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[禍話リライト]アイスの森[禍話 第五夜]
「行こうぜ、アイスの森」
今年、就職してしまう先輩がまじめな顔で言い放った。
「嫌ですよ、一人で行ってください」
「何でそんな冷たいこと言うんだ。先輩が頼んでるんだぞ」
不機嫌そうにする先輩にため息が出てしまう。
「先輩が言ったんですよ?”アイスの森”は私有地で、入ったら通報されるって。僕にも将来があるので、絶対行きません」
僕は、頑として譲らなかったが、先輩があまりにもしつこく頼んでくるので、面倒くさくなって、つい同行することを承諾してしまった。
「行くのはいいですけど、僕は入りませんからね。入り口で見張ってるだけですから」
「ありがとう、恩に着るよ。これで心置きなく卒業できる……」
と、そういうことになった。
”アイスの森”は心霊スポットである。
インターネットに乗ってるような有名どころではなく、地元で細々と噂になっている、あくまでローカルな場所だった。
ただ、いくら噂を辿ってみても、その曰くや体験談は杳として知れなかった。
場所の雰囲気が不気味なだけでは?
いやいや、あそこに行くと、”何か起きる”んだよ。
そんな感じに語られながらも、具体的なことはいくら調べても分からなかった。
しかし、先輩はどうにも気になってしまい、独自の調査を続けて、場所を突き止めたらしい。
場所が分かったはいいが、いくつかの問題点が浮上した。
まず、アイスの森は私有地であった。肝試しとして入ったところを見られてしまったら、警察に通報されてしまう。ビデオなんかでも撮られているらしく、それなりに警備があるということだった。
次に、アイスの森はスゴイ田舎の方にあった。先輩の住んでいるアパートから車で往復10時間ほどかかるらしい。また、アイスの森周辺には、店どころか家すらない。そんなところに行って、何も怖いことが起きなかったら目も当てられない。
そんな理由から、特別なことがないと行こうとは思わないよね、というのが"アイスの森"を知っている人の総意だった。
先輩の卒業が特別なことかどうかは置いておいて、行くきっかけにはなった。
"アイスの森"までは車で5時間強もかかってしまった。
町から山の景色が多くなるにつれて、道が入り組んできて、見分けがつかなくなり、迷ってしまったのだ。辺りはすでに真っ暗だ。
「もう真夜中じゃないですか、こんな中一人で待つの超怖いんですけど」
「まぁまぁ、ちゃんと着けたわけだし」
ぶつくさ言いながら、車を降りると、目の前の森の異様さに目を奪われた。
夜の森と昼の森は別ものだ、と思った。
葉がざわざわと風に吹かれて騒いでいる。木は手前の二、三本しか見えず、暗闇が広がっている。微かな虫の鳴き声に混じって、何かの鳥の鳴き声。人工的な物音は一切聞こえず、ただ自分と先輩の息遣いが聞こえるほどに静かだった。
「……、これが"アイスの森"ですか?何も起きなくても、入るだけで怖いですよ、これ」
「馬鹿。"アイスの森"は絶対普通の森とは違うって。もっとゾクゾクするようなエンターテインメントがあるはず!!あ、おい、それよりこれ見てみろよ」
先輩は、森に向かって歩いていって、手前で止まった。見ると、何やら看板が置いてある。
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ビデオがあなたを見ています!!!!
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その看板は古ぼけていて、すっかり苔むしていた。看板を支えている木は半分朽ちていて、何年も放置されていたようだ。
この私有地、もう管理放棄されてるんじゃない?
"アイスの森"周辺は山で、家の一つ、明かりの一つも見当たらない。たとえ管理されていても、すぐに誰かが来ることはできないと思えた。
「じゃあ先輩、僕ここで待ってるんで、行ってきてください」
先輩は変な顔をした後、ニヤリと笑った。
「お前、この真っ暗な中、一人でずーっと待ってるのか?」
周囲を見渡す。真っ暗な森。生温い風。ガサガサと動く茂み。
僕は先輩についていくことにした。
森の中を進む。木の根を乗り越え、茂みを掻きわけ、けもの道を進む。息が上がる。
「しばらく歩きましたけど……、何にもないですよね……」
「もうちょっと奥行ってみよう……。絶対なんかあるはずだ……。アイスの森伝説は俺がひも解いてやる……」
無言で進む。足にいくつかの草による切り傷が出来た頃に、足元に変な感触があった。
サク……サク……
何だろうこれは?霜柱?
足元を見ると、木の棒が刺さっていて、それを踏んで押し込んでしまったらしい。
でもこれは、木の棒というか……アイスの棒だった。シャーベットが刺さっているようなよく見るアレだった。
「おい……、そこら中アイスの棒だらけだぞ……、なんだこれ」
先輩が言うように、木々の間、茂みの隙間に木よりも多いぐらいの本数のアイスの棒が刺さっていた。
これで"アイスの森"?
と思って、アイスの棒を引き抜いてみると、名前が書いてある。
たまちゃん
他のも見る。
ぴ~ちゃん
でめちゃん
「なんか安直なペットの名前みたいだな。ペット墓場が"アイスの森"の真相か?いろんな人がペット捨てにきて、その動物霊がみたいな……」
「多分違いますよ先輩」
僕は、すこし森の奥の方のアイスの棒らを引き抜いて見ていた。
みけねこ
でめきん
くろねこ
からす
みけねこ
すずめ
すずめ………
おびただしい数のアイスの棒には、同じ筆跡のひらがなで書きなぐられていた。
「これ何か変質者が動物殺して埋めてるんじゃないですか?多分地主の息子かなんかですね。気味が悪い……」
僕が調査しているうちに、先輩も少し奥の方のアイスの棒を調査している。しかし、何か様子がおかしい。
「おい、やっぱり帰ろう、ここヤバイよ」
「どうしたんですか、急に。でももう帰りましょうか……」
先輩が手に持ったアイスの棒には、動物の名前は書かれていなかった。
どらいぶ
さんさいとり
おじさん
おばさん……
あ、これやバイ。
「先輩、もうかえりましょ」
ガサガサガサ!!
森のさらに奥の方から茂みをかき分けて何かが近づいてくる。
「きもだめしーーーー?!」
ものすごく楽しそうな40代男性の声だった。
僕と先輩は必死に逃げた。パンツが濡れるのも、木の根に躓くのも構わなかった。
車に倒れ込むように乗り込んで、飛ばす、近くのコンビニで止まって、座席からしばらく動けなかった。心臓がバクバク言っている。
「これさぁ……、"アイスの森"の情報は、封印だな……」
僕と先輩はコクコク頷き合った。
※本記事はツイキャス『禍話』シリーズの「禍話 第五夜(2)」より一部抜粋し、書き起こして編集したものです。(12:40ごろから)
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