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小鳥とバラ<童話> #1.

まぶしい日差しを受けて、透き通った朝露がキラキラと輝き、葉っぱの上で重そうにゆれています。やがてその重さに負けてぽたりと落ちました。そのしずくが朝寝坊の小鳥たちを起こします。そんな平和な小さい森が小鳥たちの家族が住んでいるところです。
小鳥はやさしいお父さんとお母さん、そして弟と一緒に大自然の恵みを受けて、幸せに暮らしていました。
しかし、小鳥はもっと広い世界を望みました。
ついに、愛する家族の引き止めも聞かず、小さな森を捨て、広い世界へ旅立つことになりました。

小鳥は何日も空を飛び続けました。山を越えて、谷や川を渡って、冷たい風、強い雨、暑い太陽の中を飛んで行きました。自分の体より何倍も大きな鳥に襲われたり、何度も危険な目に合い小鳥はやっと広い森へとたどり着きました。
それは小鳥の住んでいた小さな森とはくらべものにならないくらい広くて大きな森でした。小鳥は胸がわくわくするのを押さえ切れませんでした。
楽しそうな音楽が聞こえる美しい森の中へ入ってみると、陽気に歌いながら踊る動物たちが見えました。小鳥はこの森にひと目で心を奪われてしまったのです。

小鳥はここに住むことを決心しました。
すると大きな柏の木の上に巣作りにぴったりの場所を見つけました。
「ここがいい!」
小鳥は木の枝を一生懸命集めてきて、素敵な家を作りました。でもその時、意地悪なキツツキが突然現れて鋭い口ばしで薄情にも小鳥を突き始めました。
「よそものは出ていけ!」
せっかく作った小鳥の家は柏の木からぽとりと地面に落ちました。
諦めて別の場所を探しました。
今度は高い銀杏の木を見つけました。すると木の穴からリスの親子が出てきていいました。
「ここは私たち親子の家よ!」
小鳥は悲しい気持ちで飛び立ちました。
森の中をさまよい、とうとう自分の家を見つけました。それは森の隅っこでだれも来ないヨシの畑の上でした。荒れた果てた畑に落ちていた木の枝とわらで小さな家を作りました。それから小鳥は毎日森の中で遊びました。

時間が経って季節が変わりました。冷たい雨はいつの間にか雪に変わりました。大きな美しい森にも寒い冬がやってきました。長い間この森に住んでいる動物たちは冬を迎える準備をそれぞれの方法で始めていましたので、つらい冬も家族で楽しく過ごしていました。

一方、森の隅っこで乾いて死んだヨシの畑の暗いところに小さい巣でとても寒くてくたびれた様子の小鳥が見えます。大きな夢を抱き、期待に胸を膨らませ美しい森へやってきたあの小鳥でした。
小鳥はひとりで悲しい声で鳴いていました。この森は自分が思っているほど、よい森ではなかったみたいです。楽しそうな音楽と活気あふれる動物たちの踊りはあったけれども、日が沈んで暗くなるとみんな自分の家に帰ってひとりぼっちになるのはいつも小鳥だけでした。
小さいけれど、暖かかった故郷の小さい森に戻りたかったのですが、後悔してももう間に合いませんでした。故郷までは遠すぎて、疲れきった小鳥には帰る力がなかったのです。

小鳥は何日も食べることができず体がふらふらになりました。冷たい突風が小鳥の頬と心をかすめて行きます。
やがて雪が止んで森に少しずつ春の気配が訪れました。
森の真ん中では相変わらず騒がしい音楽や歌声が聞こえてきました。
小鳥は後悔の涙を流しました。星の光に輝いた小鳥の涙が夜の闇の中、美しく浮かびました。
そして小鳥はぱたんと横に倒れました。希望に満ちた熱い胸は冷たくなり、呼吸はどんどん遅くなりました。黒く輝く瞳がまぶたによって閉じられました。熱い小鳥の涙の最後の一滴が冷たいヨシの畑の土の奥深くへ染み込みました。
「お父さん、お母さん、みんなごめんね。愛しているよ…」
そうつぶやいた後、小鳥は二度と動かなくなりました。
春に嫉妬するかのように薄い雪が降り始め、小鳥の体にふんわりと積もりました。
風が吹いてきました。

<続きは最終回となります。>

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