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尾ひれとデマテリアル

※この記事はコロナウイルスワクチンにまつわる憶測(デマ)に言及していますが、決してそれに対しての不安を解消したり、科学的に検証するものではありません。
信じて不安な方もいらっしゃるのは理解しているので、適していない表現かもしれませんが、この記事ではデマと描かせていただきます。

こんばんは、まにまにです。

もうおおむね2年コロナウイルスに振り回されっぱなしだが、先日ようやくワクチン(1回目)を接種してた。もう予約がとれないとれない。在宅勤務中(本当はいけないんだけど)スマホを握ってチャレンジするもことごとく全滅、キャンセル待ちを狙うも冗談でなく0.01秒くらいで埋まってるんじゃないか?ってくらい。△マークに心臓が飛び跳ねタップするももう空いてませーん。の文字。その繰り返しで冗談じゃなく計10時間くらい使った気がする。結局、県の大規模でも市の集団でもなく、とある善意の大学が、職域接種を一般向けに開放してくれたことで接種ができた。本当に本当にありがとうございました。

さて、私は当初からできるもんなら早くワクチン接種したい派だったのだが、どうもいろんなデマがワクチンにはあるようである。
そのうちの一つ、「不妊になる」というデマにとある引っ掛かりを覚えたので、ここにつらつら書いてみたいと思う。

デマというのは古今東西、かつて日本で牛痘法が行われたときも、「受けると牛になるぞ」とかいうデマがまことしやかにささやかれ、市民が怖がってしまってなかなか普及せず、医師は苦労したとか。漫画・男女逆転大奥にも似たエピソードがあったような。
でもそのデマ、いったいどこからやってくるのか?誰かの口の端かもしくはたった一つのツイート、そんなところではあろうけれども、そのデマのきっかけ、思い付くに至るための材料、いうなればデマテリアルは一体どこから?だってずいぶん発想が突飛ではなかろうか?

それで今回の「不妊」のデマについての話に戻るわけだが、実はこれがデマの元なんじゃないか?と思う小説が1つあるのだ。ハリウッドで映画化もした、サイコーにおもしろい超大作。そうそれは、


ダン・ブラウン著 インフェルノ。

 

上中下巻の大作である。(余談だが、たまにメルカリで上下巻だけで出品されていることがあるので、購入の際は注意です)
この作品、映画なら見た、という方が多いかもしれないが、小説と映画版ではかなり結末が違う

※以下、「インフェルノ」の内容に言及します。がっつりネタバレ。



なぜか記憶を失った状態でフィレンツェで目を覚ましたラングドン教授は、わけもわからないままコトに巻き込まれ、狂気の天才生化学者、ゾブリストが残した恐ろしい計画を知る。ゾブリストは数日前に謎の自死を遂げていたが、このままでは人口過多による地球の崩壊は免れず、もはや過激な手段に出る時が来たとして、自身の開発した新型ウイルスを世界に向けて放つと語るビデオメッセージを残していた。
メッセージには、どこかの地下水路に怪しく揺蕩うの映像も収録されており、おそらくゾブリストの示した期限に袋が溶け、中身のウイルスが放たれるだろうと思われた。
ラングドンは事態を聞きつけたWHOなどと手を組み、謎を解きながら袋のありかに迫る。舞台は美しき都市フィレンツェから、東洋と西洋のまじりあうイスタンブールへ。物語に複雑に絡み合うダンテの神曲、そしてラングドンを襲う謎の幻覚。果たしてウイルスの放出を阻止できるのか?

この作品、ダンテの神曲がふんだんに絡んでおり、登場人物も多く盛りだくさんなのだが、くわしく説明すると本当に長くなってしまうのでかなり割愛して、この辺が粗筋といったところか。
映画版はまさに、幾重にも思惑重なるパンデミック映画、という感じ。ウィルスは「大量殺戮」が可能な未知のウイルス、とだけ描写され、最後、ラングドン達は間一髪でウイルスの確保に間に合う。めでたしめでたし…なのだが、原作ではこれが大きく異なる。

原作ではなんと、ウイルスの流出が止められない。まんまと悪役にしてやられるわけである。え、こんなにラングドンさんが頑張ったのに…?と最初びっくりした。考えてみてほしい、上中下のボリュームで下巻の半分くらいまでは袋探しなのだ。予定調和をぶち破る斬新な展開といえる。

ラングドンは袋の場所を突き止めるも、とっくに袋は溶けてなくなってしまっていた。ゾブリストが示した期限というのは、袋が溶けてしまう期限ではなく、ウイルスが世界中の人々にいきわたるまでの期限。驚くべきことに、ラングドンの体内からも既にウイルスが検出される。
そう、そのウイルスとは、単純に今生きている人間を殺すものではなかったのだ。ウイルス・ベクターと呼ばれ、遺伝子に突然変異を発生させるもので、その突然変異が人口の3分の1をランダムに不妊にするものだった…というオチ。そうきたか!と思ったのを覚えている。

さて既視感を覚えないだろうか?遺伝子、不妊、ウイルスベクター、この3語そろっている。調べてみると最大シェアを持っているアストラゼネカワクチンが、ウイルスベクターワクチンという手法のワクチンということである。(詳しくは厚生労働省のHPへ)
ウイルスベクターって、遺伝子に作用するって、なんか聞いたことある、インフェルノにあったなあ、なんて罪のない読者からの一言に尾ひれがついて背びれがついて、ワクチンを打つと不妊になる、なんてデマが出てしまったんじゃないかなあ、と思うわけである。

※インフェルノは素晴らしい作品であり、批判の意図は全くありません。噂話というのは一つの何気ない発言から尾ひれがついて大きくなってしまうものであり、また昨今のSNS文化はそれを大きく助長していると思いますので、この記事を書きました。

この作品では人口爆発に関するいくつかのデータが紹介されるが、すべて真実に基づくことだと作者は冒頭で宣言している。それによるとこの80年で地球の人口は3倍に増え、有史以来最大のペースでいまも増え続けており、このままでは環境汚染や食糧・水不足などの問題で人類は破滅する、と警告されている。
実際に次の戦争の火種となるのは水だ、なんて話も聞いたことがあり、コロナも怖いけれど人類が抱える問題はそれだけではないのである。むしろほかにもっとある。

ダンブラウンさんの作品はどれも非常に考えさせられるものが多いので、ぜひ読んでみていただきたい。
この方は数学者と宗教音楽家のご両親の元に生まれ、確か何年か前にラングドン・シリーズの構想はあと6作分ほどある、と語っていたと記憶している。どの作品も膨大な情報量でそのすべてがまとまっており、ついついのめりこんでしまうこと請け合い。最近文庫になった「オリジン」もとても面白かった。ああまた早くラングドン教授に会いたい。





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