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お家での過ごし方で差が出る 伸びる子はどのように過ごしているのか?

『あと伸びする子はこんな家で育つ』(花まる学習会 高濱正伸、相澤樹)の【第一章全文公開】

 コロナ変異株の影響が懸念される中、感染者が日に日に増えています。
お子さんと連れだって外出もしづらいので、おうちで過ごされる方が多いと思います。しかしずーっとおうちで過ごすとなると、お子さんがゲームやYouTube漬けになってしまう…と頭を抱える親御さまも多いはず。
 今回花まる学習会代表の高濱正伸さん、花まる学習会の相澤樹さんが推奨するおうちでの過ごし方、伸びる子がおうちでどのように過ごしているのかを解説した『あと伸びする子はこんな家で育つ』の第一章分を全文公開します。

第一章 あと伸びする子が育つ家の環境づくり

ファミリーライブラリーをつくる

✔親が本を楽しんでいる姿
✔会話のきっかけづくりにも

「読書が子どもにとっていい」
 これは、みなさん、割と「そうですよね」とうなずかれると思います。伸びる子の特徴の一つとして、ある時期に多読だったというケースがあります。読書の効用は枚挙に暇がないので、ここでは「読書をする子は、どうやったら育つのか」という部分に焦点を当てていきましょう。
 これには、頭を悩ませる保護者の方が多く、保護者面談をしていても「うちの子、本を読まないんですよ」という相談をよく受けます。親が読書をしている姿を見せる、思春期以降に心をぐっとつかまれる本に出会うきっかけをつくるなど、対応は様々あるのですが、その一つに、住まい、空間からアプローチできる方法があります。
 それは、「ファミリーライブラリーをつくる」ということです。
 家の中に本が身近にある状態をつくることが大切です。子ども専用の本棚をつくることも、子どもにとっては嬉しいことかもしれませんが、本を飾ることがゴールとなり満足してしまうというケースも見られます。
 おすすめは、父母が読む本も一緒にずらりと並んでいる「ファミリーライブラリー」です。「書斎」や「本の一室」をつくっているケースもあるかもしれませんが、いわゆる重厚なイメージの書庫ではなく、いつでも目に入るところ、思い立ったらすぐ手に取れるところにつくり、本へのハードルを低くすることを意識してみてください。
 そこから親御さんが自然と本を手に取って開いて読み、少しの時間没頭する。そんな何気ない姿を子どもはよく見ています。「いつもお母さんは本を読んでいるときは嬉しそうな顔をしているな。そんなに面白いのかな」と思い始めたら、もう少しで自発的に本に手を伸ばし始めるでしょう。人に読みなさいと言われるのではなく、読んでみたいと自ら思うことが読書の世界への第一歩です。読書をする姿をぜひ見せてあげてください。
 もう一つ、読書の動機を高める手段として、「表紙が前を向いている」方が、子どもの視覚に訴えやすく、「この本を読んでみたい」と瞬間的に手を伸ばしますね。これは、本屋さんや図書館で子どもたちの動きを見ていると明らかです。基本的に整然と並んでいる背表紙の本には見向きもせず、やはり対面して目に入る表紙や、平台に置かれているものに目が向かっています。
 過去に数例同じことを取り組まれているお母さんがいらっしゃいました。リビングのごく一部に表紙を向けて3冊程度並べればいっぱいというくらいの小さな本棚を用意します。その本棚に「今週の本のコーナー」と名付け、ここからが肝心です。お母さん自身が図書館で見つけた「自分が読みたい児童書」を並べたそうです。別の例では「今月の一冊」と称して毎月1冊、本屋で買った本(季節に合わせたものが多いと仰っていました)を置き、前月以前のものを階段に表紙が見えるように並べていったという話を伺いました。共通しているのは「読みなさい」とか「読ませよう」という意思がそもそもなかったということです。第一に私が読みたいから置いておいた。気になって手に取ってくれたらもうけもの。興味がなければ、それはそれでいいくらいの心持ちで始めたところ、結果として更新されていく本を心待ちにすることが家族の行事になったということです。インテリアデザインとしても、かわいらしく彩れるというのがお母さんの密かな楽しみだとも話されていました。
 遊び心をくわえて、月ごとにテーマを変えたり、「季節の本」「お父さんのおすすめ本」「お母さんのおすすめ本」などにしたりするのも、子どもたちの関心が続くでしょうし、本を通して会話のきっかけになることもあるでしょう。
 また、活字より絵(漫画)が多いというだけで、その本は不要と敬遠される方もいらっしゃいますが、社会に出て大活躍している人たちの趣味が意外なことに漫画の多読という話を聞くことが多いのです。活字の醍醐味は、読みながら頭の中でその場面や登場人物や心理を自分で想像することですが、やはり子どもの頃は、想像部分を補完してくれる絵の存在はありがたいものです。
 例えば、歴史漫画や偉人伝漫画などは好例ですが、子どもたちにとってのロマンを搔き立てるものであることは間違いなく、だからこそずっと残っている訳ですよね。子どもたちにとっても大事にしたいのは、絵ではなくストーリーなのです。ストーリーを純粋に楽しみたいからこそ、場面や人物像を絵にしてくれていると、より理解したいところに集中できるということが言えるでしょう。しかし、そこを「楽をしているのではないか」と思われがちなのです。読書の目的は苦しませることではないはずです。歴史漫画や偉人伝漫画に熱中している子どもたちはそこから多くを楽しく学んでいます。そこは柔軟にとらえられるとよいかもしれません。もちろん、いわゆる娯楽漫画も、過度に遠ざける必要はないと私は思っています。

