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DOC(ドック) あすへのカルテ

フランス発の本格ミステリードラマ、『アストリッドとラファエル』が終わってしまい、すっかり意気消沈していたのだが、新しく始まったイタリア製作のドラマ『DOG(ドック)あすへのカルテ』を、次の週になってなだれ込むように観始めたのだが、このドラマはこのドラマで、また非常に興味深く、先日放送の『夫婦』と題する回も、とても胸に染み入るものがあった。

インフルエンザの肺炎で入院したビットリオは 八十近い高齢だが、顔立ちがセリーヌ・ディオン似の美しい妻、シルバーナに今も首ったけである。

そんなビットリオに愛され続けているシルバーナもまた、夫を献身的に、そして時にはジョークを飛ばしながら、ユーモアたっぷりに支えている。

ビットリオの病状もすっかり良くなり、退院出来るかと思いきや、ギランバレー症候群を発症していることが分かり、再び経過観察を余儀なくされる。

しかし、悲劇はそれだけでは終わらず、ビットリオは脳腫瘍を発症していることが分かり、 最終的には呼吸不全で明くる日、死去してしまう。

そんな運命を、ビットリオは人間の持つ本能で感づいていたのか。その日、長年連れ添った妻のシルバーナに、泊まりで付き添いを懇願したのだった。

いつもはクールな担当医のキダーネ医師が付き添いを許可し、二人はすぐそこまで来ている永久の別れを惜しみながら、限られた時間を過ごしたのだった。

この二人の老夫婦を見ていると、若い頃の恋愛感情とはまた違った、それでいて根本的には変わらない愛情、 人生の黄昏時を迎えた人間が持つであろう、もっと深い慈しみのようなものを画面から感じられ、胸が熱くなった。

イタリア人ということもあるのだろう。

ビットリオは少し元気になると、シルバーナの腰元に手をやり、性愛という意味でもまだまだ妻への愛情が、若い頃と変わらずに存在していることを示したし、それをまんざらでもない表情で受け入れつつも、やさしくたしなめるシルバーナも、とても幸せそうだった。

日本人の老夫婦には、決して見られない光景だった。

日本人が、老夫婦を取り上げるとなると、決まって認知症、病気、寝たきり、老々介護、挙げ句の果てには無理心中と、それが大半かもしれないが、中にはこの二人のような半世紀経っても、とても幸せな夫婦もいる筈である。

それなのに、どういう理由だかマスコミはそのような夫婦を見つけ出して、取材したりするようなことはない。

これも、日本人特有のものかもしれないが、このイタリアのドラマの中の夫婦とはエライ違いだと思って、私は何だか切なくなった。

キダーネ医師は、若さ故、もう十分ではないかと言ったが、あれだけ仲の良い夫婦には『もう十分』という思いはなかったのではないかと思う。

誰でもきっと、年を取ればその命には限りがあるという事を、だんだんと身を以て理解していくのだろうが、その限りある命の灯火が、出来るだけ長く続くようにと、祈るのではないだろうか。

観ていて切なくも悲しかったが、この二人の素晴らしい演技で、とても後味が良く、あたたかい気持ちになったのだった。

2022年10月24日・書き下ろし。




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