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飯豊町一家三人殺傷事件公判傍聴記・2009年1月15日その2(被告人・伊藤嘉信)

2009年1月15日
仙台高裁第一刑事部
101号法廷
事件番号・平成19年(う)118号
罪名・殺人、殺人未遂(変更後の訴因、住居侵入、殺人、殺人未遂)、銃刀法違反
被告人・伊藤嘉信
裁判長・志田洋
書記官・青梅政範

伊藤は、ややうつむいて、再入廷した。
裁判長『再開する。前に出て、座って』
伊藤は、証言台の椅子に座る。
裁判長『どうぞ』
引き続き、弁護人による被告人質問が行われる。性犯罪被害について話さなくてよいからか、前半に比べて、ややはっきりとした声で質問に答えていた。
まずは、髪を七三分けにした弁護人により、質問が行われた。

<弁護人の被告人質問>
弁護人『犯行前日ということになりますが。5月6日になりますが、日中、友人に電話しましたね』
被告人『はい』
弁護人『誰に』
被告人『T君だったと思います』
弁護人『何のため』
被告人『遊ぶ予定を立てるためだったと思います』
弁護人『何回ぐらい電話をかけた』
被告人『二回だったと思います』
弁護人『遊ぶっていうのは、次の日の日曜日ですか?』
被告人『忘れました』
弁護人『結局、電話は、つながらない』
被告人『はい』
弁護人『その日の夕方、Aさんの車を見た』
被告人『はい』
弁護人『どう思いましたか』
被告人『すごく嫌な感じがしました』
弁護人『Aさん本人を見たかは覚えてますか?』
被告人『覚えていなかったです』
弁護人『車を見てどうした』
被告人『コンビニに行く予定だったんですが、家に引き返してきました』
弁護人『家に帰ってどうしましたか』
被告人『家に帰って、夕食を食べたと思います』
弁護人『夕食の前に何かしませんでしたか』
被告人『(聞き取れず)』
弁護人『Aさんの車を見て、体に異変は』
被告人『イライラした感じはありました』
弁護人『それで、どうしました?』
被告人『・・・筋トレか何かをしようと思ったと思います』
弁護人『その、筋トレか何かをしましたか』
被告人『・・・忘れました』
弁護人『イライラ感は、夕食時は残っていましたか』
被告人『残っていたと思います』
弁護人『ご飯を食べてからどうしましたか』
被告人『ちょっと何か、もやもやした感じが残っていたので、自分の部屋に戻って、気晴らしに、プラモデルを作りました』
弁護人『プラモデルは何体作った』
被告人『二体です』
弁護人『イライラ感が残っている時、プラモデル作り、これまでやったことは』
被告人『たいしてなかったと思います』
弁護人『したこともありますか』
被告人『覚えてません』
弁護人『イライラ感は解消された?』
被告人『されました、和らいだと思います』
弁護人『それでどうしましたか』
被告人『風呂に行ってシャワーを浴びたと思います』
弁護人『それは、寝ようと思った』
被告人『はい』
弁護人『それで、自分の部屋に戻った。それからどうしましたか』
被告人『それから、部屋でボーっとしていました。そしたら、Aさんにされたことが頭に浮かんで』
弁護人『はい、そこまで。何をされた場面が頭に浮かんだ?』
被告人『私が跪くような格好で、Aさんが立ってて、・・・口淫させられるような・・・場面です』
弁護人『行為ですか?』
被告人『口淫です』
弁護人『口淫ね』
被告人『はい』
弁護人『その場面が思い浮かんで、どうなりましたか』
被告人『胸が締め付けられるようになって、苦しくなって、体が熱くなって、イライラして、怒りとか、恨みとかそういう感情がありました』
弁護人『それで』
被告人『自分の体を叩いたり、ベッドを叩いたり、しました』
弁護人『自分の体を叩いた、まずね』
被告人『はい』
弁護人『治まらなくて、次にベッドを叩いた』
被告人『はい』
弁護人『変調は治まった?』
被告人『治まりませんでした』
弁護人『どんな感じですか』
被告人『イライラ感とか、怒りとか、恨みっていうか、そういう、ぐちゃぐちゃした感情が、こう、こみあげてくる感じで、抑えられない感じになりました』
