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"Tri Stacking Stool"のリファレンス2 (ただの箱、ハイコンテクストな箱)

2017年にデザインした"Tri Stacking Stool"を考えていたときのリファレンスについて、前回の記事はこちら

最近立って仕事をしているので、事務所用に作ったTri Stacking Stoolを簡易的な机の上の作業台として使っているのですが、これ、既視感があるなあとふと思い出したのがこの写真です。

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名作Ulm Stool を横に倒してテーブルの上に置き、ウルム造形大学で教鞭を取るマックス・ビル。教科書を置く台としてウルムスツールを使用している様子。巨匠がデザインしたいくつかの極めてシンプルな箱をよく観察すると、それぞれのステートメントを読み込むことができます。我々、ディティールはコンセプトを体現しているべきではないか、と考えてデザインをすることが多いのですが、その視点で影響をうけた、「ハイコンテクストな箱」たちについてのノートです。

Ulm Stool / Max Bill

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BRAND : Wohnbedarf
SIZE : W390×D290×H440 mm

1953年、旧西ドイツのウルムに開設された「ウルム造形大学」は、バウハウスの理念を継承する革新的な教育機関でした。1954年この大学の初代学長を務めたマックス・ビルと当時ビルのアシスタントを勤めていたハンス・ギュジョロは、学生達のために腰を下ろす何らかの道具を考えました。仕事机や講義、カフェテラスなどに使えるスツール、サイドテーブル、持ち歩く機能や書籍をのせるトレイなど、多目的な要素をデザインに集約し「ウルム スツール」は生まれました。無駄な機能やデザインを削ぎ落とした、まさにバウハウスの概念をそのまま受け継いだ象徴的スツールと言われています。

下記からの引用です。マックス・ビルの写真をいくつか見ることができます。

極めてシンプルな箱状なのですが、そのシンプルさ故に、仕事机や講義、カフェテラスなどに使えるスツール、サイドテーブル、持ち歩く機能や書籍をのせるトレイなど、(トレイも!)など転用可能性に溢れたデザインです。3面が平面で、4面目がポールになっていることで、ひっくり返した時に取手として機能します。W390×D290×H440を便宜上表記をWDHにしていますが、H390及びH440高さの2パターンで使うことができます。奥行きが290なのは持ち運び易さを考慮してできるだけ小さく作ることに重きをおいたのだと推測しますが、他にも理由ありそう。スツールとして使う時の足元はよく見るとわずかにラウンドしていて、地面との接地面が最小になるようになっています。持ち運びを考慮してか板厚も薄め。接合部は刻接(きざみつぎ)かな。

モダニズムの巨匠たちはその哲学にのっとって極めてシンプルな箱をデザインしていることがあるのですが、その微差に込められた考えを読み込むのはとても楽しい。

最近、転用可能性 / 改変可能性について考えることが多いので、その話はまたどこかで書きたい。

LC14 Tabourets / Le Corbusier

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お次はコルビジェによるシンプル極まりないボックスのデザイン。LC14(Le Corbusier ナンバー14) 3種類のシリーズがカッシーナから販売されています。コルビジェが提唱していたモデュロール(人体を黄金比で割った寸法体系)の考え方を反映していると思われます。

BRAND: Cassina
CABANON  ( 右 ) :W430 × D265 × H430
MAISON DU BRESIL  ( 左 ): W330 × D250 × H430

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この中で、コルビジェが作成したモデュロールから極めて近い数字は432、267、330。MAISON DU BRESIL ( 写真左 ):D250だけ寸法の根拠がモデュロールだけだと説明できないですね。2種類で4パターンの高さ違いのボックスとして使うことができます。ちなみに、2段積み重ねると、430+265=695 (ほぼ机の高さ)として使うことも想定されていたのだと思います。そうなると250の根拠がますます分かりづらい、、、265だと単調すぎるのかな、、、

うろ覚えですが日本人には少し寸法体系が大きすぎるといって丹下健三が作った日本人用のモデュロールがあったはず、、日本人の体格も大きくなってきているので、コルビジェオリジナルの方が現代人にはフィットするのかもしれないですね。接合部は蟻組接(ありくみつぎ)。強度しっかりです。

The Crate / Jasper Morrison

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BRAND : Establish and sons
SIZE : L375mm × D175mm × H500mm

ワイン箱をモチーフにしたジャスパー・モリソンデザインのマルチパーパス・サイドテーブル。素材と接合部はもちろん丁寧にデザインされていますが、典型的なワイン箱のプロポーションまんま使いのサンプリングは、いわずもがな深澤直人さんとの「スーパーノーマル」の思想が背後にあると思われます。あまりにもそのデザインされていなさ、によって発売当時物議を醸しました。

ニューヨーク・タイムズの記事

Established & Sons、ジャスパー・モリソンのインタビュー

スーパーノーマルについてはこれを読めば◎

「スーパーノーマルなものとは、毎日使うものを絶え間なく進化させてきた営みの成果であり、形態の歴史を打ち壊そうなどという試みではない。むしろ、ものの世界でその収まるべきふさわしい場所を知り、その歴史を集約しようと努めることである。スーパーノーマルは「普通」を意識的に代替しようとするもので、時間と理解を要するだろうが、毎日の生活に根づいてゆくはずだ。――ジャスパー・モリソン」
「道具と使い手の最低限の合意がノーマルを成している。ノーマルは長い間に人間によって抽出されたエッセンスが凝固したものということもできるし、よけいなものが削り取られて風化した、生活の中で残ってきた必然の姿でもある。そこにデザインはなく、むしろだささがにじみ出ていながら生活の中で淘汰されなかったという事実に、悲しい程の魅力がこもっている。――深澤直人」

背景にあるコンテクストを読み解くと、ほぼ同じ形といっていい箱が持つ微差によってデザイナーのステートメントが強調されて面白いです。実はあといくつかオススメの箱があるんですが、それは秘密。

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