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「世界ふしぎ発見!」最終回に思うこと

 先日、TBSテレビで放送されていた「世界ふしぎ発見!」が三十八年の放送に幕を下ろした。

 「世界ふしぎ発見!」と言ってまず思い浮かべるのは、回答者の黒柳徹子さんである。徹子さんのクイズの正解率は群を抜いていて、スタッフがもしかしたら徹子さんに問題を教えているのではないか、という都市伝説がまことしやかに囁かれる中、それを先日、石井亮次アナウンサーがご本人にインタビューしていたが、それはないと徹子さんは答えていた。それは当たり前である。私ははじめからこんな「やらせ」などある筈がないと思っていた。それよりも信憑性が高いのは、いつも全問不正解で終わっていた野々村真さんの、その回答率の悪さの方が私はやらせなのではないかと思えて仕方がなかったが、そちらも全くのやらせではなかった。野々村真さんには大変失礼ではあるが、いささか驚きである。一緒にクイズに答えて、もし間違えていても、大人の野々村さんが正解できないんだから子供の自分じゃ正解できなくても当たり前だと、野々村さんには妙な慰め方をされたものだった。

 そんな個性豊かなレギュラー回答者を、いつも礼儀正しく、そしてあたたかく見守りながらヒントを出し、番組を進行していた司会の草野仁さんの誠実な人柄によって、この「世界ふしぎ発見!」がある種の方向性を見出したと言っても過言ではなかったような気がする。これがもし徳光和夫さんだったら、全く違うテイストの番組になっていただろう。司会を草野さんにしたのはTBSの大きな勝利であった。

 ミステリーハンターとして、放送初期から出演し続けてきた竹内海南江の存在は、ミステリーハンターという役割がどのようなものかを確立し、その後、多数登場することになったタレントたち「素人」のミステリーハンターの、良い手本になったことは間違いないだろう。

 そして何より、今から三十八年前といえばパソコンやスマートフォンも一般的には普及していなかった時代である。ドローンもなかった時代であるから、上空から撮影した映像というものはヘリコプターを飛ばして、カメラマンが大きなカメラで撮影したものである。今ならどうってことはないのかもしれないが、当時は今よりももっと、小手先ではない細やかな手仕事をしなければ、番組制作ができなかったような時代だっただろう。当時、そんなことも考えず、ただテレビに映る映像を感激しながら見ていただけだった。

 それだけで良かったのは幸いな時代であった。しかし、時が流れて誰でも映像を撮影することができるような時代になった現在、この番組が撮影した映像というもののありがたさを痛感せざるを得ない事態になっている。それは、フェイク映像の出現である。

 誰が撮影したかもわからない、まことしやかな映像がインターネット上に無責任に拡散される時代である。一度流れた映像は、それが真実のものであろうがなかろうが、誰かの手によりまた本物にされ、そしてまた偽物にされ、見る者を惑わすことになる。しかし、幸運なことに、この番組のスポンサー
は日立製作所、日立グループ一社である。三十八年の間、視聴者を安心させ、信頼を持たせ、番組を真実のものにしていたことの重みを、私は遅蒔きながら思い知るに至ったのである。

 その信頼は視聴者だけにとどまらず、世界のお偉いさんの心をも動かすことになる。殊にエジプト、ピラミッドの回はその放送回数が多いことや、番組の制作に対する熱意に絆されたのか、「世界初」や「日本初」ということが多く、その度に子供だった私は「『世界ふしぎ発見!』てすごいなぁ」と感心したものだった。

 何事にもそうであるが、こういった人との信頼関係というものが、番組を長く続けさせた大きな要因だったのではないかと思われる。何が本当で何が嘘かわからない、こんな世の中になってしまった今こそ、こういった全幅の信頼を於けるテレビ番組が必要であるにも関わらず、時代はこの貴重な番組を切り捨てて、またつまらないものになろうとしている。

 番組の最後に司会の草野さんがおっしゃったように、三十八年という長さは一人の人間が二十二歳で大学を卒業して就職し、三十八年勤めあげると満六十歳定年を迎える。つまり一人の人間にとっては自分自身の職業を全うするという、大変長い長い時間なのである。それを聞いた時、確かにもう、この番組もこのメンバーで視聴者に届けることの責務は十分に果たしたのだと、私も素直に思ったのだった。

 詳しく調べたわけではないからはっきりしたことは言えないが、私の知る限りでは、この「世界ふしぎ発見!」に限ってはこの三十八年間、出演者やスタッフの大きな事故や怪我、そして番組内での嘘や捏造というものはなかった。
 これが良質な番組を長く続ける秘訣だったのである。やはり最後は「人対人」なのである。

 最後まで私たちに様々なことを教えてくれた、教養深い番組だった。

2024年4月3日 書き下ろし



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