弁護人『それは、いつもの体調の変化とどのように違っていましたか』
被告人『いつもより強かったと思います』
弁護人『強いっていうのはどんな感じですか』
被告人『治まらない感じです』
弁護人『それで、どうなりましたか』
被告人『しばらく我慢したんですけど、抑えていたものが壊れるというか、解んないですけど、そんな感じになりまして』
弁護人『壊れる?』
被告人『壊れるみたいな、その、感情に引き戻されるというか、Aさんをボコボコにしてやりたい、そういう気持ちになりました』
弁護人『それでどうしましたか』
被告人『部屋にあった、目についた模造刀とか、携帯とか、手袋とかを持って』
弁護人『手袋は、ビニールの手袋』
被告人『はい、・・・その後、玄関に行って』
弁護人『玄関に行く前に、模造刀を持ったのはなぜですか』
被告人『Aさんを、ボコボコにしてやりたいとか、刺したいとか、そういう想像をしました。この模造刀を使っても、ボコボコにしてやりたいと、そういう気持ちでした』
弁護人『ビニール手袋を持った』
被告人『はい』
弁護人『手袋は』
被告人『はめてないと思います』
弁護人『持ったのはなぜ』
被告人『解りません』
弁護人『解らない。山形の裁判所では、Aさんに触りたくなかったと言っている』
被告人『はい』
弁護人『そういう気持ちもある』
被告人『直接触りたくない、そういう気持ちありました』
弁護人『なぜそう思った』
被告人『Aさんが汚いような感じが、したからだと思います』
弁護人『それで』
被告人『玄関に軍手を持っていきました』
弁護人『軍手はいつも、そこに置いてある』
被告人『はい』
弁護人『何のために置いてあるんですか?』
被告人『ジョギングがてら、(聞き取れず)』
弁護人『それで、はめた?』
被告人『持って行ったと思います』
弁護人『持って行ったのはどういう理由?』
被告人『はい、ビニール手袋が薄いので、破れてしまうんじゃないかと思って、持っていきました』
弁護人『それで』
被告人『その後、車に乗りました』
弁護人『Aさんの家、歩いて行ける距離』
被告人『はい』
弁護人『どうして車に乗った』
被告人『自分では説明できません』
弁護人『車に乗って、どこへ行った』
被告人『(聞き取れず)組合の駐車場です』
弁護人『Aさんの家とは反対側』
被告人『はい』
弁護人『そっちに行った理由は』
被告人『・・・左に曲がってしまったので』
弁護人『Aさんの家、右方向向いている』
被告人『はい』
弁護人『左に行った理由、説明は』
被告人『解りません』
ここは、小声だった。
弁護人『駐車場についてどうした』
被告人『確か手袋と、手袋をはめて、模造刀をもって、サングラスをかけて、Aさんの家の方に向かいました』
弁護人『手袋は車の中にはめた?』
被告人『車の中だったと思います』
弁護人『サングラス、家から持って行った』
被告人『いえ、いつも車に置いているものです』
弁護人『どうしてかける』
被告人『その時は、顔が解らないようにと思ってかけました』
弁護人『誰からですか』
被告人『Aさんです』
弁護人『どうして解らないようにしたいと思った?』
被告人『・・・解りません』
弁護人『体調不良後したこと、記憶に残っているんですか』
被告人『・・・すみません、もう一回、お願いします』
弁護人『あの、Aさんのこと、ボコボコにしたいと思って、色々なものを持って行った』
被告人『はい』
弁護人『それは、記憶の中でははっきりしている』
被告人『(聞き取れず)』

<老弁護人の被告人質問>
弁護人『犯行そのものですね。先ほどの話では、いつもと違った感じがして、ボコボコにしたいの、抑えられない。ボコボコの意味は』
被告人『・・・その、手足とかでめちゃめちゃにするような感じです』
弁護人『それは、高校時の時と同じイメージ?』
被告人『・・・とにかく、何か、ボコボコにしてやりたいと、そういう気持ちでした』
弁護人『Aさんの家に入るときの気持ち、模造刀を持って行って、Aさんをボコボコにし、刺しても良いという気持ちあった?』
被告人『そういう気持ちも、ありました』
