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羽衣の伝説。「天人五衰」より

「次第次第に天人たちは本多を軽んじて、波打ち際の水ちかく砂丘ちかくまで下りてきて、暗い松の下枝をくぐって飛んだりする。

そこで本多の目は、一時にすべてを括って見ることができず、目前の変転するほのめきに眩まされる。

たえず白い曼陀羅華が雨ってくる。簫笛琴箜篌の音が、天鼓の声がひびいてくる。

そのあいだを、青い髪や、裳裾や、袖や、肩から腕に纏うた生絹の領巾が風になびいて横流れに流れてゆく。

白い無垢なあらわな腹が突然目の前にたゆとうて来たり、彼方へ空を蹴ってゆく清らかな蹠が遠ざかったりする。

美しい白い腕が、虹の光彩を帯びて、何ものかを捕らえるように目のあたりをかすめて過ぎる。

そのつかのまに、柔らかにひらかれた指の股が見え、指の股の間に泛ぶ月が見えたりする。

天擣香の薫りを燻じたゆたかな白い胸が、いっぱいにひろがって、たちまち天空へ翔り上ったりする。」

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