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1989年の日本のアクションの転換点

1989年にある二人の天才が交差したという話。

開始3分頃。たった8カットで構成された喧嘩シーンに、気づかれないよう1カットだけ逆回転を使い、主人公が並外れた胆力で相手をぶん投げる様子を描いている。古典的なトリック撮影だがとても上手い。
1989年、勝新太郎監督・主演による『座頭市』の冒頭のシーン。
この作品は勝新の身体能力も凄いが、 アイデアマン勝新によるアクションのネタの宝庫である。

竹槍真っ二つ。

これは敵が竹槍で突いてきたのを座頭市が刀で二つに割るところ。直後、座頭市の後ろで二人の敵にそれぞれ刺さる。
座頭市の目の良さ(盲目なのに!)と早さが表現されている。

勝新のアクションのアイデアは、荒唐無稽な座頭市の強さに対し「ありそう」という説得力を与えることに成功している。
例えば、座頭市は刀捌きが鮮やかな上に腕力も強すぎて、
敵と一緒に木材も斬ってしまう。

斬られた木枠が吹っ飛んでる
ところどころに斬られた木枠が。

室内シーン、あちこちで綺麗に斬り取られた木枠が座頭市の強さを表している。しかし実際に刀はこんなに木を斬りまくると刃こぼれして切れ味が鈍るはずだが、そこはギリギリ「座頭市なら切れ味が良いからありそう」と思わせる。

柱ごと敵を斬る。

敵を斬る勢いで軒先の柱を真っ二つにするシーンはさすがに敵の大将も「バケモンかよ・・・」という表情。

ここなんて7人を切れ目なし1カットで斬り倒すんだが、座頭市は盲目なので勢いで自分の衣服が顔にかぶってもお構いなしなのが、常人にはあり得ない感じでバケモンぽくて良い。

こういう「強さ」を肯定するアイデアがこの作品は豊富なのだが、
そこに勝新の身体能力の高さ、特にスピードが乗っかり、日本映画のこの時点でのフィジカルアクションの最高峰になったと思う。

映画はヒットするが、撮影中のスタッフ死亡事故と、勝新の麻薬スキャンダルで、勝新自身がこの作品をピークにこういう映画を撮れずに終わってしまう。

そして、もう一つの理由で、このフィジカルアクション路線は廃れる。それはある作品の登場による。
同じ1989年公開の北野武監督・主演『その男、凶暴につき』である。

何回も何回もビンタする武。

執拗にビンタを繰り返すショッキングな暴力シーンなど、武のアクションは痛みを感じさせるリアル描写で、今までの日本映画にも無かった鮮烈さを観客に与え、邦画アクションのトレンドが一気に武路線へ移行する。

勝新のようなアクション能力の高い俳優に依存せずに、リアルにしつこく殴るアクション描写は、低予算映画でも再現可能で、かつスタイリッシュにも見えて、ある時期は武フォロワーの一辺倒となる。

そして長年撮影所で培った技術を持つスタッフと共闘で組み上げるようなアクションシーンが邦画から減っていく。残念だが、武映画のインパクトは世界まで影響力を与えたのだから仕方ないかもしれない。しかし、もし勝新が映画を撮り続けて、この方向性がもっと継承されていたら、中国香港よりもワイヤーアクションの覇者になれたかもしれない。

ということで、1989年の天才二人の交代劇。

2003年に北野武が座頭市を撮ったのは必然であり、
正直言うと、ミュージカルにしたのは頭がいいと思ったが、
真正面から勝新のようなフィジカルアクション路線に挑んでほしかった。(もちろん武版も作品として好きなのだが)

ちなみに、
2011年の『るろうに剣心』の登場によってブームが定着する前に、このフィジカルアクション路線に挑戦した作品がある。

武の『座頭市』と同じ2003年公開の北村龍平監督の『あずみ』だ。

『あずみ』は評価が高くない気がするが(ちょっと芝居が変なシーンがある)、もっと褒められて良いと思う。
ラストの殺陣で、誰もまねしない中で『座頭市』リスペクトをやってみせている。設定も似てるし、撮影場所まで一緒。まさに真正面からやっている。
そして上戸彩に勝新のアイデアのいくつかを派手にバージョンアップしてやらせているから見比べてほしい。(竹槍は飛んでくる矢に!)
最後のオダギリジョーの死に様の「見せ物」感たるや(ここだけでも観て!)、きっと勝新が生きてたらニヤリとしたんじゃないかな。

ま、勝手な想像なんだけど。


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