弁護人『模造刀でAさん刺したら、命まで奪ってしまうと具体的に思っていた?』
被告人『そういうことも、頭に浮かんだと思いますけども、Aさんをボコボコにしたい、とにかく、ボコボコにして殴ってやりたいと思いました』
弁護人『ボコボコにしたいというの、強い』
被告人『はい』
弁護人『Aさん、家にいると思ってた?』
被告人『夕方に、車を見て、・・・それで、いるんじゃないか、そんな感じで、行きました』
弁護人『泊まらないで帰ること、あるでしょう』
被告人『はい』
弁護人『Aさんいるという根拠あったんですか』
被告人『いえ、今日はいるんじゃないか』
弁護人『そういう考え方』
被告人『はい』
弁護人『Aさんの家、Bさん、Cさん、ご両親いる』
被告人『はい』
弁護人『Aさんの家に入るときに、両親に何かしようとは』
被告人『その時には考えてませんでした』
弁護人『Aさんボコボコにするのに両親邪魔になると、具体的に考えては』
被告人『やはりまあ、とにかく、Aさんをボコボコにしたいという思いでした』
弁護人『頭の中で、両親のこと、考えない』
被告人『その時は』
弁護人『家に入った時のことについて聞きます。玄関に入って、右の部屋に入った』
被告人『はい』
弁護人『その時、どういう部屋か解っていましたか?』
被告人『・・・その時は、解りませんでした』
弁護人『貴方は先程、Aさんからの暴行を最後に受けたのは、玄関に入って右の部屋だった、両親の寝室だったといっていた』
被告人『はい』
弁護人『この事件で、おうちに入ったときは解らなかった』
被告人『そうです』
弁護人『両親の部屋と、その時は知らない』
被告人『はい』
弁護人『事件後解った』
被告人『はい』
弁護人『右の部屋はどういう部屋かは別にして、部屋に入った理由は』
被告人『最初に、家に入ったときに、居間ところに、小さい電気がついていて、誰もいなくて、それで、すぐ、隣の部屋に入ろうと思ったんだと思います』
弁護人『入った目的は何を目的に入った』
被告人『Aさんを探していました』
弁護人『入っても、Aさんがどこにいるか解っていない』
被告人『はい』
弁護人『右の部屋に入って最初にしたことは?』
被告人『戸を開けて・・・中に半分ぐらい入って、布団がひいてあって、二人、人が寝てるっていうのは知らなかったんですけども、あがりました』
弁護人『暗さはどれくらい』
被告人『自分の感じですけども、人の顔は解りませんでした』
弁護人『サングラスしていたよね』
被告人『はい』
弁護人『それで何が起きましたか』
被告人『その時、寝てる人が小さい人で、Aさんじゃないなと思って、部屋を出ました』
弁護人『廊下に出た』
被告人『廊下です。茶の間の方に行こうと思いました。そうした時に、誰、とか、何かそういう声が聞こえて、すごい悲鳴が聞こえました』
弁護人『それで』
被告人『すごいびっくりして、頭が真っ白になって・・・』
弁護人『両親の寝室に、また入った?』
被告人『何か・・・戻ったんだと思うんですけども、声が近づいてきて、手が伸びてきた感じがして、持ってた模造刀で攻撃してしまいました』
弁護人『模造刀で、どういう攻撃した』
被告人『・・・(何か言うが、聞き取れず)』
弁護人『ん?』
被告人『確か刺したと思います』
弁護人『刺した。どこを刺したか解りますか』
被告人『そこまではちょっと、わかりませんでしたが、警察の方からは、正面にあるのが胸の傷だと、いうことを聞きました』
弁護人『どこを刺したか記憶は』
被告人『どこをっていうのは、ちょっと解りません』
弁護人『あなたの手を如何した?どういう様子でしたか』
被告人『多分、突き出すような感じだと思います(突き出すしぐさをする)』
弁護人『あなたの感じで結構ですが、刀どの程度刺さったか、感触は解りますか』
被告人『感触は、ちょっと解りません』
弁護人『深く刺さったとか、全く解らない?』
被告人『はい、事件の時、ずっとなんですけども、感触とか、そういうのは、ちょっと解らないです』
弁護人『その後、Bさんと、何があった、解る範囲で』
