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かたつむりのあわれ

こんばんは まにまにです。

先日お盆休みだったので、実家に帰ってきた。(自立のため実家から電車で1時間のところで一人暮らししています。県内移動なのでご容赦ください)

私の実家はとある地方都市の住宅街にある。最寄り駅が二つあるにはあるが、片方は徒歩+バスでだいたい40分もかかり、もう片方はその半分くらいの所要時間ながら、いかんせん電車の本数が少ないので最寄りとしては使いづらい、という不便極りないところだ。
家の裏手に山寺があって、6時・18時になるとお寺さんの子供が鐘を突く音がごおおおん、と響く。盆踊りもいまだにあるし、子供が通りで騒いでいる声も聞こえてくるような、昔ながらのおおらかさがある街だ。

私はそこで20数年を過ごしたのだが、なんせ管理されていない藪やらちょっとした林があちこちにあるような田舎だったので、子供のころはいろんな生き物を見た。
カブトムシを捕まえに行って蜂(おそらく)に刺されて泣いたこともあるし、家の前を狸が横切ることもあった。ヤモリがよく出たし、家の前の土(そもそも家の前の道に舗装されていない一画があった)を掘り返していたら、冬眠中の青大将を掘り当ててしまって、おじいちゃんに泣きついたこともある。

そして、昔からよくかたつむりをみた。

ご存じの人が多いかもしれないが、かたつむりはわりと何でも食べる。キャベツはもちろんトマトも食べるし、卵の殻も食べる。彼らは何千本という細かい歯を持っていて、それで物を削るようにして食べている。湿ったアスファルトの上によくいるのは、アスファルトから染み出すカルシウムを食べているからだといわれている。殻の維持にカルシウムが必要なのだ。

虫かごに野菜くずをいれてたまに霧吹きで吹けばよいので、幼いころ私はよくかたつむりを飼育していた。一度、卵がかえってそれは大量の子かたつむりが生まれたこともある。私はその時初めて、かたつむりは生まれながらにして殻を背負っていることを知った。
子かたつむりは非常に繊細で、生まれたては本当に柔らかく、小指の爪の先ほどの大きさで、そっと持ち上げただけでつぶれてしまう。虫かごを移動させようかと試みたが、2匹ほど指先でつぶしてしまい、あきらめた。

実家のにおいをかぎながら、日暮れにぼんやりしていると、なぜかその子かたつむりたちのことが思い出されて、ふと最近かたつむりを見ていないなあ、と思った。探せばいるだろうが、オフィス街は基本的に生き物とは無縁、一人暮らしではわざわざ公園にも出かけない。
また、残念ながら、実家の周りでも帰省するたびに藪の数が減っている。どんどん整備されているのだ。家の前の道も先日きれいに舗装され、もう青大将を掘り当てることはできない。木が切り倒され、土鳩の鳴き声も聞こえなくなった。何となく、雀の数も減ったような…?
もしかしたらもうかたつむりもいないのかもしれないねえ、と母と話した、その次の日である。

今年のお盆はかなり天気が悪く、基本的に雨であった。一瞬の雨の隙間に母とスーパーへ向かうと、……!!!!

「いるじゃん!」

なんと、あっさりとかたつむりがいたのである。それもたくさん。
スーパーへ向かう道のわずかに残された藪、そのそばのアスファルトの塀に、悠々と這う大小さまざまなかたつむりが…
私の実家の周りにはまだ、かたつむりのあわれが残っていたのだ。思った以上に嬉しい気持ちになり、母と私はしばらくかたつむりを眺めた。

彼らは藪の数がだんだん減っていることなど気づいていないだろう。残念ながら、いずれ今回の藪もなくなってしまうと思う。藪が撤去され、死にゆくとき、かたつむりはなにを感じるのかといえば、何も感じないのかもしれない。私ももうかたつむりを飼育してやろうという気を起こすこともないが、できるだけそこに長くいてほしいと思ってしまった。

そして周辺の子供たちが、一度はかたつむりを飼ってみようという気を起こしてくれるといい。彼らは実は、とても楽しいものたちなのだ。






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