遊びに没頭できるスペースをつくる

✔小学校低学年期までは特に必要
✔子どもは「はじっこ」が好き

 良質な遊びに没頭できるスペース。
 これは特に、幼児期、小学校低学年期には、絶対に用意してあげたい空間の一つです。マットを敷くなどして、「ここでだったら何をして遊んでもいい」という場所を確保してあげるのがおすすめです。
 部屋一室など、広くなくてもかまいません。
 むしろ、子どもたちは、「はじっこ」が大好きです。子どもたちを広い部屋に集めて、「はい、じゃあ、自由に遊んでいいよー」とすると、面白いことに、なぜか、まずは部屋の四隅で遊び始めます。そして慣れてくると、次は、壁際(四角形の辺の部分です)に少しずつ領域を広げます。真ん中でどーんと遊ぶことは、実はあまりありません。ですから、家の中に子どもの遊びのスペースをつくる時も、四隅のどこかということを心に留めておいていただくと、子どもたちの「没頭スペース」がつくりやすいでしょう。
 また、人間の特性として、一段下がった「溜まり」が落ち着くという研究結果があるということを知りました。この特性に着目し、最近ではあえて段下げした空間をつくる家も増えているようです。これは子どもたちにとっても楽しい空間ですし、家族の皆が何となく集まりリラックスできる場所になりそうですね。また、中二階になるようなロフトの設置なども幼児期の子どものプレイルームとしていいですね。大事なのは「ここは遊び場」という明確な区切りです。
 もちろん、そういった家づくりのところから、手を入れられるケースではない場合もあると思いますが、ジョイントマットの組み合わせや、キッズテントやティピーなどで区切る、この中ではなんでも自由にしていいよと栅で空間を区切るなど、工夫次第で、「没頭スペース」は生み出せます。お子様と相談しながら、空間自体を一緒につくってみても楽しいですね。

