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Z世代は米大統領選でどう動いたのか?

今回の米国大統領選挙で、期日前から特に注目されていた層といえば「Z世代」でした。筆者もZ世代当事者であり、今回の大統領選に有権者として参加しました。以前、Z世代と米大統領選を取り上げる際にはどのような点に考慮すべきかについて以下のように書きました。

「現実的な感覚として、(1)バイデンにもトランプにも投票したくない(2)バイデンを支持しているわけではないがトランプを再選したくない(3)トランプの支持者 という3パターンに分かれているうち、Z世代は(2)がマジョリティでありながらも一定数の過激な(1)と(3)が同数くらいに存在している印象で、(1)はいわゆる「Z世代的価値観」に当てはまるのですが(3)は南部の保守派コミュニティに多く、世代はあまり関係ありません。」

では、この「Z世代的価値観」とは何か?そのことについては以下の記事で4項目(多様性とアイデンティティ、アクティビズム、反資本主義的な政治観、ジェンダー・セクシャリティについて)に分けて分析しました。

投票日前にはZ世代のアーティストや著名人がSNSで「Vote him out」(トランプを負けさせよう)という呼びかけを行ったり、とにかく投票に行くことの重要性を著名人だけでなく、一般人も同世代に向けて様々な選挙に関するリソースをシェアしていた。特に活発な動きが見られたのはTikTokで、そのことについてはまた「ポップカルチャー」とのつながりを含めて、別途記事を書こうと思います。

今回の大統領選で、Z世代はどのような結果を残したのか?Z世代に注目した米国メディアの記事を引用しながら紹介します。

1) Z世代の投票傾向

Z世代の全体的な投票傾向としては、他の年齢層よりもバイデン支持率が高かったことや、有色人種の人口が占める割合が他の年齢層よりも高く、白人のZ世代との間で異なる投票傾向が見られたことが挙げられる。

「現在8歳から23歳までの世代であるZ世代は、大統領選で重要な役割を果たした。NBCの出口調査によると、18歳から24歳までの65%がバイデンに投票したことを示唆している 。他のどの年齢層よりも11%多い。

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ジェネレーション・プログレスのエグゼクティブ・ディレクターであるブレント・コーエン氏は、”Z世代もミレニアル世代も投票世代です。予備データによると、実際、今回の選挙はこれまで見た中で最も若者の投票率が高い選挙だった。”


”Z世代の有権者は今回の選挙に非常に熱心でした”と、アメリカン・エンタープライズ・インスティテュートの上級研究員であるカーリン・ボウマンは言う。"若者の選挙への参加レベルと興奮度を高めているのは様々な要因があるが、ジョーバイデンが好きであっても本人ではない。、全体的にジョー・バイデンが好きなのは確かです。彼らはジョー・バイデンに投票するよりも、ドナルド・トランプを敗北させるために投票していたのです。"

ローゼンバーグ氏は、今年の歴史的な若い有権者の投票率の高さは、様々な動機が引き起こした結果だという。

"一つのことではなく、一連の出来事による影響が大きい。コロナウィルスの経済的、物理的な混乱や気候変動は若者にとって大きな問題です。今年の春と夏に見た抗議行動は、本当に多くの若者を初めて政治活動に向かわせました。また、パークランドで起きた銃乱射事件も、多くの若者を政治活動に引き込んだと思います。つまり、学校で子供が殺されることは、今では動機付けになっています。”

コーエン氏によると、若い有権者の最大の関心事は、コロナウイルスのパンデミックの公衆衛生と経済だったという。

"同時に、社会的平等と制度的人種差別が若者にとって圧倒的に最も高い関心を集める問題です。そしてこれは、今年初めに起こった人種的不公平に対する運動(Black Lives Matter)を80%以上の若者が支持したという事実に反映されています。"

Clean and Prosperous Americaのリサーチ・ディレクターであるビル・マクレーン氏は、Z世代の有権者が最もユニークなのは、彼らが相互に関連した問題に対してアプローチしていることだという。

"すべての調査を見直し、若い有権者の話を聞いていて興味深いのは、彼らがこれらすべての問題の関連性を認識しているということです。これらの社会問題はすべて相互に絡み合っており、若い有権者はこれらの問題の一つ一つに取り組むことに対して、よりプログレッシブな態度をとる傾向があります。"

Z世代の人種構成も特徴的だ。

"ミレニアル世代は、米国の歴史の中で最も多様性に富んだ世代でした。そして、Z世代は米国の歴史の中でさらに多様性に富んだ世代であり、有権者の選好にもそれが表れていると思います。”とコーエン氏は言う。

出口調査によると、白人の18歳から29歳の若者の53%がトランプ氏に投票しており、白人の若い有権者はトランプ氏を不釣合いに支持している。

しかし、アメリカの若い世代のより大きなシェアを占める若い黒人とラテン系の有権者のはるかに大きな割合は、これまで以上に、バイデンに投票した。

"有権者の人口構成は変化しており、特に人種的にも民族的にも多様性のある若者の間でそれが顕著に表れている”とボウマン氏は言う。"アフリカ系アメリカ人とヒスパニック系アメリカ人は、全体的に白人よりも民主的な傾向があります。そして、人口に占める白人の割合は減少しています。」

