⑨支援者が足りていない支援とはどのようなものか?

こんにちは。NPOコンサルタントの堤大介( @22minda )です。

少し間が空いてしまいましたが、前回の記事では「NPO支援者は本当に足りていないのか?」と題し、私がなぜNPO支援者が足りていないと感じているのかという背景について解説した上で、NPO支援のニーズが満たされている状態を実現するためには、

①能力・スキルとしてNPO支援できる人が増えること
②NPO支援ができる人と支援ニーズを持ったNPOと適切にマッチングできること(あるいは個々のNPO支援者が適切に案件獲得できるようになること)

の二つが達成される必要があるのではないかと問題を整理してみました。この①②についてさらに深堀りして考えていく記事も書こうと思っていますが、その前に本日は「NPO支援者は足りていないのか?」という問いをもう少し別の角度からも考えてみたいと思います。


「どのような支援者が足りないのか?」問題の構造を分解する

この「NPO支援者育成試論」ではNPO支援という仕事を「(解決しようとする)課題の粒度」と「(NPOへの)関わり方」という二つの視点で類型化を行ってきました。
今回の記事で考えてみたいのは「課題の粒度」の視点です。
念のために類型を再掲しておくと、課題の粒度による分類は以下の通りでした。

大きく4種類に分けることができましたが、考えたいことは支援の種類によって支援者の充足状況(NPOの支援ニーズの解消状況)も異なるのではないか?という点です。特に私自身が主に関わっている「機能支援」と「団体支援」について考えてみたいと思います。(分野支援 、地域・生態系支援についてもそうした支援の経が多い方にお話をお聞きした上でいずれ書ければと思います)

「機能支援」はある程度足りているのではないか

まず私が考えているのは「機能支援」についてはある程度足りているのではないか(つまり機能的な課題に対するNPOのニーズはある程度満たされているのではないか)、ということです。もちろん機能支援という分類は細かな機能的課題を解決するための支援という定義上、課題の種類も支援者のあり方や具体的な支援方法もさまざまになりますので、そのすべてが足りている、と乱暴に言う気はありません。そもそも「課題の粒度」「関わり方」のどちらの分類もあくまでに支援者の支援スタイルやNPOとの関係を考える上での整理ための視点なので、個別具体の事例のすべてをきれいに扱いきれるとは最初から考えていません。

それでも、「機能支援」に該当するようなNPO側の「自組織の課題を解決したい」「誰かに相談したい」というニーズは現時点においても一定程度以上は満たすことができるといえるかと思います。「課題の粒度」の類型について解説した記事でも述べた通り、「機能支援」の特徴はNPO側の課題認識がある程度ハッキリしていることであり、そのためどのような支援者にどのような支援を受けたいのかも明確になっていることが多いためです。

いや、この書き方はちょっと実態とは異なるかもしれません。実際はむしろ逆で、支援者が何を解決できるのかを明らかにしている課題だからこそ「機能支援」が成り立ち得る、ということなのかもしれません。

(機能支援のニーズはある程度満たされているのではという書き方をしましたが、「課題も受けたい支援もある程度明確にはなっているけれど、人的・資金的に支援を受ける余裕をつくるのが難しい」という問題は残っているように思います。その問題を超えていくために、NPO側が血反吐を吐きながら頑張るのか、あるいは支援者側が持ち出しや赤字覚悟で手厚くサービスするかで乗り越えざるを得ないケースも少なくないでしょう。この点を誰がどのように解決していくことができるだろうか、についても追々考えていければと思っています)

機能支援を行う支援者の例

機能支援を行っている支援者とはどういう存在なのかを具体的に想像してみると考えやすくなるでしょうか。例えば機能的支援を行なっている支援者には以下のような職業の方や企業のサービスが該当するでしょう。

士業的専門家

例えば、税理士・会計士や弁護士などの士業の方はNPOの継続的な組織運営(における課題)を強力に支えて下さっている代表的な機能支援の担い手です。士業の方はその資格自体の明確さや認知度もあり、何を解決してくれる・支援してくれる存在なのかということが支援をする側にも支援を求める側にも非常に明確だと言えます。

特殊技能的専門家

続いて特殊技能的専門家。ちょっとややこしい書き方をしましたが、例えばデザイナーやエンジニアなど。NPOが自組織内部では所有していない専門性による課題解決を外部支援者に依頼する形です。チラシやパンフレット、あるいはWebサイトのデザインをすることができるというデザイナーさんに制作の依頼を行なったりといった形はわかりやすいですね。こうした専門家による支援は支援者側が事前に(例えば自分のHPなどで)自分が支援できる範囲や内容、関わり方などを示しており、依頼する側はそれを確認してから自組織が求めている支援方法を提供してくれそうな方に依頼するということが成り立っているケースもあれば、そうではなく打ち合わせ等で詳しく課題や組織の状況をヒアリングしてから支援ができそうかどうかなどのすり合わせをしていくケースまで色々幅があるかと思います。(ちなみに、私自身が機能支援を行う場合は、基本的にはこの特殊技能的専門家として支援を行なっている、ということになります)「どこからどこまでが特殊技能なんだ」問題は私自身も若手社会人やプロボノ時代に相当に悩みましたしこれ自体も語りがいのあるテーマですが、このマガジンの主題とはズレるので深入りしません(NPO支援者としての専門性をどう作って、アピールしていくか、という文脈では後々触れられればと思います)

