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[禍話リライト]ノック合戦[禍話 第四夜]
古文の授業を受けていたら、急にトイレに行きたくなった。
授業終了までは50分弱はあり、我慢するには長すぎる。仕方がないので、恥を忍んで手をあげた。
「先生、授業中に失礼かとは思いますが、トイレに行ってきてもいいでしょうか」
「あぁ、仕方ないですね、いいですよ」
ふぅ、緊張した、と席を立つ。隣席の友人が心配そうな顔をしているので、軽く肩を叩いて教室の外に出た。
ガラッと扉を開けて、廊下に出ると新鮮な気持ちになった。
いつもは授業終わりで賑わっている廊下が、今では張り詰めるような静けさをたたえている。どこかウキウキした気持ちになった。
耳をすませば、先生の授業の声と生徒の受け答えがかすかに聞こえる。
うちの高校はやはりマジメだな、とか思いながらトイレに急いだ。
そういえば、授業中にトイレに行くのは初めてだな。
なぞの後ろめたさを感じながらトイレの扉を開ける。トイレの個室はどこも空室だったが、万一、音がきこえたら嫌だったので、4つあるうちの一番奥の個室に入って用を足した。
スッキリした、早く教室に戻ろう、と服装を整えてから扉に手をかけると。
コンコン
誰かが、入ってすぐの個室をノックする音がきこえた。
おや?気付かないうちに誰か入ってきたのかしら?
でも、鍵はかかってなかったし、誰もいないはずなのにおかしいな、と思った瞬間。
トントン
少しくぐもった、返事のノックが聞こえた。
いよいよ不思議だった。
一体何が起こっているんだ?と困惑していると。
コンコン
その隣の個室をノックする音が聞こえた。
トントン
返事のノックが聞こえた。
先ほどよりも苛立っているようなノックだった。
こんなのは絶対におかしい。人がいたら絶対に気付くし、授業中にトイレを使う人なんて、そうそういるわけない。まさかトイレのお化け?
どうこう考えているうちに、ノックの応酬は隣の個室にも響いた。
コンコン
トントン!
返事のノックはさらに苛立っているようだった。
まずい。
次はおそらく私のいる個室が叩かれる。
自分の存在に気がつかれたら?と想像すると、ひどく怖かった。
コンコン
ノックされた。
必死に息を殺す。身じろぎさえもしないように体をこわばらせる。気付くな気付くな、気付くな。
すると
ドンドン!
目の前で返事のノックがあった。
初めから私以外に誰かが入っていたのだ。
背筋が凍った私をよそにノックの応酬は続いた。
ノックの主は何が何でも個室に入りたいようだが、個室内の誰かは決して譲らない。
ゴンゴンゴン!
ドンドンドン!
ノックの応酬はやがて憎しみをぶつけ合うようなたたき合いになっていく。
ゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴン!!!
ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン!!!
私の意識はそこでふっつりと途切れた。
誰かに揺さぶられている。
目を開くと、どうやら私は廊下に倒れていて、古文の先生に抱きかかえながら起きたようだった。生徒たちが開かれた教室の扉からこちらを覗いている。友人は大声で泣きながら私を見ていた。
「あぁ!!よかった!!気がつきましたか」
何が何だか分からないうちに、私はそのまま担架なんかに乗せられて保健室に運ばれた。保健室で気付いたが、私の口の周りはよだれでベトベトだった。
私は保健室の先生に面倒を見てもらいながら、午前中の授業を休んだ。
昼休みに教室に帰ると、あっという間に仲のいいクラスメイトに囲まれた。皆が皆、必死な形相で心配してきてくれて、ありがたかったけど、大げさだと思った。ちょっと不気味な白昼夢を見て、おかしくなっただけだ。きっと勉強のしすぎだろう。
私は皆を和ませたくて、トイレで見てしまったおかしな白昼夢のことをネタとして皆に話した。
「きっと受験勉強のしすぎだよ!明日にでもパーッと遊びに行こう!!」
私はそう言って締めたが、皆の顔色は真っ青だった。気まずげに目を背けている子もいる。
え、ここは笑ったり、気味悪がったりしてノッてくるところじゃないの?
私が皆の反応に違和感を感じていると、一番仲のいい子が言った。
「廊下から変な笑い声が聞こえたと思って、先生が見に行ったら、あなたがトイレの中で個室を指さして大声で笑っていたのよ。よだれを垂らしながら」
私は顔が強張ったのを感じた。友人はなおも言った。
「しかも、笑い声が聞こえた人はみんな言ってるの。笑い声はあなただけじゃなくて、三人ぐらい重なってたって」
その場どころか、聞き耳を立てていたクラス中がシーンとなって、スゴイ空気になった。
後日、生徒手帳を何気なく読んでいたときに、ある一文がしっかりと書かれているのを見つけた。
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一. 授業中、トイレに行くべからず
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※本記事はツイキャス『禍話』シリーズの「禍話 第四夜(1)」より一部抜粋し、書き起こして編集したものです。(08:20ごろから)
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