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[禍話リライト]ケン、ケン、……[禍話 第四夜]
親の転勤の関係で、関西から大分県に移り住むことになった。
小学校、中学校と仲良かった子たちと会えなくなるのは、とても悲しかったけれど、親の仕事なので仕方なかった。お互いの連絡先を交換し合って、また会おうね、なんて言ってお別れした。大分県に来てしばらくは気持ちが沈んでいたが、すぐに切り替えた。
私たち家族の引っ越し先は、fが丘という団地だ。お墓が近くにあるのが玉に瑕だが、そのおかげで土地代が安く、父と母が喜んでいた。
関西と比べれば、物価も安い。九州の海産物もおいしい。
新しい環境で頑張って、元気に楽しく過ごそう。
正直に言って、私は外見がいいので、高校にはすぐ馴染めた。ありがたいことではあったが、良く知らない男の子にデートに誘われたり、告白されたのは本当に困った。そのように恋と男女に関する厄介ごとはあれど、おおむね満足のいく生活を過ごせていた。
そんなとき、私の住む団地で奇妙なことが起こるようになった。
私の家の前の道路に、度々ラクガキがされるようになってしまったのだ。
それは、しっかりとしたチョークで書かれたようなクッキリとした白線の「ケン、ケン、パ」であった。
いや、「ケン、ケン」と言った方がいいかもしれない。
そのラクガキは、「ケン」と片足で立つような単一の丸が延々と続き、私の家の玄関近くの駐車場に続いていた。
お母さんが消しているようで、夕食の席で愚痴をこぼしていた。
「あれ、ひどいのよ!こすってもこすっても、なかなか落ちないの。近所の人に聞いてみても、ここら辺には老人しか住んでいないから悪ガキはいないって。おかしい話よねぇ」
気味が悪いな、と素直に思った。そうすると、どこかここら辺に住んでいない人が、何べんも何べんも私の家の前にラクガキをしているのだろうか。
ゾッとしない話だ。
偏見は良くないが、九州はちょっと怖いところなのかもしれない。夕食はそんな話をして終わった。
しかし、その夜。12時を回ったころに、関西で働いている兄から急に電話があった。
「なんなの……、こんな時間に……」
私はもうすでに寝入ろうとしていたが、翌日からも仕事である父や母に出させるわけにもいかず、しぶしぶ受話器を手に取った。
兄はひどく興奮した様子だった。
「あっ、あのさ、こ、ここんなときってどうすればいいのかな、やばいって、……やばすぎるって……!」
「はぁ?意味わかんないんだけど、こんな夜中に電話かけてきてさ」
兄はおびえるような口調で言った。
「仕事終わって、今家に帰ってるんだけど、リ、リビングの電気着けたら、男の子が立ってたんだよ」
不法侵入か何かだろうか。
そんなことを思っている私をよそに、兄は続けた。
「しかも、その子、笑顔で両手をこう、ぱっと広げて立ってるんだよ!!まるで「ケン、ケン、パ」してるみたいに!!」
背筋がゾワッとした。
とりあえず、兄に落ち着いてもらって、通話をつなげたままリビングに再度行ってもらったら、男の子は消えていたそうだ。兄は、戸締りはきちんとしていたし、物音も聞こえなかったと言っていた。
後日、自宅について調べたら、信じられないことが分かった。
私の住んでいる新興住宅の一画は、もともとお墓が立っていたところを押しのけるようにして建てられていた。
それを知った父と母が怒って、契約会社に詰め寄っても、お祓いはしてあるし、きちんと契約書にも書かれているとか言って取り合ってもらえなかった。
仕方なく、私たちは大きな神社に行って、お祓いをしてもらった。
その効果のほどは分からないが、お祓いをしてもらってから、ラクガキは見ていない。
それにしても、もともとお墓の所に家建てる?普通。
やっぱり九州って怖いところなのかもしれない。
※本記事はツイキャス『禍話』シリーズの「禍話 第四夜(2)」より一部抜粋し、書き起こして編集したものです。(24:25ごろから)
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