主要事業としてNPO支援を行う企業

例えばCongrantさんやSyncableさんなどの寄付決済サービスクラウドファンディングサービス(クラウドファンディングは必ずしもNPOだけを支援しているわけではありませんが)はNPOの財源不足という機能的な課題を解決することを支援することをサービス・組織として実施しているといえます。WebサービスやWeb上のプラットフォームとして展開しているものは、サービスの特性上からして利用するNPOに「何を価値提供するのか(何を解決するのか)」が非常に明確で、それを必要とするNPOが利用申込みをするという形がわかりやすく成り立ちます。

また、WebやIT、デザイン等の制作会社で主なクライアントをNPOとしている企業もあります。これらも何を解決するのかは事前に明確になっているといえますね。(制作会社の場合、課題の粒度として「機能支援」であることは明確な一方で、「関わり方」としてどこまでやってくれるのかという部分では支援側と依頼側で認識のズレが起こっているケースは見かけることがありますが)

私が独立前に務めていたPubliCoという会社は非営利組織へのコンサルティングを専門的に行うベンチャー企業で、団体支援、分野・イシュー支援、地域生態系支援までさまざまな支援を行っていました。当然機能支援も行っておりましたが、PubliCoの場合は事前にサービスメニューとして解決できる課題領域を明確にするということはあまりやっていませんでした。この点についてはコンサルティング会社の成り立ちや支援スタイルにもよると思います。ファンドレイジング、IT面、ダイレクトマーケティングなど特定の得意領域をあらかじめ明確にした上で問い合わせを受け付けるというコンサル会社も少なくありません。…というよりおそらくそちらの方が通常ですね。私が所属していたPubliCoという会社の場合、創業者二人の得意領域がかなり認知された状態が先にあり、起業が後だったので、どのような課題であれば解決しれくれるのかという点は最初からある程度明確になっていたといえるかと思います。(だからこそ私のように後からそこに入り、得意領域を持たなかった私はその得意領域をつくること自体が重要な任務となりました)

サービスベンダーが提供するサービス

Salesforceさんやサイボウズさん(Kintoneなど)など企業の事業活動や運営を効率化・円滑化したり改善したりするサービス(アプリケーションやWebサービスなど)を基本的には営利組織向けに提供するベンダーでNPO向けの無償or割引プランを用意している企業も広く捉えればNPO支援のプレイヤーとみなせるでしょう。例えばSalesforceは(元々は営業支援的な側面の強い)顧客管理システム(CRM)です。顧客の情報を管理し、分析することができるという「機能」を持っており、利用する団体はその「機能」によって自組織の「顧客情報を一元管理できていない」という課題を解消することを期待している、ということになります。

機能的課題は多くの団体に共通するものである

念のために断っておくと、ここで挙げた職業や企業の提供するサービスのすべてがこの記事の文脈で言う機能支援に収まるわけではないとは思います。課題の粒度として「機能」以外の部分にもまたがって支援している場合もあるでしょうし、「関わり方」についてはそれこそ支援者・企業ごとに様々ですので。それでも、機能支援を行っている支援者は提供しているサービスの種類や取り組んでいる機能(課題)自体が異なっていたとしても、いずれもある程度は支援者側が何を解決するのかという点が明確であることは共通点と言えそうです。

なぜこのような共通点があるのかというと、それは機能支援が解決を目指そうとしている課題は「多くの団体が共通してつまづく箇所」だからでしょう。会計、デザイン、そして寄付の決済システムや顧客管理システムまで課題自体は多様ですが、団体を運営する上では必須の「機能」であり、だからこそそこにつまづく団体も多く、そしてつまづき方も似ていることが多いことからそれらの解決方法をサービス化した支援サービスがビジネスとしても成り立ちやすい、という関係になっているのだと考えられます。

以上、本記事では「支援者が足りていない支援とはどのようなものか?」と題し、NPO支援における課題の粒度のうち「機能支援についてはある程度支援(者)が足りているのではないか」という仮説について考えてみました。次回もこの続きを少し考えつつ、「機能支援ではなく団体支援を行う支援者が足りないのでは?」という点について考えてみます。

お読みいただきありがとうございました。

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NPOコンサルや伴走支援者になりたかった数年前の私のような方に向けて仕事をする中で感じたことや考えたことを書いています。 支援者育成やNPO支援の仕組み化などに取り組んでいくために、もしいいなと思ってもらえたら、サポートしてもらえると嬉しいです。