2) デジタルを通したZ世代とのエンゲージメント

トランプ氏の選挙ラリーにイタズラを仕掛けるようにTikTokで若者たちが呼びかけたことが一時話題になったが、Z世代同士で選挙に行くことを促すこと以外に、政治家本人たちもSNSやオンラインでの繋がりを通して有権者とのエンゲージメントを大いに図った。また、リベラル派のAOCなどが共和党と民主党双方の問題点を指摘したり、若い世代と密接に関わることでその声を政界に届け、政治との関わり方を若い世代に伝達する役割を行なっていた。

「2016年の大統領選挙以来、新たに1500万人のZ世代の有権者が投票登録し、今年の選挙シーズンの重要な人口層となり、ソーシャルメディア上でこれまで以上に強固な政治的発言力を持つようになった。Instagram、Twitter、TikTokは、若い有権者が希望する候補者への支持を示すプラットフォームであるが、一方で政治家はオンラインで若い有権者に呼びかけるため新たな方法を見つけようとしている。

Z世代とは、1990年代半ばから後半にかけて生まれた世代で、ミレニアル世代の後を継ぐ世代のことである。彼らは歴史上最も人種的、民族的に多様な世代の一つであり、スマートフォンやSNSを通じたデジタルコミュニケーションが増加した時代に生まれた世代であり、それは彼らの政治的な組織化にも反映されている。

"全体として、Z世代は歴史上最も進歩的な世代であり、ジョー・バイデンは若い有権者の大多数にとって十分に進歩的ではないことは明らかだ "と、政治的コミュニケーションを専門とするUCSBコミュニケーション学科の助教授ダン・レーン氏はネクサスとのインタビューで語った。

バーニー・サンダースやエリザベス・ウォーレンのようなプログレッシブな民主党の候補者を支持していた多くのZ世代の有権者から"settle for Biden"(バイデンに妥協しよう)というレトリックが出てきている。当初は左寄りの有権者の間で使われていた単なるフレーズだったが、大きな運動へと発展した。ウェブサイトでは、”我々はジョー・バイデンの欠点を認識しているが、ドナルド・トランプの政権をまた4年以上も我慢できない”と声を上げ、バイデンへの投票よりも、トランプに反対するための目標を持った投票が支持されている。

下院議員アレクサンドリア・オカシオ・コルテス(ブロンクスからの進歩的な民主党員)のようなミレニアるの政治家については、"彼女は一般人に寄り添い(一般人の代表であり)、どのようなプラットフォームを通して発言をするかについて真摯に興味を持っているのは理解できます。”

リーズ氏は、オカシオ・コルテス氏が最近行ったTwitch生配信を指摘する。有権者の投票率向上を奨励し、有権者と繋がるするために、人気のオンラインゲーム「Among Us」をプレイした。

年配の有権者は、SNS上でのキャンペーンの動員は難しいかもしれないが、若い有権者の多くは、SNS上だけでなく、リアルな生活の中でも政治と関わり続けている。レーン氏によると、政治家の信頼と透明性への渇望は、若い有権者にとって個人のアイデンティティと政治的見解が密接に結びついていることから、政治の新たなシフトを反映しているという。

"多くの若者にとって、政治は自己表現の一貫です。若い政治家たちはそれを理解しており、カルチャーと政治をミックスすることを恐れていません”とレーン氏は言う。」

3) 選挙の結果を受けて

バイデン勝利の結果を受けて、SNSやTikTokでは祝福する若者たちの動画であふれていた。しかしその祝福はバイデンの任期を望む声というよりも、「トランプの敗北」を祝う意味合いの方が強い。同時に、「まだこれからだ」という意気込みを明確にしている人も多い。山積みになった政治や社会問題とこれからどのように向き合っていったらいいのか、早速たくさんの議論が行われている。その政治に対する責任感や連帯感、そして強い当事者意識はミレニアル世代の「絶望感」と対比で語られることも多い。

副大統領に選出されたカマラ・ハリス氏は初の女性副大統領であるということが多くの女性にとって希望やエンパワメントにもなり、同時に彼女が有色人種であるということも、特に若い世代にとって大きな意味合いを持った。もちろん彼女の政策や過去の行いに問題はあるが、それを批判し、改善を求めた上で、マイノリティの"representation"を喜ぶ声が多く聞かれた。

「(取材した中で)投票したZ世代の人は、選挙を通して彼らの声が聞かれる機会を得られたと感じたと述べ、結果に関係なく、民主主義的な活動に参加することが嬉しいと付け加えた。

バイデンに投票した人は、よりプログレッシブな理想の社会ための戦いは、バイデンが選出された時点で終わりでは決してないと述べ、人種的不公平、気候変動、移民問題のような事柄については、彼らはバイデンの責任を追求し続ける予定だと話した。

"TikTok for Biden"のメンバーであるコマル氏は、副大統領に選出されたハリスを見て、 "最高に開放的な瞬間だった"と話している。

"自分を代表してくれるような人がいることは、希望を与えてくれます。少なくとも、いつか私もああなることが可能なんだって、思えることができた。他の有色人種の女性も、いつかはリーダー的存在になることができる。アメリカで有色人種の女性として生活することは、難しいことです。人種差別と向き合わなければならない私たちからして、(自分のような人が)リーダーになれると知ることは、エンパワメントになりました。”」








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