方をしていました。キッチンの窓辺のテーブルで、コーヒーを飲みながらクロスワードをしたり、本や新聞を読んだりする時間は彼女にとって「自分との楽しい対話」の時間で、それは彼女にとって最高の「ヒュゲ」でした。他人が介在しないとヒュゲではないという説が一般的のようですが、私は何となく義母の自分との対話の時間の幸福感がわかり、私も「一人ヒュゲ」が好きです。

さて、「VisitDenmark」に戻りますと、面白いことが書いてあります。
「ヒュゲはもともとはデンマーク語ではなく、古いノルウェー語から来ており、それは『ウェル・ビーイング』という意味であった。18世紀の終わりに初めてデンマークで使われ、以来、デンマーク人は非常にこれを大切にしている」とあります。ヒュゲの語源はhyggjaという古ノルド語だそうですが、ノルウェーでは今は「ヒュゲ」ではなく、「コーシェリKoselig」と言います。 


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?