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小鳥とバラ<童話>#2.最終回

春の日差しが雪を溶かし、小川の水となり、森の奥の山の谷から流れてきました。乾いた木の枝にも淡い緑色の若葉が生まれて茶色の森は緑色に変わりました。

そして、枯れたヨシの畑の土の中でも新しい命が生まれようとしていました。
その芽は土を掻き分け、陽の光を浴びてぐんぐん伸びて、ついに美しい赤いつぼみをつけ、やがてバラの花を咲かせました。ピンクの花びらはまるで恥らう乙女の頬のようで見るものに喜びと幸せをもたらしました。バラは森で一番美しく咲きました。

バラはどうして自分がこんなに荒れて、乾いた土地の中で咲くことができたか不思議でした。そして風の精から小鳥の話を聞きました。飢えと寒さ、そして孤独の中で死んでしまった小鳥の熱い涙が自分を咲かせてくれたという事実を知りました。森の中でもっとも乾いた土の奥深くで眠っていたバラの種に温かい何かを与えてくれた小鳥のことを。

バラはとても感動しました。そして小鳥がかわいそうでなりませんでした。
「かわいそうな小鳥に恩返しをしたい」バラは何日も考えた末、青空に向かって風を呼びました。
「風の精、一生のお願いがあります。私に新しい種ができたらあの山と谷と川の向こうにある小さい森へ運んでください。どうか、お願いします」
「この森で一番美しくやさしいバラの頼みを断ることができましょうか。きっと届けてみせましょう。」
低くてやわらかい声で風が応えました。

バラは小さい森まで種が届くようできるだけたくさんの種を作りました。そしてがんばりすぎたバラは病気になってしまいました。
一方風は、種たちをできるだけ遠くへ飛ばしました。あの小さい森へ届くように…
風は何度も何度も種を飛ばします。力尽きた最後、肥えた土地に種を届けることができました。

バラの種たちはまた芽を吹き、花を咲かせた後、またたくさんの種を作り、その種を風が運んでいきました。たくさんの種が高い山、深い谷、広い川を風に運ばれ飛んでいきましたが、小さい森にたどりついたのはたった3粒の種でした。

3つの種のうち、1つ目は土に深く埋もれてしまいました。2つ目は芽を出しましたが、狐に踏まれてしまいました。一番遅く芽をだした3つ目の種は元気に育ちました。
種は小さな森の中で一番美しいバラとなりました。バラは恥らう乙女のような微笑みで静かに時を過ごしました。

ある夏の日、食べ物をさがしてさまよう年老いた1羽の鳥がバラを見つけてやってきました。バラと鳥はすぐに仲良くなって、お互いを助けながら暮らすことになりましたそしてある日、とうとう年老いた鳥が最後の日を迎えることになりました。
「ひとりぼっちのわしの友達になってくれて、とても幸せだったよ。ありがとう…最後に幼いころに家を出たお兄さんに会いたい…」鳥はゆっくりと話しました。
バラはやっと気づきました。自分の友達のこの年老いた鳥が、風の精が話してくれたあの小鳥の弟であったことに…

バラはかわいそうな小鳥の話を年老いた鳥に聞かせました。
「ああ、神様ありがとう…バラよ、ありがとう…お兄さんに会えたような気がする。とてもうれしい…ありがとう。さようなら…」
「鳥のおじいさん、私のほうこそありがとう。さようなら。きっとまた会いましょうね。」
バラもやさしく応えました。
年老いた小鳥は眠るように息を引き取りました。

その日の夜、バラは夢を見ました。
小鳥の兄弟が再び会って、青空の中踊るように舞い飛ぶ姿をバラが微笑みながら見守る夢です。
<終>

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