見出し画像

今年の夏にオリンピック・パラリンピックに出るよという方へ

私は五輪に3度出場していますが、3度とも決勝に残れず敗退しています。ですので、成功の体験はありませんが失敗した経験はたくさんありますので、みなさんが同じ失敗を繰り返さないよう、レースの三週間前に何をしなければ良かったかというのをまとめてみました。

失敗の原因は三つだと考えています。
①欲張りすぎた
②確かめすぎた
③集中しすぎた

です。それぞれ説明します。

まず一つ目の欲張りすぎたです。3週間というのは微妙な時期です。何かを変えようと思えば変えられますが、一方で大きく何かを変えるには時間が足りません。

私の競技人生でオリンピックの決勝やメダルが一番狙えたのはアテネ五輪の時です。試合の11日前に250+200(90sec rest)という練習をやる予定でした。この日の朝起きた時に、非常に迷ったのを覚えています。調子はいいのですが、少しだけ疲れている気もするという微妙な状態でした。グランドに行ってもずっと迷ってました。やるかどうか。そして悩んだ挙句やりました。なぜなら随分前にトレーニングメニューを作ったときに、この練習を入れていたからです。
結局この疲労が五輪の準決勝まで抜けず、準決勝を0"01差で敗退することになりました。その2日後の決勝の日ぐらいから好調になっていったので、ピークがずれてしまったということです。

練習をしすぎてしまったことが失敗の原因だと推測しています。その時は迷った挙句、本番までにやれるだけの事をやって後悔しないようにと考えました。典型的なアスリートのメンタリティです。普段であれば大事な考え方ですが、これがいざ本番の直前には裏目に出ました。三週間前になるともう準備はかなりの部分が終わっています。練習が多すぎることの害は数え切れないぐらいありますが、練習が少なすぎることの害は数えるほどしかありません。選手も緊張し体調も良くなっているために同じ練習をしても負荷が強くなりがちだからです。いつもと同じ感じでアクセルを踏むと普段は100kmぐらいなところが120kmぐらい出てしまうイメージです。ですから、練習不足かなと思うぐらいで挑めば良かったなと思います。具体的には普段の7割ぐらいの感覚でちょうど良いぐらいです。

二つ目は確かめないということです。本番前は不安になります。ですからついつい本当にうまくいっているのかを確かめたくなります。陸上競技であればいいタイム(調子)かどうか確認して安心したくなるわけです。また、痛い部分がある選手は本番で急に痛くなることを恐れ練習の中で大丈夫かどうかを確かめたくなります。世間的にオリンピックへの賛否や、自分自身の評価などが気になり、それを確かめたくもなります。しかし、仮にこれらを確かめたところで本番の結果に利することはほとんどありません。今確かめても確かめなくてもどうせ本番では結果がわかります。

五輪前は時間を持て余します。練習時間も短くなり、かといって何かをやって疲れることはできないという状態に置かれています。一方で体調は良くなり頭は冴えていくのでついつい何か考え事をしてしまいます。よくありがちなのは、

暇→つい何かを確かめる→反応がある(痛み、批判、疲労など)→反応に対して考えてしまう→また確かめにいく

というサイクルです。このサイクルを回しても全くいいことがありません。私はタイムトライアルを試合前にやることにしていましたが、今考えると純粋に効果があったというよりも試合前に自分の状態を確かめるためにやっていた側面がありました。安心のための練習です。安心すれば心は楽になるかもしれませんが、身体は余計な疲労を抱えることになります。ですから、この時期はコーチに身を委ね、自分でやることだけやったらあとはただ楽しいことばっかりやってください。ゲームでもおしゃべりでもなんでもいいです。無駄な時間を楽しんで過ごすことが大事だと思います。

三つ目は集中しすぎないということです。この時期は自分の頭が本当に自動的に本番のことをシュミレーションしてしまいます。おそらく道を歩いていて急に試合のことが頭をよぎったり、うまくいかない試技がイメージされて冷や汗をかいたり、スタートラインに立った時の風景が浮かんで緊張しているのではないかと思います。これはずっとイメージされているわけではなくて、本当に日々の生活の中でふと頭に浮かぶものだと思います。そしてその瞬間に心拍数が急激に上がったりしているはずです。

昔私はそれが集中することだと思っていて、暇な時間があれば試合のことをイメージしていました。ところが、集中にも体力があると次第にわかるようになりました。人間は身体の疲労には敏感ですが、精神の疲労には鈍感なところがあります。ところが試合ではこの精神が疲労せずフレッシュであるかどうかが正に勝負を分けるわけですからこれをなるべく使わない方がいいです。練習の間だけ集中し、あいつ諦めたんじゃないかというぐらいに脱力して過ごすことをお勧めします。

私は頑張りすぎて、確かめすぎて、集中しすぎて失敗しました。どうすれば成功するかはわかりませんが、この三つは失敗する可能性があるので避けてもらえるといいかなと思います。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?