被告人『はい、とにかく、私の模造刀を振り回すような、色々したと思います。それで、Bさんに腕をつかまれて、取っ組み合いみたいな感じになって、かなり激しく動き回ったっていう、そういう記憶があります』
弁護人『かなり激しく動き回った』
被告人『はい』
弁護人『どういう順序かは』
被告人『順序に関しては、解らないです』
弁護人『深く刺さった認識は?』
被告人『それはちょっと解らないんですけども、Bさんが倒れ掛かってくるような、そういうイメージはあります』
弁護人『Bさんとのことで他に記憶は』
被告人『私の中で一番印象が強いのは、すごく取っ組み合って、動き回ったっていうことです』
弁護人『その時、思い出せる範囲で、頭の中で何を考えていた?』
被告人『とにかく、引き離そうと、何かしようと思っていたと思います』
弁護人『次に、Aと解ったことは』
被告人『声がしました。叫び声みたいなものが聞こえました。それで、昔、Aさんにされたことを頭に浮かんで、体がかっと熱くなって、気付いた時には、Aさんに模造刀を刺すような形でした』
弁護人『Aさんの声と解った?』
被告人『多分、昔のことが思い浮かんだんで、そうではないかと思ったと思います』
弁護人『体の変調は?熱いとか、息苦しいとかは』
被告人『・・・すみません、ちょっと解りません』
弁護人『次、Cさん、したとかされたとか、一番覚えていることは』
この時、Cさんが、傍聴席から「してません!」と怒鳴っていた。
被告人『一番は、背中にしがみつかれたことです』
弁護人『場所はどこで』
被告人『居間です』
弁護人『居間は、最初の寝室と逆の部屋』
被告人『はい』
弁護人『部屋の明るさは』
被告人『電気がついてたと思います』
弁護人『明るさ、どう感じていた』
被告人『・・・』
Cさんは、何かぶつぶつ言っていた。
弁護人『どうですか』
被告人『顔は見えました』
弁護人『寝室とは違う状態ですね』
被告人『はい』
弁護人『しがみつかれている時も貴方は何をしていましたか』
被告人『Aさんに攻撃していました』
弁護人『Cさんにあなたが何か動作をした、模造刀で何かしたりは』
被告人『したのは、振りほどこうとしたり、叩いたりとか、そういうことをしたと思います』
弁護人『振りほどこうとした』
被告人『はい』
弁護人『事件時の記憶は』
被告人『そういう事は、しています』
弁護人『何を』
被告人『振りほどこうとしたり、叩いたり、してます』
弁護人『その時は、Cさんは』
被告人『私の後ろに、しがみついていたと思います』
弁護人『刀で何かしたりは』
被告人『そういう事をしたっていうのが、自分の中にはなくて、私は寝室の方で傷つけているんではないかと思って、いるんですが』
弁護人『茶の間でなく、寝室と思っているんですか』
被告人『はい』
弁護人『根拠は』
被告人『これは取り調べの時からずっと心にあったんですけども、寝室の方で激しく模造刀を振ったり、私はしたんですが、その時に、(聞き取れず)思ってて、その時に、傷つけたんだと、自分では思うんですけども、取り調べの時にはCさんの血とか、怪我してるのに、寝室の方には落ちてないと言われ、そこでやったのではないんじゃないかと』
弁護人『貴方の感じで、違う』
被告人『私は寝室の方で傷つけてしまったんだと思います』
弁護人『茶の間で、しがみつかれている時に、刀使って何かした記憶は』
被告人『私の中ではそういう記憶はなくて、やっぱり寝室で傷つけてるんだと思います』
弁護人『被疑者ノート、つけてる』
被告人『はい』
弁護人『その中でも、思い出そうとしている』
被告人『色々書いたと思います』
弁護人『何をしたか、一生懸命、思い出そうとしてきた』
被告人『はい』
弁護人『お母さんについて、一番認識が違っている』
被告人『ずっと、話そうと思いました』
弁護人『Aさんに、ボコボコにしたいとか言っていたが、両親について何も考えていなかった。殺意とか、そういう気持ち、どう?』
被告人『・・・』
弁護人『そういう事あるのか、解んないのか』
被告人『無我夢中で振り回したりしたんですけども、そういう気持ちがあったのかもしれないと、自分の中では思います』
弁護人『コード抜いて、電話機を投げたりしたね』
被告人『はい』
