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会社社長射殺事件公判傍聴記・2008年2月12日(被告人・町田直臣)

2008年2月12日
東京高裁第二刑事部
429号法廷
事件番号・平成19年(う)第2576号
罪名・殺人
被告人・町田(旧姓広瀬)直臣
裁判長・安広文夫

町田直臣への死刑求刑は、世間を驚かせた。殺人や殺人未遂の前科・余罪なく、計画性がない、死者一名の単純殺人で、死刑が求刑されたからである。
事件内容は、追突事故を起こした町田直臣が、事故処理の交渉中に被害者からやくざを否定されたことから怒り、拳銃で射殺したというものである。
事件の内容として死刑求刑は異例であったが、死刑求刑事件としては、公判の経緯も異例であった。町田直臣は、2007年2月22日に殺人容疑で逮捕された。地裁公判は初公判から判決まで、計四回行われた。各期日の予定時間だが、初公判は5月8日1時30分~2時30分。第二回公判は5月22日1時30分~2時30分。被害者意見陳述・論告弁論が行われた第三回公判は6月21日であり11時~12時。そして、9月11日本日の判決公判は10時から11時まで予定され、32分間で終わった。どう考えても、有期懲役事件並みの裁判日程であり、公判時間の短さである。何らかの理由で、急遽、死刑求刑が決まったとしか思えなかった。

入廷20分ほど前から、法廷前に20数人ほど並んでいたが、荷物預かりと金属探知機のチェックのため、一度エレベーター付近に出されて、チェックを受けさせられた。その後、20人ずつの列にならばされた。
町田の関係者らしき、暴力団組員風の人々が法廷に来ていたが、その人たちの中には入廷できなかった人もいた。この関係者たちは、係員に話を聞いていた。また、被告人の弁護人と、白いジャージを着た白髪の初老の男性に、何か話しかけていた。後に、一審を傍聴していた人に聞いたところでは、この初老の男性は、町田が所属していた組の組長とのことだった。
弁護人は、髪の短い青年であり、先に法廷前の廊下に入った。その後も、組長と、暴力団風の人々は、何か話し合っていた。その後、組長は一人、ボディチェックを受けていた。
遺族らしき5名が、傍聴人よりも先に入廷させられた。その後、傍聴人も入廷を許された。
傍聴席は32席あり、すべて埋まった。傍聴人は、暴力団関係者らしくない人が殆どだった。やはり、求刑内容ゆえに注目を集めているらしい。
抗争事件ではないためか、証言台と傍聴席の間に、プラスチック板は立てられていなかった。
検察官は、眼鏡をかけた中年男性だった。
裁判長は、白髪交じりの眼鏡の初老の男性。裁判官は、痩せた中年男性と、痩せた眼鏡をかけた中年男性。
被告人である町田直臣は、背筋を伸ばし、両手を膝の上に置き、被告席に座っていた。引き締まった体格の、色白の青年だった。頭は丸坊主にしており、やや眉は太い。眼鏡をかけており、一見したところ真面目そうに見える。ノーネクタイの黒いスーツ姿だった。
町田直臣被告の控訴審初公判は、13時30分より開廷した。

裁判長『そのまま立って』
町田は、被告席の所で立つ。
裁判長『名前は何といいますか』
被告人『町田直臣です!』
はきはきとした声だった。しかし、声はあまり大きくなかった。
裁判長『生年月日は』
被告人『昭和51年6月9日』
裁判長『本籍地は』
被告人『静岡県富士市(聞き取れず)』
裁判長『旧姓は』
被告人『廣瀬です』
裁判長『住所は』
被告人『静岡県富士市(略)です』
裁判長『職は』
被告人『無職です』
裁判長『座ってください』
町田は、被告席に座る。
双方が控訴しており、控訴趣意書を陳述する。控訴趣意書に対する意見は、双方の答弁書記載の通り。
弁護人が、検察官の証拠に同意したのは、9、10,11,12,13,14号証。
検察官はカセットテープ等を一審で請求しておらず、控訴審で請求する。
弁護人は、被告人の反省など、書証四通と、被告人質問を請求する。検察官は同意する。弁護人は、検察官の被告人質問について、原判決後の情状に限り同意する。
検察官は、一審の論告と意見について、控訴審から変更したらしい。控訴審から、カセットテープが必要と考え、請求しだした。
裁判所は、被告人の調書は、いずれも採用しない。被告人質問は、弁護人は情状について。検察官は、動機関係について、新たな主張に基づき被告人質問を行う事は、許可しない。情状について質問を行う事を許可した。
こうして、被告人質問が行われることとなった。
裁判長『被告人、前へ』
町田は、証言台の前に立つ。
裁判長『座って』
証言台の椅子に座る。