ホワイトボードを設置する

✔子どもに説明させる経験を
✔スケジュール感を養うにも効果的

コミュニケーションの場としてのリビング、またキッズスペースとしてのリビング、どちらにもおすすめなのがホワイトボードの設置です。花まる学習会では随分前からドラフトウォールと呼ばれる、大きな薄手のホワイトボードを壁に貼り付けることの効用を提唱してきました。
 マグネットを使えば壁面の遊び場になり、水性ペンを使って絵を描いたり、子どもに勉強を教えたりする黒板代わりにもなります。また家族のコミュニケーションツールとしても使える多機能ホワイトボードは比較的取り入れやすく大変おすすめです。
 高度な使い方としては、子どもたちに「説明をする経験」を積ませることができます。例えば、新しい単元を学習したときに、習ったことを人にわかりやすく説明できているようであれば深い理解に至っていると言えますし、仮に上手にできなくても説明をすることを通してどの部分の理解が甘いのかを実感することができるのです。
「勉強やったの?」
「宿題できた?」
 こんなふうに聞くよりも、「今日の宿題の算数の問題のやり方、先生になって、ホワイトボードを使ってお母さんにも説明してくれる?」の方が、子どもたちも断然気分よく取り組めるかもしれません。
 また、毎日の漢字クイズ5問などとして、漢字の確認テストを書いておくといったように楽しく学ぶツールとしても最適です。
 また、ホワイトボードに、帰宅後の自分の予定を書かせるというのもおすすめです。
 何時に宿題をやり、遊ぶ時間は何時で、いつお風呂に入り、何時に寝るか。
 言われるのではなく、「自分で決める」ということの効能が大きく見られますし、自ら可視化することですっかり忘れてしまうということが格段に減ります。高学年から少しずつ始めればよい課題ではありますが、スケジュールを立てて実行するということ自体、後の学習や大きくなってからの仕事に至るまで子どもたちの常に近くにあるものです。ホワイトボードの習慣があることで、スケジュールを書き出す習慣を身につけられる可能性が高まります。

「子ども部屋」は絶対ではない

✔個室にこだわらず、家全体に居場所を
✔主体性が生まれているかが肝

「子ども部屋は何歳から必要ですか?」
「子ども部屋を用意してあげるスペースがありません。思春期を迎えるこれからは大丈夫でしょうか?」
「子ども部屋をつくると、子どもがやっていることが分からなくなるので不安です」
 このように、子ども部屋に関する悩みは少なくないでしょう。面談でもよく聞かれます。
 これらの質問に関しては、「あるか、ないかということを考える前に、まずは、家全体が子どもの居場所になるようにしてあげてください」とお返事しています。一般論として子ども部屋の是非や与えるタイミングが語られますが、現場で見ている感覚としては、これという正しい回答はありません。
 そもそも、前述した二つめの質問のように物理的に難しいことは仕方がないことです。そこで強引に子どもの居場所を確保して、周囲がそのことによって不便さを被ってしまうのは本末転倒です。
 また、子ども部屋を与えてみて、ここは大人の部屋、ここは子どもの部屋と壁で区切ってしまうことで、なんとなくコミュニケーションの機会が減ったな……と感じるようであれば、少し見直しが必要でしょう。「ゆるやかに空間がつながっているが、この場所は自分のエリアだな」と感じることができればいいのです。絶対に「5年生になったらそういう場所が必要」ということではなく、学年や年齢に関わらず、成長の過程の中で「一人でいる『時間』がほしい」というサインが感じられたところから考えればいいと思います。
 ポイントとしては、
・「家族の息遣い」が感じられる場所にする(二階の個室に一人で扉を閉め切っている状況が普通ということはできれば避けたいところです。家族が家事をする動きや、食事の匂いなども、感じられるといいでしょう)
・空間が仕切られていないほうがよい。難しく考える必要はなく、独立した部屋であっても扉は開いている
 このような部分です。