弁護人『電話、投げたりした。どうして、まず電話機のコードを抜いた?』
被告人『Aさんを攻撃している時に、すごい大きな声で何か言ってるような感じがして、何か警察みたいな声が聞こえまして、Aさんをボコボコにした後に、振り返って、Cさんがいて、Cさんが何か言って、いなくなって、それで、電話機の方に行って・・・』
弁護人『コード抜いた理由言って。何でですか?』
被告人『電話を使えないように、するためだと思います』
弁護人『大きな声したので、うるさいとは?』
被告人『その原因が、電話機だと思ったので、それはそうだと、投げつけました』
弁護人『警察に連絡されるとまずいとは』
被告人『頭の中をかすめたと思います。そういう気持ちもあったんではないかと』
弁護人『犯行後の事について、逃げてから計画は持っていた?』
被告人『いえ、どうしたらいいか解りませんでした』
弁護人『具体的考えあったんですか?』
被告人『いえ、何のあてもありません』
弁護人『警察に行こうとは』
被告人『その時は、何か、ぼーっとしちゃって、そういうことは、考えませんでした』
弁護人『車に乗って山の方に入っていった』
被告人『はい』
弁護人『どうしてそういう事になるんですか』
被告人『車に乗ったときに、車に乗って車を発進させようとしたと時に、目の前が真っ暗になって、前に行っていたら、何かにぶつかる感じがして、しばらくたつと、目の前が真っ暗になったのが治って、車を縁石にぶつけたっていうのが解って、それで、車のタイヤがパンクしてしまいまして、どっかで直せないかなと思って、(聞き取れず)通って、山に入りました』
弁護人『目の前、真っ暗になったのは』
被告人『今では、出血のためだったんではないかなと』
被告人『自分の右手ですけどね』
被告人『はい』
弁護人『出血、傷ついているのは、いつ気付いた』
被告人『山に入って、タイヤ交換しようとした時です』
弁護人『程度は』
被告人『自分ではわからないんですけども、血が止まらない感じでした』
弁護人『社に、横になった』
被告人『はい』
弁護人『その時、頭に浮かんだのは』
被告人『大変なことをしてしまった、Aさんの最後の姿を見て、もしかしたら死んだかもしれないとか、Bさんのことも思い出して、(聞き取れず)これで楽になれるかなーっていう気持ちもありました』
弁護人『楽になれるって何から』
被告人『Aさんにされたことからです』
弁護人『自分が出血で死ぬかもしれないと』
被告人『そういう事も思いました』
弁護人『Aさんを刺して死んでしまった、Bさんのこと思い出して、何思い浮かんだ?』
被告人『何もない人を傷つけてしまったという思いはありましたし、その時、家族に理由を言わなければいけないと思いました』
弁護人『あなたがですね』
被告人『はい』
弁護人『それでどうした』
被告人『それで、山の中を歩いて、社まで行きました』
弁護人『それで、社に行ったと。今の心境、再度チャンスを与えてほしいと。しかし、今、簡単にお聞きしたい。死刑、求刑した。それに対して、山形の裁判所は無期懲役にした。それでも、今、高裁にきて、遺族は強く死刑を望んでいる。解りますね』
被告人『はい』
弁護人『それについて、自分は、どう向き合おうとしている?』
被告人『そう思われるのが当たり前だと思います。自分も家族が殺されたら、そう思います。何とか生きて償っていきたいと思っています』
弁護人『何が必要か、どうしようと』
被告人『償いについて考えましたが、自分の中で答えが出なくて、自分のできることをしていくしかないと思いまして、今、読経をしたり、写経をしたり、亡くなった方の冥福を毎日、祈り続けています』
弁護人『写経をするきっかけは』
被告人『親から言われたと思うんですが、写経の話が出まして、やってみたらどうかという話を聞いて、ノートに毎日一ページずつ書いています』
弁護人『何を書いている』
被告人『般若心経のお経を書いています』
弁護人『それはどういう気持ちで』
被告人『私が命を奪ってしまったので、(聞き取れず)冥福を祈って、私に祈る価値があるか、そういうことも考えたりはするんですけど!やはり、自分のできることっていうのは、そういう事しかないので、ずっと続けていこうと思っています』
