「心」1.始まり

「一つ、二つ、三つ、一つ、二つ、三つ、一つ、二つ、三つ……。0が出てこない……。0はどこにあるのだろう……」

数える時に、なぜ0は数えないのだろう。

宇宙が始まる前には0があったのだろうか。

そんなことを呟きながら、考えながら、気付けば夢の中にいた。

薄暗い、日が少し暮れた公園で、二人が追いかけっこをしていた。

どちらが鬼でどちらが逃げているのか分からなかった。

どちらも円を描いてお互いを追いかけ、お互いから逃げているからだ。

男の子と女の子だった。気付くと僕は女の子を追いかけていた。でも見ようによっては逃げているようにも。と思うや否や女の子は小さな鬼になっていた。

小鬼は円を回るのをやめた。少し円の外に出て僕にこう言った。

「君に私が捕まえられるかな?」「君は私から逃れられるかな?」

そう問うと、小鬼の中心から真っ黒な穴が出来た。小鬼は落ちて行く。その穴は広がってゆく。僕は落ちるのが怖くて、必死に外側へ走った。

翌朝、起きると夢を見たことを忘れていた。

その日は休日でそういう日は散歩をして、喫茶店でカフェラテをグイグイ飲んで、読書をするのが日課だった。

宇宙の本とはてしない物語というミヒャエル・エンデの小説を持って行った。適当に本を開いて宇宙の本を読んで、すぐに飽きて、はてしない物語を適当に開いて読んだ。はてしない物語のいいところはどこから読んでもある程度読めてしまうところだ。

宇宙の本を読んでいて印象的だったのは、私たちの宇宙は何故だか少し膨張する方のエネルギーの方が強いということだった。引き寄せる力と膨張する力が確かに均一でいいはずなのに、それに繋がるのが結局、何故私たちの宇宙は始められたのかということだ。宇宙の始まる前にもエネルギーの揺らぎだけはあって、しかしエネルギーは何故揺らいだのか、最初のエネルギーは一体どういう性質を持っていたのだろう。僕が読んでいる本によると、最初の揺らぎが今でもずっと続いて、宇宙が膨張しているらしい。

僕はぼんやり宇宙を想像しながら、休みの日を終えそうになっている。その日風呂に入っていた時に、なんとなく風呂を揺らしていた。こんなんが宇宙を膨張させたんだなあ、と思っていた。すると不思議と分かるような気がしていた。最初僕はそれとなく揺らしていた風呂は、僕の揺らぎに合わせて揺らぎを大きくさせていた。

その日、また僕は夢を見た。

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