何を置いておくかも大事

 子ども達と接していて感じるのは、「やらされ感」を持ったまま勉強や遊びに取り組んでいる子どもというのは、伸び悩む、ということです。「自分から」学ぼうとしているか。「自分が」考えて、遊びを生み出しているか。自主性は、将来魅力的な、メシが食える大人になるためには、必要不可欠な要素であるといえます。「うちの子、なかなか自主性がなくって……。どのように声かけしたらいいですか? 何か親ができることはありますか?」と悩まれる方も多いですが、声かけに関しては、「放っておく」ことです。これが何よりも大事です。あれこれ先回りして、何かに誘導しようとしても、子どもは必ず敏感に感じ取り、場合によっては、先回りされたことにより嫌になってしまうケースもあるでしょう。
 ただ、「子どもスペースの環境」だけは、少し先回りして配慮できる部分もあります。刺激的かつ、受動的になりやすいおもちゃではなく、自然と能動的になって取り組めるような遊び道具を、準備して、「そっと」置いておいてあげてください。パズルや、工作、本などがおすすめです。そして、「放っておく」=「こっそり、見守る」。すぐに、興味を示さなくとも、そこは待ちの姿勢で。「やりなさい」と言われて取り組んだ五回よりも、自分から「やりたい」と思って取り組んだ一回の方が、その子にとっては何倍もの学びになりますから、親はあせらず、放っておいてあげましょう。
 また、「自主性を引き出す子どもスペースをつくった」として、最初はそこで遊んでいた子どもも、飽きて来たら段々と移動するかもしれません。しかし、「そこは散らかさないで。遊ぶ場所はここ!」と注意してしまうと、子どもの「遊びたい」という気持ちは、しぼんでしまいます。移動した先で、自主的に何かを発見して遊んで、飽きたらまた別の場所に行って遊んで……家は散らかり続けるかもしれませんが、そこに、子どもの自主的な遊びがあれば、ぜひ大らかな気持ちで見守ってあげてください(収納のしつけについてはPART3をご覧ください)。

部屋を流動的に使う

✔個室というより空間を
✔家の使いかたもその時々で

「子ども部屋」に関して、素敵な事例を紹介いたします。
 私の教え子で、男の子3人兄弟のご家庭がありました。当時は6年生、3年生、1年生です。暮らしていた家はそこまで広くはなく、兄弟一人ずつに部屋を準備してあげられない……と悩んでいたご両親は、「3人ローテーションで、子ども部屋の一角を使う」という方法を生み出しました。
「ここは勉強の場所、ここは遊び場所、ここはピアノ練習をする場所」と決めて、一定の時間になったら動いて次の場所に移動する。それで3人は、むしろ工夫した時間の使い方を覚え、計画的に学習を進める習慣ができ、遊ぶ時間の確保ができるようになったそうです。これも、よくある話ですが「静かじゃなければ勉強ができない」という子どもの言い分は、あまり的を射ているとは言えません。静かなら静かで刺激がなさすぎて集中できないものです。
 さて、一番上のお兄ちゃんは、小学校を卒業するまでその生活を送り、中学生になると基本的に塾と自習室で勉強をするようになりましたが、3年間一度も学年1位を譲ることなく、公立の進学校に余裕を持って進んでいきました。その彼の夢は当時と変わらずピアニストだそうです。環境云々ではなく、好きなことに没頭し続けた中で培われた集中力の高さが大きな武器になっています。そして、その背景にあるのは「まぁ、なんとかなるさ」と楽観的に構えられていたご両親のおおらかさだったような気がします。「うちは、子どもに個室を準備してあげられるほど、余裕がないのです……」と悩まれている方。大事なのは、個室があるかどうかではなく、今ある空間
を有効に活用してみようというアイデアです。子どもが成長するにつれて、必要となる空間は変わってきますから、その時々に応じて、変化させていこう、という柔軟な思考が大事になってきます。
 もしくは、扉がある一部屋でなくてもゆるやかに区切ることで場をつくってあげるということも大切です。厳密に言えば、「個室そのものが欲しい」というよりも、「自分の空間が欲しい」という子が大多数だと思います。たとえば、1部屋を姉妹で使ってもらわないといけない場合、間仕切りになる棚を入れるなど、その程度のことでも随分印象は違うでしょう。それから、いずれ子どもが自立したら子どもの部屋は必要なくなります。よく聞くのは最終的に物置になってしまっているという話です。実は私の実家も完全にそうなっています。子どものために独立した部屋を設けるというより、長期的にどういう使い方ができるのかを計画してみるのも大切かと思います。

