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2023年3月の日記~「受検失敗。春はまだ来ず、雪上に落涙」号~

3月*日
冬は仕事とスキーを両立している。
スキーと仕事の両立かもしれないが、とにもかくにも、滑る、ZOOM、滑る、企画書、プレゼン、滑る、と慌ただしい。おっと、プレゼン、滑る、は縁起が悪い。書く順番を間違えた。

実は弟も根っからのスキー好き。お互いに大学卒業後は仕事を覚えたり、子育てをしているつもりになったりで忙しかったので、交流も少なかったのだが、数年前からスキー熱が再燃したぼくに触発されて、弟も去年から俄然、滑り始めた。

そんな弟は、去年の春先から「冬に向けた身体づくりだ」と言って家の近所の六甲山系を毎週5~6時間登山し始めた。秋には総仕上げと言って「六甲山系縦走レース」なるものに出場。朝5時に出発してゴールしたのは夕方6時。「お腹がすいたらスニッカーズ」的なものを口にしながら山を13時間踏破したというのだから、もはやスキー部ではなく登山部である。

そんな二人で、今年のイベントに選んだのがテクニカル・プライズという技術テスト受検。ぼくは大学時代に一度受かったことがあるのだが、20年前の合格証は最早あってないようなものなので、受け直すことにした。

果たして受検日当日。二人でジャッジの傾向を見たり、滑り方を協議したり、久々に味わう、えずく程の緊張に身を悶えたりしながら4本ずつ滑ったが、結果は揃って不合格。70名ほどの受検者がいて、合格者は6名だった。50歳を目前にした兄弟の挑戦は、来年に持ち越しだ。

3月*日
10年以上前、まだぼくがアソブロックの社長だった頃。
新卒採用の最終面接で、「1時間、時間を渡すので、面接の状況設定からプランニングしてください」という試みをしていた。最終面接の担当者はぼくで、そこまで上がってくる大学生は数名しかおらず、勝ち残った彼・彼女らは、「団さんにどこに来てもらうか」から考えていた。もちろん、アソブロックのオフィスで、としてもいいのだが、そういう指定をしてくる人はいなかった。

Wくんは、ぼくに江ノ電鎌倉駅まで来てほしいと言った。喜んで出掛けると、「一緒に江ノ電に乗って、藤沢まで往復しましょう、片道30分なのでちょうど1時間なんです」と提案。窓辺の海を眺めながら隣同士に並んで話すと、対面よりリラックスできて、素の自分が出せそうだから、というのが理由だった。

その時に何を話したかはもうほとんど覚えていないのだけれど、「素敵な提案だな」と思った記憶はある。Wくんは、残念ながら最終選考で落ちてしまったのだけれど、その後も、人伝いになんとなく活躍している噂は聞いていた。

そんなWくんと、10数年振りに会い、二人で食事をした。それぞれに過ごした約10年間を報告し合い、今関心のあることを話した。あの日の江ノ電の御礼に、と食事代はぼくが出した。とてもいい時間。きっとここから何かが始まるのだと思う。

3月*日
依頼を受けて、大学生向けの業界解説集というものを作っている。
そもそも業界などというのは、作った人の勝手なカテゴライズ。だから、何と何をどの辺でくっつけて「何業界と呼ぶか」から考えないといけないのだけど、なんとなく、今の社会のあり様を反映したものにしたいなあ(加えて大学生向けだから分かりやすく、それぞれの業界に興味が湧くようなものにしたい)と思っている。

作成過程では、それぞれの業界を解説してくれる識者と呼ばれる人たちに取材をしたり、コメントをもらったりするのだけれど、その過程でも「括り方」について異論や反論が出てくる。つまりは業界なんて括りは大した意味はない、ということだけは間違いないと分かる。

そしてもうひとつ、どの業界(と勝手に括った)の人も言うのが、これまでの延長ではなく、ちょっと脱線したところに新しい線路を敷いていかないといけない、ということ。これも感覚的にはよく分かるが、口で言うほど簡単なことではなく、ぼくのように色んなジャンルの会社の経営をしている立場からすると、「全部見ようなんてのは、鼻から無理なんだよ」といちいち指摘されている気分になり、どうしたものかと途方に暮れている。

3月*日
アパレルブランドの「salvia」で「ケアウィーク2023」という介護のフェアに出展した。
salviaの主力商品は靴下。中でも「ふんわりくつした」と名付けた、ゴムが入っていないため締め付けがなく、肌ざわりが抜群の商品は、salviaのアートディレクターであるセキユリヲさんのデザインの素敵さと相まって、20年間、お客さまに支持され続けている。惜しむらくは、もともと「寝たきりの高齢者」用に開発された商品なのに、今はそのゾーンに十分に届けられていないこと。ということで、原点回帰で介護フェアと考えた。

