エジプトの春を祝う
もっと前に投稿するつもりだったのが、寝かしすぎてしまった。とりあえずの日記として、投稿することにする。
コプトの復活祭(今年は5月5日)の次の日は、シャンム・ナスィームという、古代エジプトから続く春を祝う祝日である。
この日は、家族や友達と公園やナイル川にくり出してピクニックを楽しみ、レンガ(ニシンの塩漬け)とフィシーフ(魚の塩漬けを半年ほど発酵させたもの)を玉ねぎやネギ、ゆで卵など一緒に食べる。
魚には豊穣と幸福の意味が、ネギ類には薬味としての役割の他に、病気を治すという意味で健康を願う意味があり、卵は春に生まれる新たな生命を象徴するそうだ。
せっかくなので、シャンム・ナスィームの伝統に則り、院生仲間でピクニックを楽しんできた。
レンガとフィシーフ
紅海か地中海にでも行かないと、「エジプトで魚を食べる」というイメージがなかなか湧かないかもしれないが、エジプトにも保存食としての魚料理がある。
それがレンガとフィシーフである。
フィシーフは独特の加工をするので、製造方法によってはボツリヌス菌が発生してしまい、命に関わる食べ物になってしまうこともあるらしい。
BBC のコラムには、「みんな食べるのが大好きな死に至る料理」というタイトルの記事もある。
とはいえ、店を選べば食べて大変な目に合うことはない(はず!)。
ちなみに、あまりの臭いの強さに、エジプト人でも好き嫌いがはっきり分かれる食べ物だそう。
魚屋へ
まずは、有名なフィシーフ屋だという、サイイダ・ザイナブモスクの前にある「シャーヒーン」という店へ。
ほとんどの人は、前日までにフィシーフを買い、予め家で捌いておいてからシャンム・ナスィーム当日のピクニックを楽しむ。
そのためか、店は大繁盛というほど混み合ってはいなかったものの、ちょくちょく客が出入りしていた。店の前には、魚を食べる時に欠かせない玉ねぎとネギを売っている人もいる。
フィシーフは塩漬けにした魚(ボラ)を半年ほど樽で発酵させてつくるものなので、なかなかに強烈な臭いがする。
塩漬けということを考えると、あんまり量があっても食べきれないだろうということで、とりあえず一匹だけ購入した。
包みは撮ったのに、肝心のフィシーフの写真を撮り忘れた。
魚屋では、捌いた身ではなく、漬け込んだ魚まるまる一匹ごと買うことになるので、食べる前に自分でさばかなければならない。
鱗も内蔵もすべてそのままの状態で漬け込むので、身を洗ったり、内臓をとったりと、食べる前の下処理に時間が掛かった。
生魚を捌くときもそれなりに生臭さは残るが、フェシーフを捌いたあとの臭いにはかなわない。何度も手を洗ったのに、その日の夜お風呂に入るまで、強烈な臭いが残ってしまった。
次に、グルメサイトで見つけたフィシーフ専門店へ。
ショブラ・アルヘイマーという、カイロ中心部から少し離れた郊外にある店だ。
ここも客がひっきりなしに出入りし、フィシーフを1キロ、こっちは500グラム、などと注文して買っていく。
フィシーフを触ったり、味見したりして買っている人もいた。
春のお祝いを楽しむ人々
食料を調し終えた頃にはすでに夕方になりかけていたが、ようやくアズハル公園へ向かった。
この日はいつもより風も涼しく、過ごしやすいピクニック日和。春のお祝いにぴったりの午後だ。
普段の休日のように、街中は車も開いている店も少なく、ちょっと閑散としているような感じだったのと対象的に、公園の中は家族連れで大賑わいだった。
なーんだ、みんなここにいたのね、という感じである。
緑という緑の上に人がいて、昼寝をしたりご飯を食べたり、ボール遊びをしていたり。
おじいさんとお父さんの間に小さな女の子がふたり仲良く寝転んで、みんなで気持ちよさそうに昼寝している家族もいた。
私達も眺めがいい場所を陣取って、ピクニックを始めることにした。
初めての味
下ごしらえをしたネギを持ってくるのを忘れるという痛恨のミスはあったものの、フィシーフ屋のセットメニューについていた玉ねぎの酢漬けで凌ぐ。
魚と一緒に食べるのはエジプトのパン、アエーシ。ネギや玉ねぎと挟んで食べる。
フィシーフだけだと、何時間も日向にあった磯のような、生臭い臭いが強く感じられるが、玉ねぎと一緒に食べると少し和らいだ。
とはいえ、それでも結構きつい臭いが残るが…。
しょっぱいので、お酒のあてにちょうどいいかもしれない。
フィシーフを少しずつ口に運びながら、そういえば、くさやもあんまり好きじゃなかったなーとぼんやり思い出した。
たぶん、これからも自分ひとりでは買わない味なので、シャンム・ナスィームにかこつけて挑戦できてよかったかもしれない。
レンガの方は、いわゆるヘーリングと似たようなものなので、しょっぱいが食べやすい。
そのままで食べるのも美味しいが、後日アンチョビの代わりにパスタに入れてみたら味付けにちょうどよかった。
味の感想を言い合いながら食べたり、周りのエジプト人家族に絡まれたりしながら過ごしていたら、いつの間にか夕暮れに。
遠くには、シャンム・ナスィームにつきものの凧が飛んでいて、日が沈む前に、最後のひと揚げをしようとしている子どもたちが小さく見える。その向こうに、眩しいオレンジ色の太陽がちょっとずつ沈んでいく。
空が薄暗く、風は涼しく爽やかになっていくにつれて、あたりの賑いはどんどん増してきた。
夜ふかしなエジプトの人々にとっては、これからがシャンム・ナスィーム本番らしい。
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