「子ども部屋」の位置を考える

✔生活スタイルや環境を改めて考える
✔親と子の接点がきちんとある状態に

「少し先の、大きくなる子ども」をイメージして、間取りを考えるという方はとても多いです。今、未就園児であれば、幼稚園・保育園に通い出したときのこと。今、未就学児であれば、小学校に通い出したときのこと。子ども部屋はどこにおくのがいいのでしょうか。
 まず、方向性として、「玄関から子ども部屋まで直行できない」間取りにするのは、おすすめです。何でもかんでもその日にあったことを親に報告したがるのは低学年ぐらいまでです。小学校高学年以降、思春期に入ると、特に男の子は口数が減っていくというのは自然なことです。それ自体は極めて健全なのですが、全く表情も様子もわからないというのは、お母さんは心配を募らせるでしょう。「玄関から子ども部屋まで直行できる」間取りの場合は、子どもが帰宅してそのまま部屋に直行していくことが日常的になってしまう可能性もないとは言えないでしょう。つまり、いつ帰ってきたのかもわかりません。食事をとりにのっそりダイニングに現れてお母さんが驚くな
んてことも起こります。
 共働きが増えた現代、子どもが帰ってくる時間に親が家にいる、とは言えない場合も多いとは思いますが、それでも、絶対に子どもが通る場所と、リビングや、キッチンなど、できる範囲で大人の生活空間との接地面をつくっておくことが、家族を孤立させない仕組みであるともいえるでしょう。何より、話はしなくても「顔を見るだけでも安心」するのが親心ですし、「どんなに煙たくても、まったく触れ合わなくなるのは寂しい」というのが、思春期の微妙な子ども心です。
 住宅メーカーさんによると、「子ども部屋は、南側がいいですよね?」という質問をよく受けるそうなのですが、必ずしも南側に設置する必要はないそうです。南の方が日当たりがよく、パワーがもらえる。明るい子が育つ、といった説もあり、また、確かに北側の部屋はじめっとしてしまうことが多いそうなのですが、「昼間、誰が一番家にいることが多いか?」ということを考えると、専業主婦家庭であればこれはお母さんです。共働き家庭の休日の昼間をイメージすると、「家族全員」になるでしょうか。普段、日中に家にいる人が、あたたかい南の部屋を使う方が、家が効果的に活用されている状態です。それを考えて、無理に子ども部屋を南向きに配置しなくても
いいというアドバイスをされるそうです。「少し先の、大きくなる子ども」をイメージした子ども部屋と先ほどお伝えしましたが、先の先をイメージすると……前項でも少し触れましたが、子どもは「いずれ自立して家を出ていく存在」であるといえます。そうなったときに、使われなくなった部屋が二部屋、三部屋できてしまうのであれば、最初から「子ども部屋」をつくらない変動性の高い間取りというのも可能です。親の家を、子どもに一時貸ししている、というイメージを持つと、また希望の間取りが変わってくるのではないでしょうか。
 また、「これから家を建てる方には、長期耐用の視点で計画すること」をおすすめするというふうにもおっしゃっていました。
 寝室などプライベートな空間を設けることが多い二階の間取りにおいて、最初から細かく個室に分かれているプランにしがちですが、大きく部屋を割り、必要に応じて後から仕切ることができる可変性のある間取りが長期的に見ると無駄のない使い方になるそうです。部屋数の確保ではなく、「一つの大きな空間をどれだけ多様に使えるか」という考え方ですね。
 子どもたちが小さい時は、大きな部屋割りでのびのびと遊び、大きくなってきたら個室に分けるなど、自由に変えることができます。そして、子どもたちが自立した後は、親の生活スタイルに合わせて、また大きく使ってもよし、個別に使ってもよし。ゆくゆくはお孫さんの遊ぶ空間として、また大きい空間が必要になることもあるかもしれませんね。
 マンションの購入を考えている場合は、間取りは決まっているものが多いです。ただ、その場合でも、リビングやダイニングの一角を学習コーナーにするなど、コーナーを上手に使い分けることで、空間の変動性を高くすることもできます。
 また、リビングに隣接するひと部屋を子ども部屋や共用の学習部屋にするように、空間を自由に使い分け、その時々によって部屋の使い方を変更していくのも上手に住みこなすポイントです。
 賃貸住宅の場合は、間取りを自分で決めることはできないにせよ、なるべく大きな部屋のある物件を選ぶことをおすすめします。両面使いの本棚などの間仕切り家具で空間を分けて活用するなど、工夫次第で間取りを柔軟に変えられることが家族のライフスタイルに合わせて変化する住みやすい家へとつながることでしょう。

