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[禍話リライト]雛人形[禍話 第五夜]

大分県、fが丘に引っ越してから、一か月たった。

お父さんとお母さんは、ずっと一軒家に住みたがっていたので、狭いアパートから引っ越せて嬉しいみたいだった。

新居は、一階建てだけど、五人家族で使うのに十分なスペースがあって、清潔な感じ。僕と弟は広い居間で遊んだりして嬉しかった。でも、三歳の妹は新しい家が嫌だったみたいで、グズッたり、夜泣きしたりすることが多くなってしまった。

両親も、なんとか機嫌をよくしてもらおうとするけれども、引っ越した直後で、お金も時間もないらしく、困っているだけだった。それもあってか、妹はなんだか元気がないように見えた。


ある朝、同じ地区の子たちと集団登校しているときに、スゴイ事件があった。

通学路の脇にあるゴミ捨て場に、見るからに豪華なものが大量にゴミ捨て場に捨ててあったのだ。

掛け軸や木彫りの熊、雛人形一式などの骨董品や金持ちが飾るような複製画がまとめておいてあった。

誰かが車でもってきて、いっぱい持ちこんだとしか思えないような量だった。

「宝物じゃん!!やべーって!!」

テレビの中でしか見たことのない珍品を見て、僕たちは騒ぎに騒いだ。

スゲー、スゲーみたいな感じになって、その日は学校でもその話題で持ち切りだった。


下校時間になって、もう捨てられちゃったかな……、と思いながら、同じ地区に住んでない子まで、件のゴミ捨て場まで偵察をしに行った。

果たして、宝はまだあった。

どうやら捨てる日が違う?みたいで、そのような内容の貼り紙が貼ってあった。

こんなに豪華なものなのにもったいないな、と残念に思った僕たちはひらめいた。

家に持って帰ってしまおう。しめしめ。

各々好きなものを手にとっては、こうこうこうして遊ぶんだ、なんて言いながら騒いだ。

何を持って帰ろうかな、と考えて、ふと雛人形が目に入った。元気のない妹が思い浮かぶ。

もうすぐひな祭りだけど、引っ越しだかなんだかでお金がなくて、お祝いが出来ないと両親が嘆いていた。

かわいそうだし、妹にも元気出してほしい。雛人形一式を持って帰ってあげよう。

僕と弟は示し合わせて、一度家に帰って持ってきた袋に雛人形一式を入れて運んだ。

両親にばれたら流石に怒られることは目に見えていたので、内緒で妹にあげた。妹はきょとんとして、雛人形を見ていたが、やがて触ったりして遊びだした。妹がおとなしく遊んでいるところは久しく見ていなかったので、僕と弟は安心して笑い合った。

そして両親にバレた。

両親は烈火の如く怒った。

僕と弟は正座させられて、泣きべそをかいていた。しかし、両親も妹が肌身離さずお雛様を持っているのを見て、何か考えたようで、結局は今回に限って許された。

「でも、一体だれがこんな豪華なもの捨ててったんだろうね」

両親も心当たりはないようで、不思議がっていた。

雛人形たちは、押し入れにしまわれた。


翌日、皆と会うも、落ち込んだ様子である。

「父ちゃん母ちゃんに見せたんだけど、怒られちまって、ゴミ捨て場に返しに行ったよ」

皆めいめいのものを持ち帰ったが、家族に怒られて、返してしまったそうだ。

そして、どこの家でも豪華なゴミを捨てた家に心当たりはなかった。

不思議だなー、なんて思いながら帰った。


その夜、ガサゴソと物音がして起きた。気のせいで片づけるには、あまりに大きい音だった。そんな音が断続的に続く。

廊下に出てみると、お父さんお母さんも起きてきている。

「泥棒か何かかもしれない。隠れていなさい」


お父さんがそう言って、音がする方へ向かっていった。

しばらくすると、顔面蒼白で帰ってきた。

音がした先に行ってみると、妹の部屋であったが、中に妹がいなかった。

泥棒?誘拐?人さらい?

皆で慌ててしまって、とりあえず、警察に電話しようとなったそのとき。

物置の方でひと際大きい物音がした。


恐る恐る、家族一同が手近に合った長物を持って行ってみると。

妹がいた。

庭の物置の方で何やらやっているようである。

「おい、何やってるんだ、こんな夜中に」

両親がどこか怒るような口調で詰め寄ると、固まった。

どうしたのだろうか、と近くによってみると、

三歳の妹は、物置内の階段を利用して雛人形を飾り付けていた。

しかも、勝手知ったるかのように慣れた手つきで、雛人形の着物を直してやったりしている。

僕はもう見てられなくて、妹をやめさせようとして手を掴んだら、燃えるように熱かった。

妹はそのまま熱がでて、寝込んだしまった。

翌朝起きたときに聞いてみても、まるで覚えていないようだった。

すぐに雛人形たちは袋に詰めて、ゴミ捨て場に捨てに行った。


結局、高価なごみを捨てたのは誰かは分からなかった。


※本記事はツイキャス『禍話』シリーズの「禍話 第五夜(1)」より一部抜粋し、書き起こして編集したものです。(05:05ごろから)

https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/310891890

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