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[禍話リライト]ツレ風呂[禍話 第四夜]
ある時、俺が通っている高校で、俺の学友の家には「必ず二人以上で風呂に入る」という変な習慣がある、という噂が立った。
姉だろうと、父だろうと、母だろうと、泊まりに来た友人であろうと、誰とでも一緒に入浴するらしい。
初めて聞いたときは確かに嫌な習慣だなとは思った。
皆は、ホモかよー、とか、シスコンかよー、なんてそれをネタにいじったりしていたが、そいつは笑ったり、ネタに乗ったりしては流していた。
俺は、当人は普通に良い奴だし、ガス代の節約とかそういうやつだろうと、その噂に関しては特に気にしなかった。
ある日、そいつの家に遊びに行って、そのまま泊まることになった。
家にお邪魔する。そいつん家の父ちゃんや母ちゃんに挨拶する。初めて見たが、良い人そうだった。家も割と広くて、裕福なんだな、と思った。こんな家もガス代節約とかするんだな、と昨今の不況に思いを馳せた。
そいつの部屋につくなり、はまっていた格闘ゲームで対戦した。そいつはなかなかの名手で10試合に一本取れるか取れないかだったが、昨晩あるキャラを猛特訓した成果が出たのか、10試合中4本くらい取れて、とても嬉しかった。そいつはすこし悔しそうだった。
ゲームで一通り遊んだいたら、夕飯の時間になった。そいつん家の母ちゃんが豪勢な料理を作ってくれた。めちゃくちゃおいしかった。
そして、就寝前にお風呂入るか、という話になった。
「浴室まで案内するよ」
なんて言いながら、友人は当然のように混浴するつもりらしい。
冗談で言っているのか?ここは突っ込むべきか?ホモかよ。とか?
逡巡したが、友人はそんな雰囲気ではなくて、さも当然のような感じで言ってくる。
噂は本当なんだなってと思いながら、入浴用品を持って立ち上がった。。
風呂は普通のシステムバスで、二人で洗うには少し狭い。
こいつ潔癖症気味だったよな。
顔はイケメンだけど、彼女がいたなんて話も聞かない。
少し怖くなったが、態度に出しても失礼かな、なんて思ったので特に何かを隠すわけでもなく勇気を出して浴室に入った。
念のため、チラチラと盗み見てみるが、俺のことをちらちら見ることもなく、いたって普通の様子だった。
それぞれで自分の体を洗う。
少し狭いが、まぁ何とかなる。こいつの様子も普通だし、杞憂だったな、節約も大変だな、なんて思っていると、浴室の外から物音がし出した。
ペタペタペタペタペタ
それは幼稚園生くらいの子供が裸足でフローリングを走ってくるような音だった。
え?こいつ一人っ子だったよな?
すぐ近くで体を洗っている友人を盗み見ても特に反応しない。
変だな、と思っていると、
ペタペタペタペタペタ
足音が遠ざかっていった。
何だったんだ今の。と思っていたら、友人がしゃべりだした。
「言ってなかったけど、俺ん家出るんだわ」
え?何が?
「でも、無視してれば大丈夫だから」
えぇ……、と思いながら、体を洗い終わった。次は、髪を洗う。
と
ペタペタペタペタペタ
来た。
俺と友人は無言で髪を洗う。
ペタペタペタペタペタ
行った。
「あんまり構うとだめだよ。あいつが何しても反応しちゃだめだから。分かった?」
「お、おう」
反応するとどうなるのか。かなり気になったが、あえて試す気にはならなかった。
髪を洗い終わって風呂に入る。
すると
ペタペタペタペたペタ
来た。
と思って見ると、何やら幼稚園児大の人型の影が、浴室のドア越しに見えた。
その影は顔を近づけて中を覗いていた。
怖っ、と思ったが、友人は普通にしゃべりだした。
「今日学校でさぁ……」
何でもない振りをするのだ、と自分に言い聞かせ、話に乗る。
しかし、影は今度はなかなか帰らなかった。
じーっとこちらの方を見ている視線を横目に感じる。
なんだよ、なんで帰らねぇんだよ。
浴室のドアの方を努めて見ないようにしながら、必死に何でもないふりをして日常会話を続けた。
しばらく話していると、
ペタペタペタペタペタ、と音がし出した。
ほっとしたのも束の間。
ペタペタペタペタペタ……
長い。帰るときの足音が長いのである。
え?
と、思わず浴室のドアの方を見てしまった。
影がこちらを見ながら足踏みをしていた。
私は一瞬会話が止めてしまったが、慣れていた友人の助けも借りて、なんとかなんでもない振りを押し通すことが出来た。
影は諦めたのか、帰っていった。
その日はそれ以降何もなく、無事に帰れた。
友人は翌日からも普通に登校して、冗談を言っては笑っている。
おれは彼を尊敬した。
※本記事はツイキャス『禍話』シリーズの「禍話 第四夜(1)」より一部抜粋し、書き起こして編集したものです。(01:00ごろから)
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