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【ジロリアン陸】強打の異色ボクサーが日本タイトル初挑戦「僕が一番危険な相手だと思う」

◇日本ライト級タイトルマッチ10回戦
 王者 宇津木秀(ワタナベ) 11戦11勝(9KO)
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 挑戦者4位 ジロリアン陸(フラッシュ赤羽) 17戦14勝(13KO)3敗

 ラーメン二郎好きが高じてリングネームはジロリアン。かつてテレビ番組製作会社に勤務したテレビカメラマンであり、マジシャンとして路上やイベントで芸を披露することもある。「子どものころから目立つことが好き。いまでも好きなことをやらせてもらっている」と話すチャレンジャーほど“異色”という表現がピタリとはまるボクサーは他にいまい。

 中でもラーメンにかける思いは筋金入りだ。

「本名が高橋なんで、普通すぎて覚えてもらえないと思って。プロテストに受かったとき、リングネームを書く欄があって、ラーメン二郎が好きだったのでジロリアンと勝手に名乗らせてもらいました。いま考えると若気の至りだとは思いますが……」

 減量を強いられるボクサーでありながら食するラーメンは年間400杯以上。減量期間は当然食べないから、そのペースには驚くばかりだ。普段は朝起きると「さて、今日はどこのラーメンを食べようかな」と考えるのが日課であり、「試合を見てくれるファンには本当に申し訳ないですけど、どちらが一番かといえばボクシングではなくラーメンです」と言い切るあたりはすがすがしい。

ちなみにラーメン二郎とは東京都港区三田に本店があるラーメン店だ。ボリューム満点の野菜と脂の多い豚系スープが特徴で、のれん分け店が全国に40店以上ある。ジロリアンは仙台で過ごした高校時代、上京した際にラーメン二郎に初めて出会い、以来その味のとりこになった――。

上京以来所属するフラッシュ赤羽ジムでの練習風景

 話をボクシングに戻そう。

上京から、タイトルマッチに至るまで

20歳で就職を機に上京し、格闘技に興味を持って22歳でボクシングを始めた。プロデビューは2014年11月、26歳のときだ。同じくデビュー戦のお笑い芸人、ロバート山本と対戦して4回TKO負け。前半は互角以上に戦いながら、後半に失速してのTKO負けだった。ちなみにこのときのリングネームは本名の高橋陸。ただし、トランクスに「ジロリアン」とプリントしていたから、当時から気持ちはジロリアン陸だった。

 デビュー戦で有名人にTKO負けしたものの、「この時点でかなり持っているなと思いました」という根っからのエンタテイナーは、この敗北を機に練習に身を入れたアスリート魂の持ち主でもあった。天賦の強打は鍛練で磨かれ、2戦目から7連続KO勝ちで2017年の東日本新人王に輝く。全日本新人王決定戦ではのちのWBOアジアパシフィック・フェザー級王者、森武蔵に敗れた。

初の連敗でつまずいたあと、ここから6連勝(5KO)をマーク。そのキャラクターはファンの心をつかみ、メディアの興味も引きつけてテレビ出演の機会も得た。いつしかラーメン二郎からも認められ、いわば公認ボクサーのような存在にもなれた。日本ランキング入りしたころ、「自分がタイトルマッチなんて、そんな実力はありません」と話していたボクサーは、こうして34歳にしてキャリア初のタイトルマッチにたどりついたのである。

2022年3月28日OVER HEAT BOXERS NIGHT.99にて5回KO勝ち

「チャンピオンベルトを持ってラーメン二郎に並びたい」

 試合のポイントは「ボクシングは下手だけど、教科書にないようなタイミングや当て勘があるんだと思う」という自身の強打を「アマチュアの実績があって穴がない」という宇津木にいかに当てるかになる。「僕がお客さんだったらKOを見たい」と話すジロリアンはKO決着へのこだわりがある

難敵を倒すために、パンチのアングルやタイミングを徹底して研究し、ダメージを与えるブローのレパートリーを増やしてきた。本格的なフィジカルトレーニングを初めて取り入れ、総合的なレベルアップも図った。

 とはいえ、キャリアとこれまで戦ってきた相手の力量を考えれば、チャンピオンの優位という見方が自然だろう。だからこそ「その常識を打ち破りたい」と強く望むのだ。

向こうは世界を目指していて、僕は世界を目指していないんですけど、そういう選手が目指している選手を食っちゃうことがあるのがボクシングの面白さ、醍醐味だと思っています。いろいろと練習してきて僕のパンチがどこかしらで当たるという自信があります。試合が決まったときは勝てないと思ったんですけど、いまはけっこう自信があるんですよ。正直、ランカーの中では僕が一番危険な相手なんじゃないかと思っています」

 もともと「ボクシングを長く続けるつもりはない」と公言し、今回のタイトルマッチを「終活」と表現した。デビューからの8年、「チャンピオンになりたい」と強く望んだことはなかったが、「応援してくれる人にいいところを見せたい」と心底思ってリングに上がり続けてきた。

 KO負けを恐れずにKO勝利を狙っていく。それがジロリアンのボクシングだ。「プレッシャーをすごく感じるタイプなので、早く肩の荷をおろして好きなラーメンを食べに行きたい。チャンピオンベルトを持ってラーメン二郎に並びたい」。今まで経験したことのない至高の一杯を味わうために、全身全霊をかけてリングにあがる。

(取材/構成 渋谷淳)

●ライブ配信情報
 ▷配信プラットフォーム:ABEMA
 ▷ライブ配信:11月17日(木)17時45分~試合終了時刻まで
 ▷料 金:無料
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