<シマザキ弁護人の被告人質問>
弁護人『弁護人のシマザキからお尋ねします。貴方は昨年九月十一日、殺人ということで、無期懲役の判決を受けた』
被告人『はい』
弁護人『どう感じた』
被告人『これだけの大変なことをしてしまったのですから、当然と思っています』
弁護人『貴方が、判決時、ニヤッとしたというような話が、遺族の方から指摘があったが、事実ですか』
後に、一審を見た傍聴人に聞いたところによれば、町田は座って下を向いて、ニヤッと笑ったらしい。
被告人『笑ったのは事実だと思います』
弁護人『どうして笑ったんですか』
被告人『傍聴席に知り合いがいまして、その人が近づいてきたので、挨拶をするのに、何をしていいか解らず、笑いかけてしまったということです』
弁護人『声をかけるとか、手を振るとか、そういうことは』
被告人『いえ、そういうことができなかったので、顔を見ながら、笑顔だけしか、向けられませんでした』
弁護人『傍聴席にいる友人に、気づいてるんだよと、そういうサイン送ったという事なんですか』
被告人『はい、そうです』
弁護人『ただ、貴方、状況考えればね』
被告人『はい』
弁護人『これだけの事件の、判決言い渡し期日ですよね』
被告人『はい』
弁護人『そういう事情あっても、ニヤッとするのは許されないことではないですか』
被告人『遺族の方の思いを考えると、本当にしてはいけない事だと思っています』
弁護人『うん。控訴審になっているが、今の時点で改めて、被害者を殺したことについてどう思っていますか』
被告人『本当に申し訳ないことをしたと思います、取り返しのつかないことをしてしまったと思います』
弁護人『取り返しのつかないことをしたと、口で言うのは非常に簡単、それはそれとして聞いておきますけども、何か具体的に、実践していることは』
被告人『実践しているのは、毎日、朝と晩と、手を合わせて、ご冥福をお祈りすること、(聞き取れず)』
弁護人『亡くなられた方の遺族には今はどう思っていますか』
被告人『突然、大切な人の命を奪ってしまって、本当に、申し訳ないと思っています』
弁護人『地裁の時の被告人質問で、ご遺族の方に、将来、慰謝の措置をとると言ってる。』
被告人『はい』
弁護人『具体的に、どう考えていますか?』
被告人『今現在は、自分が死んだら、自分の、おふくろがなくなったら、おふくろの生命保険で、今現在はしようと思っていることと、作業をして支払われる作業報奨金を毎年ためて、毎年宅下げさせていただこうと思っています』
弁護人『今すぐはまとまったお金にならない』
被告人『はい』
弁護人『今すぐには何かまとまったお金を用意できないのか』
被告人『少し前に、知人の金を借りようとしたんですが、それも断られ、今、懲役をしている自分としても、貯えもあるわけではなく、今現在何かをしろと言われても、それは、できません』
弁護人『知人から金を借りようとしたのはいつ』
被告人『9月から10月にかけて、頼んだんですが』
弁護人『昨年の、平成19年の』
被告人『はい』
弁護人『金銭的には、今現在無理。将来、生命保険や作業報奨金で、できる限りのことをしたいと』
被告人『はい、そうです』
弁護人『金銭面は次善の策。謝罪はしている?』
被告人『まあ、手紙を書いたり、反省文を書いたり、そのような事しかできないです。他に何かをしているかと言われれば、何もしてないと、言われても、仕方ない事だと思います』
