見出し画像

できることを増やす(2)

講師は、「自分自身も出来ていることを提供するのが仕事」です。

研修の中で見せる自分自身の関わり方や伝え方・聞き方が、提供している内容と一致していなければ説得力はありません。

提供する内容について、「こんな時はどうすればいい?」というイレギュラーなご質問やご相談について、躊躇なく、相手が納得する回答が提供できなければ、そのテーマのプロフェッショナルとはいえません。

この2つができるから、お金をいただくことができるのだと、私は考えています。

かつて私も、「わかる」が「できる」だと勘違いしていました。そして、それは大間違いだったと痛感する経験をしました。

社内講師を務めていた頃のことですから、35年前のことです。
親会社が開催する「執務研修インストラクター養成講座」を受講して、社内講師の仕事をすることになりました。
研修やOJTに携わって、知識もスキルも不十分、もっとスキルアップしたいと思い、日本経営協会が開催する「インストラクター養成講座(5日間)」を受講することにしたのです。

担当講師の福田鶴代先生は、管理職経験も、その時代の実績も、講師としての経験や成果も豊富な大ベテランの講師。そして、指導が大変厳しい方でした。講師としての在り方や指導の手順やポイントはもとより、実習指導を行う際、講師が立って確認する位置や所作まで事細かに指導してくださいました。

5日間の養成講座は、
最初の2日は先生の講義を受講し、
後半の2日間は一人30分の模擬講義を行ってそのフィードバック、
最後の1日で自分の今後の課題を整理する
という内容になっていました。

講座を受講したのは5名で、私を含めて4人は社内講師として仕事を行っていましたが、1人はこれから担当する予定で、未経験の方。この講座(大阪で開催)を受講するために、愛媛県の松山市からホテルに泊まって参加していました。

私が担当したテーマは、「来客応対・コーヒーの出し方」でした。
新入社員研修や、営業所内の勉強会で何度も実施したテーマであり、仕事でもいつも行っていたので「できる」と思っていました。
また研修を受講した時期は、受講後も会社に戻って仕事をしていたので、発表まで十分練習をしなかったのです。

そして私は模擬研修を行ったのですが、内容はボロボロでした。
スタート直後、いきなり先生から「立つ位置が違います!」「手順が違います!」と厳しい指摘が入りパニック状態。
ビデオで録画されていましたので、何度か録画を休止して、指導が入りました。
でも、私一人に時間を割くわけにはいかないので、その後は先生がアイコンタクトで「そうじゃないでしょ」「そこではありません」と指示を送られるのを恐々確認しながら発表を行いました。自分の甘さが情けなく、恥ずかしく、逃げてしまいたくなりました。

他の講師経験者の4人も、私ほどたくさんではありませんが、同じような指摘を受けていました。
そして、全くの未経験者だった1人は、完璧に近い模擬研修を行い、先生から高い評価を受けたのです。
彼女が、ホテルに帰って、何度も何度も練習をしたことが伺えました。
未経験だからこそ、何か一つでも出来るようにしなければ!と必死だったのだと思います。
酷評を受けたことだけでなく、彼女の頑張りに対して、私は恥ずかしいなと思いました。

今でもその時録画していただいたビデオ(VHS)は大切に残しています。
デッキがないので再生はできませんが、ビデオデッキがあった頃は、時々そのビデオを観ながら「慢心していないか?」「わかっているだけで、出来るつもりになっていないか?」を自分に問いかけていました。

数多くのテーマや高度な内容を提供できませんし、それは私が行うことではないと思っています。
でも、数少ないテーマであっても、安心して受講していただき、「研修をお願いして良かった」「期待以上だった」と思っていただくことを大切にしています。
「わかる」ではなく「できる」がその一歩だと考えています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?