「お父さん席」をつくってみる

✔特別な席に効能がある
✔父を敬う気持ちにも

「お父さんが仕事で忙しくてなかなか子どもと触れ合う機会がない」と悩まれている方は多いです。休日のコミュニケーションは買い物やお出かけになりがちで、家の中にいても子どもと何をしていいかわからず、なんとなくぎこちない空間になってしまう……。このような話もお聞きします。
 ここでは住まいの中の「お父さんの居場所」というものを、考えてみましょう。
 現在は家の中にお父さんの個室があるという話はあまり聞きません。子どもが家を離れたあと、子ども部屋だったところを念願の「お父さんの1人部屋」にするというお父さんは、結構多いようです。これは非常に共感できます。
 リビングでのお父さんの居所はというと、これは余程意識的にプロデュースを続けていかないと、気がつけば子どもの物ばかりで占領されてしまい、お父さんはリビングではくつろげなくなっていて、もはや「どこに腰掛けていいかわからない」という状況にもなりがちです。
 仕事でお付き合いがあった某大手家電メーカーの支店長さんの言葉が蘇ります。「先生。現代社会の平均的な家庭で起こる家族カプセルの中の存在感のない小さなお父さんの話ですが、この話をした時のお父さんたちの頷きも共感もすごい。でも、お父さんだって正直に言わせてもらえれば家の中で『ここはお父さんの場所』っていう定位置がほしい! 私の家にはお父さんの場所というものがない! この椅子とこの位置はお父さんの場所! というところがほしいんだよ」と切実に語られていました。これは、なかなか奥さんには言えませんがお父さんたちの率直な意見だと思うのです。家族の大黒柱としての威厳と自身の誇りのためにも、『ここは自分の場所』という場
所があるだけで男って頑張れるものだよなと思うのです。
 面白かったのは一緒にいらっしゃった社員さんは、あまりピンと来ておらず、「リビングやキッチンはお母さんが決められる傾向がありますね。だけど、お風呂は商品の決定権がお父さんにあるケースが多いですよ!」と補足していました。その話を遮るように支店長さんの涙を誘う一言。
「俺が求めるお父さんの居場所は風呂じゃないんだよ!」
 とてもよくわかります。
 さて、この話をまさに育児真っ最中の弊社の母社員に笑い話として伝えたところ、思いのほか強い共感がありました。
「家の中のお父さんの居場所論、感覚的なものですが、すごくわかる気がします。子どもが生まれて、母親が家にいる時間が増えると、キッチン、お風呂、その他いろいろな場所を子どもに合わせて変えていくうちに、『母と子どもにとってベストな配置』になっていき、父親スペースが狭くなっていくように思います。結果『何かしたいと思っても、自分の領域がないため、家の仕事に手も出さなくなる父親(=母親のイライラ)』となる……という悪循環があるように思います。父親が座る場所とくつろぐ場所の固定と、『TVまわり』や『パソコン・プリンター関係』など母親と子どもは絶対に手を出さないで父親に管理を任せるスペースをリビング(みんなが見える場所
=「お父さんってすごい!」となる)に一ヶ所はつくるなどが効果的かなぁなどと感じたので実践してみます!」とのことでした。
 お母さんには全く悪意はありません。
 効率を重視していくうちに、気づかぬうちにお父さんの場所を侵食していってしまうものだと思います。もちろん、お父さんも仕方ないと思っています。私も夜遅く帰宅し、そろりとリビングに入り、おそらくここが今のところ私の場所だろうと思われるソファに腰をかけようとした時に、きれいにたたまれた洗濯物が置いてあると、これはどかしてもいいものかと逡巡します。しかし、育児に仕事に頑張ってくれている妻の姿を考えると、このあとの段取りもあるだろうなとやっぱりそのままにしておくという判断を重ねています。おそらく、小さな子がいて夫婦で互いを尊重しあっている間は何も問題は起こらない気がします。しかし、子どもが成長していく中で、お父
さんの居場所がないのは当たり前のようになってしまうと、傷つくこともあるんだろうなと推察します。たとえばリビングの中でも「この席はお父さんの席だから座ってはいけない」というプロデュースは非常にいいですね。お父さん自身のプライドが保たれますし、子どもたちも、お父さんに対する畏敬の気持ちが育まれます。お父さんの厳格な厳しさや、家族の判断をしなければいけない局面が訪れた時に父親像がしっかりしていると家族みんなに安心感が波及するでしょう。(そんなに広いリビングではないし、空間を有効活用したい。普段いないのに、専用スペースはもったいない……)というお母さんの心の声も聞こえてきそうですが、普段なかなか家にはいられなくても、お父さんの居場所を子どもたちに示し続けることで、お父さんにとっても子どもたちにとっても、必ずよい効果が生まれるはずです。無理なことはしなくていいと思いますが、できる範囲で実践していけるといいですね。