弁護人『身柄拘束されている貴方にすれば、謝罪の気持ち伝えるの、まず、文章を書くということになる』
被告人『そうです』
弁護人『謝罪文、地裁の時も書いてるんですか』
被告人『はい、地裁の時も、書かせていただきました』
弁護人『高裁でも』
被告人『控訴してからも、書かせていただきました』
弁護人『いくら文章を書いても、受け取ってもらえないと、気持ちは伝わらない』
被告人『はい』
弁護人『受けとる側からすれば、貴方の書いた文章自体、これ自体、見たくもないかも』
被告人『当然のことと思います』
弁護人『受け取ってもらえないでも、やむを得ないというのは解りますか』
被告人『はい、解ります』
弁護人『今後、遺族の方にはどうしていく』
被告人『自分が、作業報奨金を毎年、宅下げし続けて、亡くなられた方のご冥福を祈りながら、謝罪し続けていこうと思っています』
弁護人『少し話題を変えます。地裁の時、貴方、暴力団構成員をやめると言っている』
被告人『はい』
弁護人『それ、どこまで信用できるか、今回の重要な争点。貴方として、口だけじゃなく、具体的に何か行動に表せない?』
被告人『今まで養子縁組していた人から、昔の姓に戻り、もう二度と暴力団構成員にならないということを・・・』
弁護人『地裁判決後、貴方は、離縁しているが』
被告人『はい』
弁護人『これは、誰かから言われたか』
被告人『自分で漠然と考えていたところに、周りの人たちからのアドバイスも当然、ありましたし、最終的には自分で離縁を決めました』
弁護人『離縁決めた理由は』
被告人『目に見える形で気持ちを表さないと、相手には伝わらないんだと解りましたので、具体的に、目に見える形で、行動で表そうとした結果です』
弁護人『本当に、二度と暴力団構成員として活動するつもりはない』
被告人『はい』
弁護人『検察官から証拠が出ているが、一審後、組員、面会に来ている』
被告人『はい』
弁護人『それは事実ですか?』
被告人『事実です』
弁護人『それは、どうして面会に来ている?』
被告人『日頃の付き合いがあったから来ているのもある。今回の養子の離縁に関することで、離縁した方がいいと勧めてくれたのも、その人たちですし、決して活動云々、今後の生活の中で付き合っていく前提ではなく、離縁に関することが一番でした』
弁護人『来た人、友人ですか』
被告人『はい、います』
弁護人『それは、全員ですか?』
被告人『(聞き取れず)』
弁護人『面会来たの、六人。そのうち、暴力団関係と思われる人、四人』
被告人『はい』
弁護人『それは、全て友人』
被告人『知人であり、友人です』
弁護人『暴力団構成員とされてる人面会に来ると、まだ活動するつもりがあると思われる』
被告人『確かにそうかもしれません』
弁護人『貴方としては、今後の活動、全く関係ない』
被告人『今後の生活では、距離を置いて、生活していこうと思ってます』
弁護人『裁判の結果どうなろうが、少なくとも、服役待っている』
被告人『はい』
弁護人『服役中、どういう生活する?』
被告人『亡くなられた方のご冥福を祈り続けるのが、一番です。服役になったら、資格を取るなど、職業訓練に力入れていこうと思っています』
弁護人『最後に言いたいことは』
被告人『何もありません。ただ、本当に大変なことをしてしまったという思いで、ご遺族の方々にはお詫びのしようもない。本当に申し訳ないことをしたと思っています』
弁護人『私からは以上です』
裁判長『検察官』

