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ベトナム国家主席人事のゆくえ(続)

ベトナム国家主席の人事は10月まで先送りとなったが、正式に交代の予定が発表されたため、ベトナム政局ウォッチャーは本格的に次期国家主席について予想し始めた。

BBCベトナムで次期国家主席の予想記事があったためこれを紹介したい。


なぜ国家主席が交代するのか

現在の国家主席はトー・ラム(Tô Lâm)書記長が兼任している。
国家主席のポストは書記長に続いてベトナム共産党の序列2位に相当するが、序列1位である書記長が兼任する状態はイレギュラーである。

亡くなったグエン・フー・チョン(Nguyễn Phú Trọng)前書記長も国家主席を兼任したことがある。
任期途中の2018年にチャン・ダイ・クアン(Trần Đại Quang)国家主席が亡くなった時、チョン書記長が国家主席を兼任することになった。

この時チョン書記長は2期目の途中であり、政治指導者としてのキャリアも長かったため(書記長の前にも要職である国会議長を1期務めていた)、国家主席の要職を兼職することに問題が無いと考えられたからだ。

しかしラム書記長は今年5月に国家主席に就任するまで公安一筋であり、公安以外のポストに就いたことがないため、チョン書記長のように国家主席との兼任は重荷ではないかと見られている。

よって9月の国連総会出席、バイデン大統領との首脳会談を「花道」に書記長に専念することが決まったようだ。

では次期国家主席は誰になるのだろうか?

公安と軍の勢力均衡策

現在のベトナム政治では公安支配が進んでいると言われている。
最高指導部である政治局員15人のうちに公安出身者が5人もいるため、公安に権力が集中し過ぎているのではないかと見られているからだ。

そのような批判を避けるため、次期国家主席のポストは軍出身者から選ばれるのではないかと見られている。
国家主席は政治局員でなければならないため、軍出身の3人の政治局員のいずれからか選ばれることになる。

その場合、現在の残り任期である2026年までの中継ぎとなるのか、あるいは次期(26〜31年)も続投を狙える人物を選ぶのかがポイントである。

ルオン・クオン党書記局常任

次期国家主席の候補最右翼はルオン・クオン(Lương Cường)党書記局常任である。
ルオン・クオン氏は現在2人しかいない人民軍の大将(Đại tướng)の1人で、人民軍のトップである。

1957年に北部のフート省で生まれ、人民軍では政治活動と党活動を中心にキャリアを積んできた。
2016年に人民軍の政治活動と党活動を担当する政治総局の長官に就任すると、19年に人民軍の最高階級である大将に昇進した。

2021年から最高指導部である政治局員にも選ばれ、今年5月から党書記局常任に就任した。
書記局常任は共産党の序列5位に相当するポストであり、公安と軍のバランスを考えれば国家主席に最も相応しい人物と言える。

ファン・ヴァン・ザン国防大臣

ファン・ヴァン・ザン(Phan Văn Giang)国防大臣はクオン書記局常任と共に現役で2人しかいない人民軍の大将のもう1人である。

1960年に北部ナムディン省で生まれ、クオン書記局常任とは異なり、人民軍では参謀や司令官としてキャリアを積んできた。
2016年に国防副大臣と人民軍参謀総長に就任し、21年に最高指導部である政治局員に選ばれると、同年国防大臣に就任、大将に昇進した。

グエン・チョン・ギア中央宣教委員長

グエン・チョン・ギア(Nguyễn Trọng Nghĩa)中央宣教委員長は1962年に南部ティエンザン省で生まれ、クオン書記局常任と同じく人民軍で政治活動や党活動を中心にキャリアを積んできた。
人民軍の階級では大将に次ぐ上将(Thượng tướng)である。

2021年から中央宣教委員会の委員長に就任し、最高指導部である政治局員に選ばれたのは今年5月になってからである。

結局誰が国家主席になるのか

国家主席は今期(2021年〜)の間で2度も交代しており、10月に交代すると3度目(4人目)となる。
ベトナムの国家元首であり、党内序列2位のポストが度々交代することはその権威を疑われかねないため、次期国家主席もまた1年ほどで退任することは避けるのではないだろうか。

現状ではクオン書記局常任が最右翼である。
上下関係が特に重んじられる軍組織において最年長者である点もクオン氏にとって有利な点だ。

政治局員の規定で65歳以上は再任されないとされているが、四柱(書記長、国家主席、首相、国会議長)の職にある場合は例外とされる。
クオン書記局常任は26年で68歳、ザン国防大臣も65歳になっているので、ここで国家主席になれなければ今期限りで引退することになる。

ギア中央宣教委員長は26年でもまだ63歳のため再任の可能性はある。
ただしクオン氏が国家主席となり、2期目も続投となると、ギア氏が四柱のポストに選ばれることは難しいだろう。
軍が四柱の半分を占めることは前例からしてあり得ないからだ。

順当に考えてクオン氏が国家主席に就任し、2期目も続投することになるのではないか。

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