女であることから逃避したい女が、とことん女に向き合った二十八日の記録

自分が女であることに抵抗を抱いていた。

抵抗は、小学三年生くらいで既に生じていた。人よりはやい第二次性徴が訪れたためだ。みるみるふくらんでいく乳房は、平均身長を超える女の身体から、幼さを奪った。クラスメイトの男子からからかわれても、身体は成長をやめることはない。

小学四年生の冬、初潮を迎えた。それについては保健の授業で学んでいたが、クラスで迎えた者は、そのとき女だけだった。月のものを迎えてしまった週は、生理用品を隠して登校し、人の少ないトイレに逃げる。新たに月のものを迎えるたび、絶望した。

さらに私の月のものは、ひどく不安定なものだった。高校生になってからは、半年出血がなかった。それからもたびたび、生活リズムやストレスによって、月のものが止まることがある。そこで今も、婦人科で処方された薬を服用している。これにより女の月のものは、機械のように二十八日きっかりの周期ができあがった。

女性はこの二十八日の周期、およびホルモンバランスによって、四つの人格が生じるらしい。そこで女は、こう考えた。この周期が、自らの女性性への抵抗にも影響を与えるのではないか。毎日「女性」をテーマに歌をつくることで、その抵抗を飼いならすことはできないだろうか。

これは私が、「女性」を歌った二十八日間の記録である。

この胸はつぼみなんかじゃなかったわ血潮と肉のメタモルフォーゼ

母さんになれる素材をもっていることにしかない絶望がある

ゆるふわと生きるしかない苦しみをショートケーキで流し込む、鬱。

からだから剥がれ落ちてくイヴになる資格　私はマリアであった

頭とも心とも違う臓物を腹に抱えて我は血と肉

赤き血が示すは我の正しさか正しくなれぬ罪の深さか

お砂糖と血潮でできた桃色の我は孤高の人形（ドール）なりけり

ソプラノで歌えないから自分から「好き」が言えない大人になった

君からの「おやすみ」がないだからもう私は眠れぬ老婆となった

どろどろり我は少女という病溶けて蕩けて蜜になるまで

君だけに愛されたいなパスタとかソースと茹でて鍋で食うけど

靴下の色と長さに文句言うきみにもはえる白い翼が

心のクローゼットに入れたワンピースお化粧してももう着られない

王子様なしで終わると思ってた　僕も履けるの、ガラスの靴が

桃色のくちびる紅く塗ったならオオカミよりも強い私に

食欲の奴隷となってより母に近づく私、地球に沈む

クリームがないと保てぬふわふわが君には私ということらしい

完全な男ではない厚い胸隠して「僕は、なんにでもなる」

未読無視されても好きよ　待つことを歌った側の人間だから

フリルリボン　攻撃力とかないけれどこれでわたしは最強ガール

寒いけど地雷ワンピが着たいから弾けろスノーホワイトビーム

とりあえず私の味方ではあった　膝より長いプリーツスカート

ダメ人間だけど許してほしいからスタバのラテをお砂糖抜きで

くちびるが乾いてるからフラッペがほしくなるのよ　心の保湿

ひとなでで破れてしまうほどの膜私はこちら世界はあちら

世界ってなにか知らないその代わりこの頭にはリボンがあるの

スカートは夢でふくらむお空とか飛べちゃうくらい虹色パニエ

マスカラを汚す男より口紅を汚す男よりまるごとバナナ

途中、自分が「血と肉」「子宮と生理」をテーマにしがちなことに気がついた。そこでここからはあえて、これらのテーマを禁じることとした。これは戸川純の影響だと思われる。
また中盤に差し掛かると題材に困ったため、SNSで「女の子といえば」というテーマでアンケートをとった。そこで友人から「ソックタッチ」「ヘアアレンジ」などの意見をもらった。

二十八日の総括としては、私はどこまで向き合っても、女性性に前向きになれないらしい。途中でそのことに気がつき、創作の方向性を変えて無用としたところ、女性というより少女という印象が強い作品になったように感じる。SNSで募ったテーマも少女性の強いものが多かった。これは今後創作をする上でも、興味深いことかもしれない。

また女性性に前向きになれないことで、自身に女性ではない性があてはまるのかもしれない、という可能性にたどり着いた。現時点では、なんというカテゴリが当てはまるのかはわからず、まだしっくりくるものが見つからない。けれどこれで、幼いころからあった「女性性への抵抗」という生きづらさが、少し解消に向かったような気がする。

そんな発見もあり、私は二十八日という期間、女性というテーマに向き合ってみてよかったと思っている。また期間を設けて自身の性や、別のテーマに向き合うために、短歌という方法を使ってみたいし、なにかに向き合いたい人にもおすすめしたい。