<検察官の被告人質問>
検察官『一審で、廣瀬と養子縁組を解消しないと言った。どうして解消しないと明言した?』
被告人『その頃はまだ術中にあったと・・・自分の中で、洗脳とは言えないまでも、(聞き取れず)あったからだと思います』
検察官『なぜ解消したのか』
被告人『(聞き取れず)いうことで、解消しました』
検察官『面会に来た人、なぜ、解消した方がいいと言ってくれた?』
被告人『何もしなければ、相手に何も伝わらないと、自分よりわかっていたからだと思います』
検察官『死刑回避するために都合がいいということでしょうか』
被告人『それもないとは言いません』
検察官『以上です』

<眼鏡をかけた裁判官の被告人質問>
裁判官『あのですね』
被告人『はい』
裁判官『一審では、やくざを否定する趣旨の発言をされて立腹したとあるが、やくざ、貴方にとって何?』
被告人『当時は、自分の中で非常に大切なものと思っていました』
裁判官『やくざイコール暴力団だね』
被告人『当時はそう考えていませんでしたけど、今はそういう気持ちです』
裁判官『その当時、違うと』
被告人『はい』
裁判官『昔の任侠という感じ』
被告人『簡単に言うと、そういう感じです』
裁判官『争いごとの解決に、力必要と、そうやくざを想定していると書いているが』
被告人『はい』
裁判官『任侠道と違うと、貴方も暴力団に長くいたから解るでしょ』
被告人『それは、解りました』
裁判官『それでも、暴力団にいた』
被告人『長い間、身を置いていて、身も心も、やくざに染まっていたと思います』
裁判官『廣瀬に会う以前から、貴方、やくざに憧れていた』
被告人『漠然と、そういう気持ちはありました』
裁判官『洗脳されただけじゃない』
被告人『は、違います』
裁判官『原審当時まで、その気持ち抜けてないと思うが、やくざへの気持ち、変わった?』
被告人『変えていくことが必要と思っていますし、自分としても(聞き取れず)』
裁判官『今はどう思っていますか』
被告人『自分とは関係ない世界だと思っています』
裁判官『良いとか悪いとか、そういう評価は言えないんですか、だからやめるとか言えないんですか』
被告人『暴力団の嫌なとこ、確かにたくさんあります。中でも一番は、法律を犯すこと。その点は、自分自身、やくざであった頃は、法律を犯すことに、あまり、ためらいがない。今となっては、法律を守ることが、他人に迷惑をかけないことが、一番大切と思いまして、現在に至っています』

<裁判長の被告人質問>
裁判長『ここで裁判開かれているの、検察官が原審での求刑通りの刑を求め控訴し、貴方も控訴した。控訴したのは、貴方の方が早い。控訴した理由は』
被告人『裁判をもっと長くやって、自分自身、今回の刑について考える時間が欲しくて控訴しました』
裁判長『重すぎると考えた?』
被告人『それよりも、さっき言った、やくざの事であるとか、様々なことであるとか、考えるために、控訴しました』
裁判長『まだ洗脳状態、とけていなく、控訴したのではない』
被告人『いえ、違います』
裁判長『もう少し考えようと、控訴するまでに、そこまで考えるに至っていた』
被告人『はい、そうです』
裁判長『養子縁組、離縁後、再び縁組可能』
被告人『確かに、手続き自体は、可能です』
裁判長『もう縁組しないと』
被告人『はい、そうです』
裁判長『戻ってください』
町田は、被告席へと戻る。

裁判長『検察官、不同意部分撤回している。弁論は』
検察官『特別』
裁判長『すべて解る』
検察官『はい』
裁判長『弁護人もいいね』
弁護人『はい』
裁判長『今日の時点で双方は終わりで、次は判決。3月13日10時ちょうどで』
弁護人『はい』
裁判長『法廷、今日と同じ。被告人、聞こえていたと思う。次回は3月13日午前10時』
被告人『はい(頷く)』
裁判長『本日、終わります』
14時5分に、町田直臣の控訴審初公判は終わった。
町田は、はきはきとした声と態度で、質問に答えていた。傍聴席の方に頭を下げ、退廷したが、遺族の方には目をやっていなかったかもしれない。
閉廷後、遺族は記者たちに話しかけていた。また、廊下で、記者たちは集まって話し合っていた。「画期的な判決」を待ち望んでいたのかもしれない。

3月13日に判決は言い渡された。控訴棄却であった。双方とも上告はなく、町田直臣の無期懲役は確定した。

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