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家のハムスターの態度がでかすぎるけど、なんだかんだと助けてくれるからしょうがない?10

第四話 真のストーカー 4

「あのすいません」

「おや、どうしましたか?」

 男は平静を装い振り向いた。貼り付けたような笑顔にそれなりの皺がある。ぱっと見40手前と言ったところか? 

「今、ここらでストーカーを探していまして」

「それはそれは恐ろしい。そんな酔狂な事をなさる方がいらっしゃるんですか?」

 男はわざとらしいセリフじみた言い回しでとぼける。隠す気があるのかすら疑わしい。ふと自分の胸ポケットに視線を落とすとハムスケがジェスチャーでコイツが犯人だと示している。面白い奴だな本当に……

「それが困ったことにいらっしゃるんですよ俺の目の前に」

 そう言って俺は男を睨みつけた。男は額からうっすらと汗を垂らしながら首を横に振る。

「目上の人に失礼ですよ? 君はともかく、そこのお嬢ちゃんと少年はあそこの大学生でしょう? もう少し礼儀というものを……」

 男の言葉でアパートの方を見ると、佳代さんは家には入っておらず、横山君と並んでこっちを見ていた。危ないから中に入っていてほしかったな。けどまあ、おかげで相手が自爆してくれたし。

「貴方が目上かどうかなんて関係ない。犯罪者にかける礼儀なんて持ち合わせていない」

「何を根拠に」

「俺は探偵だ。そこの女性からストーカー被害の相談を受けている。貴方のことは遠目から見ていましたし、昨日も後ろをつけてきていましたよね?」

「それだけでストーカー扱いは流石に……」

「それと、どうして彼らがそこの大学の生徒だなんて知っている? 見た目の年齢で判断できたとしても、そこの大学の生徒だなんてどうして言い切れる?」

「私はそこの客員教授で……」

「ならお前の名前を言え。今から電話してお前のような奴が客員教授として在籍しているか聞いてやる」

 俺はこの男の言い訳を全て叩き切った。もしまだ抵抗するようなら横山君の証言と、写真を撮ってあると脅す算段だ。だが幸いにも男は諦めたのか、口を閉じたままだ。

「ぶっ殺してやる!!」

 しばしの沈黙の後、男はいきなり叫んだかと思うと懐からナイフを取り出し、俺に切りかかる。

 俺は咄嗟にバックステップで避け、距離をとる。

「あぶねーな! ストーカー以上に罪を重ねる気か?」

 俺は余裕ぶっているが内心パニックだった。俺は心臓が高鳴るのを感じた。生まれて初めての命の危機だ。探偵業をしているとこういう時がやって来るとどこかで覚悟はしていたが、それが今日やって来るとは思わなかった。

 どうしようか迷っていると、俺の高鳴る心臓の鼓動が聞こえたのかハムスケが顔を横に振り小さな声で「仕方ないな」と呟き、両手を高く上げた。

 すると、こちらにナイフを突き出しながら迫ってくる男がナイフをかざした瞬間、信じられないほどの突風が吹き荒れて、男の周りを小さな竜巻が囲んでナイフを吹き飛ばした。吹き飛ばされたナイフが地面に落ちてきた瞬間、路地での喧噪が聞こえた近隣住人が警察を呼んだのだろう。二台のパトカーが路地の両側を封鎖して両端から警官が複数人俺達のところへやって来た。

「君たち大丈夫だったか?」

「どうして……」

「そこのアパートの管理人から連絡が入って、怪しい男が若い女性に乱暴しそうになって揉めてると通報が入ったから急いできたんだ」

 アパートに視線を向けると、アパートの一階の窓から人の良さそうな管理人のおばさんが手を振っていた。

「管理人さん!」

 佳代さんは管理人さんのところに駆け寄る。管理人さんも一階に住んでいるため、あの男を怪しいとずっと思っていたに違いない。

「後は我々に任せてくれ。だが君達には証言を聞きたいのだが……」

「それなら俺が全て説明しますよ刑事さん」

「うん? ああ! 君は、よく見たら柊探偵事務所の息子さんじゃないか! お父さんはお元気かい?」

 そうか、彼は父が死んだことを知らないのか。

「父とは一年前に死別しています」

「そう……だったのか。申し訳ない」

 警官は俺に頭を下げる。別に気にしてはいない。父が死んだことを知らないのは仕方がない。探偵事務所と警察はズブズブの関係ではないのだから。

「気にしてませんよ。今は自分が父の後を継いでます。それで今回のストーカー事件、俺のところに依頼があり調べていました。説明は全て俺がしますので彼らは家に返してあげてください」

 俺は頭を下げた。これ以上、学生である彼らに変なストレスをかけたくなかった。後はこちら側の領分だ。

「では行きましょう」

 そうして真のストーカー男と俺はパトカーに乗り込み、警察署へ向かった。

「はあ疲れた」

 俺は帰宅するなり文句を垂れながらソファーに倒れこんだ。ぶっちゃけ彼らより俺の方が疲れてたんじゃないかという疑問はさておき、俺はもっと大きな疑問を解決することにした。

「おいハムスケ、出てこい」

 俺は胸ポケットで気絶しているハムスケを机にそっとおいた。犯人の男が竜巻に襲われた直後に、ハムスケは意識を失っていたのだ。

「ああ~死ぬかと思った~」

「質問がある」

 俺は机の上で伸びをするハムスケを問いただす。

「流石に今日の竜巻はお前の仕業だろ?」

「我知らん」

「いやいやあれを偶然で片付けるのは無理だって」

 あれがたまたま起きるなら、この世に警察や探偵はいらなくなってしまう。ハムスケは頭を抱えて時折変なうめき声をあげていた。

「はいはいそうですよ! 我が起こしましたが何か文句でも?」

 ハムスケは潔く認めた。認めたというより開き直ったと言ったほうが正確かもしれない。

「文句は無いけど、ああいうのが出来るなら最初から言ってくれ」

「良いか、我の起こす奇跡は本来は些細な奇跡なんだぞ? それを無理くりオーバーさせて起こしているんだ! 今回みたいな緊急性のあるやつなんぞ二度とごめんだ! 寿命が縮まるわ!」

「それと毎回起こせるわけじゃないんだ。あんまりあてにしないでくれよ」

「分かった。肝に銘じておくよ……それとごめん」

 プンプンしてるハムスケの頭を撫でながら謝罪の言葉を口にした。気をよくしたのかハムスケは一足先に寝床へ戻っていった。

 一人事務所に取り残された俺は考える。さっきのハムスケの言葉……
「寿命が縮む」言葉の綾だと思いたいが、もし本当だとしたら? もともと短いハムスケの寿命が万が一縮んでしまったら……

「考えてもしょうがないか」俺はそう一人呟き、自分の部屋にあがっていった。


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