[禍話リライト]ロットリエスピン [禍話 第六夜]
「先輩、ロットリエスピンって言葉知ってますか?」
会社で昼休憩を取っていると大学時代の後輩から電話がかかってきて妙なことを聞かれた。
「ロットリエスピン?何かの専門用語?」
煙草を吸いながら何気なく聞く。
「いや、僕もよく分かんなかったんですけど、変な夢見たんですよ」
そういって彼は電話越しに語り始めた。
仕事から帰って疲れのままに布団にもぐったら、なんと地元の小学校の机に小学生の姿で座っている。周りには見覚えのあるような生徒たちが熱心に授業に聞き入ってノートを取っていた。
(ははん、これは夢だな)
彼はすぐに分かったそうだ。何十人もの小学生がこんなにマジメに勉強をするわけがない。
木造の校舎、教室に懐かしい気持ちになりつつ教壇の方を見やると、見覚えのある男性教師がボソボソと講義をしている。
「えー……、であるからして……、このロットリエスピンというものは……」
静まり返った教室の中で講義と板書のチョークの音だけが響く。
黒板にはびっしりとロットリエスピンなるものについて解説の文言が書き連ねてある。
「で、何が書いてあるんだろう?と思ったところで目が覚めちゃったんです。不思議ですよね?」
「まぁ、確かに不思議だな」
何だ、どうでもいいことで電話してきやがって。
そう思ったものの、適当に世間話をして、話が途切れたときに仕事だから、と言って電話を切った。
それからしばらくして、会社がひと段落したときに同期と私の部屋で飲むことになった。取引先や上司の愚痴を言ったり聞いたりしながら、宴会は夜通し進んで、気がつけば皆がそこらへんに布団を投げ出してはそのうえで寝ていた。
宴会の翌朝、眠い目をこすりながら起き上がると、同僚のうちの一人、メモ魔の奴が枕元のメモを見ながら何やらニヤニヤしている。
「何見てんの?」
「あぁ、いや、下らないんだけどさ」
そう言ってなぜ笑っているのか語り始めた。
気がつくと、高校時代に通ってた塾で大勢の生徒のうちの一人として講義を受けている。
すぐに、あぁこれは夢だな、とわかった。明晰夢というやつだ。
壇上では、お世話になった先生が熱弁をふるっていた。
あぁ、この人は熱い感じの先生だったな、全然勢いについてけなかったよ、なんて思いながら、なんとなく講義を聞くが、何の科目かは分からない。何かの用語を話しているようだが、全く聞き覚えがなかった。講師は講義をしながら、要所要所でホワイトボードに、文字を書いている。
「いいか、最近になって重要になってきた概念が『ロットリエスピン』だ。これ絶対試験に出るからな。ロ、ッ、ト、リ、エ、ス、ピ、ン、と。はい、全員書き取り。五回な。少しでも文字が違うとだめだからな!!」
なんだこの夢は。あほらし。
そう思ったものの、他の生徒は熱心に書き取りをしている。仕方なく、ノートに書く。
ロットリエスピン
ロットリエスピン
ロットリエスピン……
というところで目が覚めた。
目が覚めても寝ぼけていたので、思わず枕元のメモ帳に書いて、寝直してしまったのだという。
そして、起きたら『ロットリエスピン』なる意味不明の単語を夢の通りにしっかり五回書きとっている自分が馬鹿馬鹿しくて、つい笑ってしまったのだという。
「な?馬鹿馬鹿しいだろ?」
一緒に泊まっていた同僚たちは白けたような雰囲気を醸しだして、早く朝飯食いに行こうぜ、ねみ~なんて話ながら、ぞろぞろと玄関に向かっていく。
私は眉をひそめて、後輩の話を思い出した。ロットリエスピンに何かあるのだろうか。玄関から出ていく同僚たちを背に携帯でロットリエスピンを調べてみる。
しかし、特に何も検索にヒットしない。
変だな、と思いつつ、私も朝飯を食いに行くことにした。
それからは特に何もない。恐怖体験のようなこともない。
しかし、ロットリエスピンという単語だけはしっかりと覚えてしまっている。
※本記事はツイキャス『禍話』シリーズの「禍話 第六夜(1)」より一部抜粋し、書き起こして編集したものです。(01:50ごろから)
よろしければ、サポートお願いします!頂いたサポート費は活動費用に使わせていただきます。