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自分にしかできない仕事と幸福感


自分にしかできない仕事がしたいと願う人は多い。確かに自分にしかできないことをやっていると感じられれば充足感がある。しかし、自分にしかできないこととは突き詰めて考えるとどういうことだろうか、またそれはどのような状況なのか。そして本当にそれは人を幸せにするのだろうか。

自分にしかできない仕事は替えが効かない。わかりやすく言えば、自分の思う通りに自分の休みを決められない。何しろ替えが効かないので自分がいなくなると周囲が困るし、何かを止めてしまう。自分にしかできない役割が組織や大きなプロジェクトに組み込まれれば、全体の速度を決めるのは自分になる。自分にしかできない仕事はボトルネックになりやすい。

これは組織としてはリスクだ。もしジャパネットたかたの高田明さんが従業員なら社長は多大なリスクを感じただろう。社員の方がパワーが強くなっている。安定した経営とは冷めた目で見ると、人が入れ替わっても成り立つような構造を作り上げることになる。属人的な組織は交渉の余地を残し人に翻弄される。

替えが効かない存在になろうとする時、自分の能力を高めるやり方と、自分がいないと回らない構造を作るやり方の二つがある。前者の人間は強みが自分の中にあるが、後者の人間は強みが人間関係や情報の中にある。だから前者は自分の成長を促すオープンさを好み、後者は自分から人脈と情報を流出させるオープンさを嫌い独占しようとする。後者のやり方は古くなり淘汰されつつある。

会社員になるということは、シンプルに言えば替えが効く存在として安心と休みを手に入れることだ。替えが効くからこそ休みの間誰かが代わりを務めてくれる。一方、自分にしかできないことをやっていると充足感はあるが、安心と休みが自由にならない。もちろん休む方法もあるにはあるが、返ってきた時自分の席があるとは限らない。

人間らしさや愛を感じる時はあなたでなければならないと言われた時でもある。人間は機械ではない。組織も個人も常に替えが効く存在の気楽さと虚しさと、替えが効かない存在である充実感と責任の重さを揺らいでいるように見える。どのバランスが最も社会や組織を幸福にするのか。

実際には替えが効かない人間などいない。どんな重要な人間が死んでも人類は終わらないし社会も続いていく。それは虚しくもあるが自由でもある。引いてみれば人間は全体のほんの一部でしかない。しかし個人から見た風景は違う。この風景をどこに位置付けるかで幸福感は大きく違う。

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