自らブースに立って3日間。色んな人と話をした。来場者は高齢者施設のマネージャーや現場で頑張る理学療法士や介護福祉士、ケアマネージャーなど福祉関係者も多かったが、同じくらい、通販サイトを中心とした小売・仲卸業者や、来る高齢化社会で一儲けしようとたくらむ中国人ビジネスマンもやってきた。

出展側の皆さんと話をしていると、salviaと同じように、高齢者領域に可能性を求めて、とビジネスチャンスを伺うメーカーやサービス事業者が多かった。いつもはアパレルの展示会に出ているsalviaからすると、同じように作ったブースでも、「圧倒的にお洒落」だと評価され、やはり競争力の源泉は「差別化」だと思わされた。

3月*日
遂に小噺家デビューの日を迎えた。
会場は代官山に新しくできた「自然と食と哲学」をテーマにした入場料制の小さな本屋【Shin Saka bashi Books】。とは言っても、目の前の人を笑かすべく小噺をするのは、ぼくにとっては日常なので、さほど気持ちが昂ったり緊張したりすることもなく、2回高座の1回目となる13時の1時間ほど前に会場に入った。先に入り準備をしてくれていた相方・みーちゃんに、ピンクの着物を着付けてもらい、用意してくれた軽食を食べているとあっという間に出番になった。

高座は昼の部と夕方の部の2回、それぞれ45分ずつ。手探りの中で始めたので、1回目と2回目のアプローチを変えて、時間の流れ方とかお客さんの反応とかを見てみた。思ったよりも一つの話を長くしてしまい、特に2回目はテンポが今一つだったのだけれど、デビュー戦としては及第点(自分に甘い)。最後は、憧れの大道芸人よろしく「賽銭箱」を用意して、おひねりをもらった。

小噺家・団遊は、年4回(予定)のリアル定例高座と年2回のオンライン高座、加えてお声がかかったら全国どこへでも、足代だけで駆けつけます。興味がある人は、LINEグループに入って情報を受け取ってくださいね。
https://lin.ee/T97lVxa

3月*日
「演劇」が小・中学校の必須科目になればいいのに、と長年思っている。
そう思うようになったきっかけは、英語で演劇をすることで英会話力を伸ばすプログラム「ぷれいご」に参加したこと。結局、英会話力はたいして伸びなかったけれど(ポケトークとの出会いがやる気を砕いた)、演劇の可能性には、気が付き過ぎるくらい気が付いた。

演じるとは、その道の人に言わせれば「役をこなすのではなく、役を生きる」こと。つまり役者は、その職業人生を通じて、何人もの人生を生きていることになる。この感覚を一般人である我々も身に付けることができれば、人は「今の自分」に固執し過ぎることがなくなるのではないかと思った。そしてそれは、「より良く生きる」ための大いなる武器になるとも感じた。

例えば、会社で現在不本意な境遇にあるとして、自分が一人しかいないのであれば、その境遇を打開しなければならない。「そんなの当たり前じゃないか」と思うかもしれないが、この人格同一性の強さが、場合によっては生きにくさを生んでいると、ぼくは常々思っている。

「サードプレイス(家と仕事場以外のもうひとつの居場所)」なんて言い方で、一時期スタバがブランディングをしていたが、人格にもセカンドプレイスやサードプレイスがあっていいとぼくは思う。なので「自分らしさ」の議論にぼくはあまり興味がなく、そもそも人はたくさんの仮面を持って生きるものだ、と思っている。

というようなことから、演劇が持つ「より良く生きるスキル」的な側面を、ビジネスでも活用できるように学んでもらう機会が作りたいと思っていたところ、アクティングコーチとして活躍する我が妹・こと葉ちゃんと、人事・人材育成領域で活躍するHOP株式会社の畑さんと話が盛り上がり、半年かけてオリジナルの研修を創り上げた。

研修用の台本も、3人で話し合いを重ね2本創り上げた。参加する方々は、研修前に台本が手渡され、目を通してくることが求められる。そして、当日で会うのは、「これまで知らなかった自分」。いくつもの仮面を手に入れることで(考え方をインストールしてもらうことで)、有能なマネージャーへの道を駆け上がってもらおう、という仕掛けだ。

その名も【theater(シアター)】と名付けたこの研修における私の出番は、もちろん、ラスト1時間の「小噺」です。

3月*日
舞鶴にあるアトリエ・オールで、4月1日から靴ブランド「NAOT(ナオト)」さんと洋服ブランド「entwa(エントワ)」さんを招いてPOP UP SHOPをするので、その準備に行った。

5月7日まで1か月強の会期があるので、お預かりする商品の量がとても多く、レジシステムに入力していくだけでも、途方もない時間がかかる。初日と二日目は両ブランドのスタッフが来舞してくれて、接客指導をしてくれるとはいえ、最低限のブランド知識と商品知識は頭に入れておく必要もある。
それなりに労力はかかるが、それでも、商品陳列が進み無機質だった空間がお店に変わっていくと、言葉にできない嬉しさが湧いてくる。場所というのは生き物だと改めて思う。1日からたくさんのお客さまが来場して、賑わいますように。