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[禍話リライト]誘う看護師[禍話 第四夜]

朝起きたら体がだるかった。

熱を測ってみると38度近い熱がある。

その日は学校に行く日だったけど、ぼくはお母さんが付き添われて病院に行くことになった。


ぼーっとしながら広い待合室でダラーッと座っていると、部屋の端っこの方で何かが動いていた。

何だろうと思って見ると、おばさんぐらいの年のナースの人が待合室につながる廊下に立ってぼくに向かって手を振っている。

おばさんは僕と目が合うとちょいちょいっと手招いてそのまま廊下の先に行ってしまった。

ぼくは無性に気になってしまってだるい体を引きずって看護師さんがどこに行ったのか見に行った。

廊下の先を見たぼくはテンションが上がった。

おもちゃがいっぱい置いてある部屋があったのである。

その部屋には絵本や小さい滑り台、アニメでやっているようなロボットの人形もあって男の子も女の子も仲良さそうに一緒に遊んでいた。

部屋までは結構距離があるけれど楽しそうな笑い声も聞こえる。

きっと子供が飽きないように待てる部屋だ!

ぼくのことを呼んでくれたおばさんは部屋の前に立って楽しそうに笑いながら、ぼくを「一緒に遊ぼうよ」みたいに誘っていた。

ぼくはスゴイ行きたかったけど行かないことにした。

だって、ぼくは風邪をひいているしきっと他の子やおばさんにも移してしまう。

「誘ってくれてありがとうございます。でも、ぼくはいいです」

ぺこり、とお辞儀をした。


おばさんは一瞬止まった。と思ったら。

笑顔はそのままに、手全体を振るようにすごい勢いで手招きしてきた。


ぼくはちょっと怖くなったけど、熱心に誘ってくれるなんて良い人だな、と思った。そんな人を風邪にさせてしまうわけにはいかなかった。

ぼくは申し訳なく思いながらその廊下を立ち去った。


それから先生に診察してもらって普通の風邪です、と言われた。お薬をもらう。

今日は学校に行かずに家で一日休もうね、という話になって親切な看護師のおばさんが気になった。

また今度来るときに使うかもしれないし挨拶ぐらいはしておこう。

お母さんに言って帰りがけに子供の待合室に向かう。

待合室の隅っこの方に行ったが、びっくりしてしまった。

子供部屋に続く廊下があったところは壁になっていた。


え?なんで?

ぼくはよくわからなくなって、お母さんに相談した。

「え?子供部屋?そんなものなかったわよ?」

風邪でよくわからないものが見えたのかもしれない。お母さんはぼくと手をつないでくれて病院を出た。


車で家に帰る道すがら、流れる景色をぼんやりと眺めながら考えた。

あのおばさんに誘われるままに子供部屋に続く廊下に足を踏み入れてしまっていたらどうなっていたのだろうか。


※本記事はツイキャス『禍話』シリーズの「禍話 第四夜(2)」より一部抜粋し、書き起こして編集したものです。(10:25ごろから)

http://twitcasting.tv/magabanasi/movie/306839602

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