子どもの絵や写真を飾る

✔こどもたちの目にふれるところに
✔言葉ではない愛の表現

 リビングを「家族のコミュニケーションの場」と位置づけた時に、子どもの写真や、制作物(絵や工作など)を飾るという方法もあると思います。量が豊富である必要はないと思いますが、写真を掲示することや、子どもが描いた絵を掲示することで、子どもたちに、目には見えない「愛しているよ」というメッセージを送ることができますので、ぜひ考えてみてください。「わー、〜〜をつくれたんだね!」から会話が広がると思います。
 また「リビング」という、家族以外の人も来る可能性があるところに、そういったものがあることも、実は効果的です。子どもたちは、親に直接ほめられるのはもちろん嬉しいのですが、間接的にほめられるのも、それはそれで大変嬉しいものです
 お客様が来た時に、「この絵、すごくすてきだね」などとほめられたら、子どもの前で、「そんなことないですよー」や、「図工は得意なのよ。算数は苦手なんだけど」など、謙遜はしないでください。その言葉で「あー、僕算数苦手なんだ……」と刷り込まれてしまいます。「私もそう思うのよ、だから飾っている」ということをお客様に伝えることが、子どもたちの自信につながります。 
 ただし、何でもかんでも闇雲に掲示をしていたら、特別感がなくなってしまいます。ある程度掲示できる場所を限定して、家族で相談して掲示物を更新したり、子どもが気に入っているものを決めさせて掲示したりすることがよいでしょう。また、大人目線で掲示をするのではなくて、大人にとっては少し下、子どもにとっては若干見上げる程度のところに掲示板を設置するのがおすすめです。

すぐ調べものができるようにする

✔疑問に思ったら、その時に
✔親子のコミュニケーションに

 これを意識するのとしないのとでは、子どもたちの学習観が大きく異なってきます。好奇心が旺盛になる時期のリビングのポイントだとお考えください。
 リビングが機能していて、家族みんなが一緒に過ごしていると、会話が生まれます。
 その会話の中で、「あれ? これどういう意味?」「これってどういうこと?」と子どもの中に疑問が生まれた時がチャンスです。そこで、「自分の部屋に戻って辞書で調べてみたら〜」「じゃあ、あとでね」となるのか、それとも、「今ここで調べてみようか」と、ぱっと辞書を引けるかどうか。花まる学習会の高学年授業では、「正しい学習法を身につける」ことに重きを置いているのですが、その中で、「分からないことをそのままにしない」ということをとても大切にしています。分からないことこそが宝物で、そこにきちんと向き合う習慣をつけておくことは、学習面はもちろん、自立してからの社会人生活の中でも、必ず役立ってきます。
 また、辞書だけでなく、世界地図を見られるところに貼り付けたり、地球儀などをいつでも取り出せる場所に置いておいたりするのもいいでしょう。パソコンやタブレットなどを使っての調べものも、リビングであれば、「親と一緒に」進めることができるのがメリットです。 
 花まる学習会が監修している書籍の中でも『マンガでわかる!10才までに覚えたい言葉1000』(永岡書店)や『?に答える!人物事典』『?に答える!生き物事典』(学研プラス)は子どもにも大変人気ですので、リビングに置かれることをおすすめします。



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