弁護人『お経はいつ読んでいる』
被告人『朝の食事と夕方の食事が終わった後に、続けています』
弁護人『それできっかけは』
被告人『山形の拘置所にいた時に、教本や数珠を差し入れて、それで親に頼んで差し入れてもらって、(聞き取れず)とにかく、般若心経、毎日読んでいます』
弁護人『償えていると?』
被告人『いいえ、それだけで、償いができているとは思えません。自分ができることをするしかないと思って、せめて、自分ができることを毎日やっています』
弁護人『本を読んでる?』
被告人『仏教の本だったり、歴史の本、小説とか、何でも読みます』
弁護人『何感じる?何か学んだことある?』
被告人『仏教の本などでは、学ばされることが多いです』
弁護人『何を学んだ?』
被告人『自分の感情、自分の内面を見つめると、そういう事です』
弁護人『日記付けてる』
被告人『はい』
弁護人『大学ノートに毎日書いている』
被告人『はい』
弁護人『何を書いている』
被告人『自分の思ったことを、書いています』
弁護人『犯行の事についても』
被告人『はい、書いていることもあります』
弁護人『何を書いている』
被告人『事件を思い出したり、被害者に対して、どういう事を思っているのかを、書いたりもしました』
弁護人『遺族の方に、きちっと謝罪の手紙を書いたことはありますか』
被告人『書いたことはあります』
弁護人『何回書いた』
被告人『山形の時に一回、あと、民事の時に、書く機会があって、書かせていただきました』
弁護人『民事でも書こうと』
被告人『はい』
弁護人『一回だけ書いた?』
被告人『何回も書き直しました』
弁護人『どういう思いで何を書いた』
被告人『事件のことで、謝罪遅れたことと、親父に対して、大変申し訳ないことをしたと、償っても償いきれないような酷いことをしたと、(聞き取れず)』
弁護人『書いた』
被告人『はい』
弁護人『山形の時にも聞いた。さらに、考え、付け加わったとか、変わった事はありますか』
被告人『やはり家族のことで、家族に支えられており、家族との今までの生活とか、私の中で、思い返したりしたんですが、その中でやっぱり、ありきたりな日々というか、そういう日常が、かけがえのないものだったっていうのが解りましたし、Cさんのそういう生活、夢とか希望、一瞬にして奪ってしまった、誠に申し訳ないし、謝っても謝り切れませんし、本当に申し訳ないことをしたと思います』
しかし、性犯罪のあった日から、伊藤の日常は奪われ続けてきたのではなかったか。
弁護人『終わります』
裁判長『戻って』
伊藤は、被告席に戻った。
次回は2月18日、検察官からの被告人質問となる。
16時30分までの予定であったが、16時9分に終わった。
伊藤は閉廷後、弁護人と少し話をして、退廷した。
遺族たちも、閉廷後に何か話しあっているようであった。伊藤が性的被害の事について話している間も、不満以外は、特に思う所はなさそうであった。
また、峯田弁護士は、閉廷後に記者の質問に答えていた。
弁護士「原因をより具体的に証明しなきゃ」
弁護士「性的暴行詳細に聞いた」
記者「増幅していったってことを」
弁護士「そう、いきなり犯行日に膨らんだわけではない」
弁護士「検察官は性的暴行を軽い(!)と言っているが、具体的に言わなきゃ信用できない。詳細に聞かなきゃ」
弁護士「大きくなってたけど、ぎりぎり抑えてきたものが、爆発しちゃった」
記者「10回と言っていますが」
弁護士「同じですよ」
記者「生きて償いたいと」
弁護士「本人も悩んでいるんですね。生きてていいのかと。でも、償いたいと」
記者「一審の頃から」
弁護士「いえ、一審から強くなっていませんよ。死刑、死刑と言われているのは、当然と思っている。彼も辛いんですよね。彼の今の気持ち、聞かなきゃいけないんですよね」
そして、自分の事務所に「(記者に)来てもらっていいんじゃないの」と言って、質疑応答を終えた。


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