⑪不足しているのは「機能支援」ではなく「団体支援」を行うNPO支援者ではないか?そしてそれは何故か?

こんにちは。NPOコンサルタントの堤大介( @22minda )です。前回の記事からとんでもなく期間が空いてしまいました。もはやこの連載記事を覚えている方もほとんどいらっしゃらないかと思いますが、私自身の考えを整理することも目的ですので「NPO支援者育成試論」11本目の記事をお送りします。

今回書こうと思っていることはタイトルの通りです。「NPO支援者が足りないのでは?」という投げかけから始まったこの連載ですが、11本目の記事にしてやっと何を問題として感じているのかの話にたどり着きました。話の根幹に迫ったのではなく、やっとスタートラインに立つという段階ですが笑

「団体支援」の支援者が不足しがちな理由は何か

9本目の記事(支援者が足りていない支援とはどのようなものか?)で、NPO支援者が扱う経営課題の粒度による分類視点のうち、「機能支援」はある程度足りているのではないかという私の推測について解説しました。

久しぶりの記事ですので少し復習しますと、課題の粒度による分類は以下の4つであり、特に個別団体を対象としている「機能支援」と「団体支援」のついて話を進めてきていたのでした。

機能支援が対象としている機能的な課題(例えば「会計」であったり「Web制作」であったり「ファンドレイジング」であったり)はある程度多くの組織に共通した課題であるために、それらの解決方法を支援サービスとして提供することがビジネスとして成立しやすく、ビジネスとして成立しやすいことは支援者の新規参入障壁を下げることにも繋がっているのだと思います。
一方で団体支援や分野支援、地域支援に関しては組織ごとの事情、文化や文脈などがさまざまで共通化することが機能支援に比べて難しいというのが、団体支援を行う支援者が不足しがちな理由の一つではないかと考えています。

この団体支援は機能支援に比べて難しい、という点はいくつかに分けられると思いますので、この点も含めて団体支援の支援者が足りていないのはなぜなのか、いくつかの仮説を考えてみます。

仮説①団体支援の必要性が認識されていない

なぜ団体支援を行うNPO支援者が足りていないのか、仮説のひとつ目は「そもそも団体支援の必要性が認識されていない」というものです。これは誰の認識なのかという点も合わせて考える必要がありますが、すでにNPO支援を行っている(この場合、機能支援を行っている)支援者の方であれば団体支援の必要性を認識していないということはあまりないと感じています。私が本連載で言うような意味合いで捉えているかどうかはともかくとして、それぞれの機能的な課題を解決するサービスを提供する際に、対象となる機能的な支援の範疇には収まりきらない課題があるということを認識することは多いはずだからです(例えば団体の「HP制作」という機能的な支援を行っている際に、団体の目指すビジョンが不明確でWebページ上で適切な訴求を行うことが難しい、など「上流」の経営課題にも気づく、など)。

一方で現時点でNPO支援を行っておらず、これから支援者を目指したいという方の場合には「団体支援」という分類があり得ることやその必要性を認識していないということは少なからず発生しているのではないかと感じています。これまでに述べてきた通り「機能支援」は各種の士業専門家であったり、デザイナーやエンジニアなど、提供する専門性やサービスの形がわかりやすく、既存の支援者の数や種類も多いので良いロールモデルになります。その結果「NPO支援=機能支援」という認識が生まれるのではないかと思います。とはいえこうした新規NPO支援者層も、実際に支援を行い始めれば遅かれ早かれ団体支援の必要性を認識する可能性が高い、といえますので、この仮説が団体支援を行う支援者が不足していることの根本的な理由ではないと考えます。

仮説②団体支援に魅力がない

ひとつ目の仮説で検討した通りすでに何らかの形で機能支援を提供している支援者は、多かれ少なかれ団体支援的なものの必要性は認識している場合が多いのではないかと考えています。認識はされていても団体支援を行う支援者が増えないのはなぜか。考えられることは大きく二つで、その内の一つがこの仮説②「団体支援に魅力がない」というものです。魅力がないというのはとてもざっくりとした言い方です。個別にはもっと具体的な理由になると思います。団体支援はかかる手間の割に見返りが小さくてビジネスとして成り立ちにくい(ビジネスモデルとして魅力がない)とか、自分の元々の専門性である機能支援に集中する方が自身の仕事として楽しい(仕事としての魅力が足りない)とか。個人ではなく組織として機能支援を提供している場合などは、そのサービス範囲を広げるというのは簡単な判断ではないと思いますので、余程団体支援に魅力を感じないと支援領域を広げる判断はされにくいのではないでしょうか。

仮説③団体支援のやり方がわからない

三つ目の仮説は「団体支援のやり方がわからない」というものです。仮説の二つ目は団体支援の必要性は認識しているけれど魅力がないからあえて「手は出さない」という考え方でしたが、三つ目は必要性を認識して、手を出したいとも考えているが、方法がわからない、できない、というものです。これは往々にして発生しているのではないかと思います。

例えば仮説①で「HP制作」を行っている際に団体のビジョンが不明確でWebページ上で適切な訴求を行うことが難しいという事態があり得ることを記載しましたが、Web制作の専門家としてビジョニングの支援まで行うことはできないという場合は少なくないでしょう。Web制作会社の中にはビジョニングも含めて経営コンサルに近いよう戦略設計からデザイン、コーディングまで一貫してサービス提供しているようなところもあれば、基本的にコーディングのみ対応するといったところもあります。これらは会社等の良し悪しの話ではなく、サービスの提供範囲や考え方の違いであり、当然ですがサービス提供範囲が広い場合には料金も高くなります。NPOのHP制作で戦略設計から一貫して対応してくれるけれど1サイト制作するのに500万とか1,000万とかかってしまうような依頼をすることは多くないでしょう。どちらかといえば、本業はエンジニアのITプロボノでWordPressを使っての制作であれば本格的なデザインとまではいかなくとも多少のテンプレートの修正や作成はできますよ、というぐらいの方に依頼するというケースの方が多いでしょう。そして、このようなITプロボノやフリーランスのWeb制作者さん等が「ビジョンを明確にしなければ」という課題に直面した場合に、適切な支援を行うというのはなかなか難しい場合が多いのではないかと思います。過去の経験からビジョニングやその支援方法についてある程度の知見を持っていたとしても、元々のNPO側のHP制作の予算の中で行うのは難しいという場合もあるかと思いますし、そもそもビジョンの策定というのはそんなに簡単な作業ではありませんので、その適切なやり方がわからないという場合もあるでしょう。予算上の難しさというところまで検討できる場合には、その点をNPO側に資金や期間がどの程度必要なんですよと説明することもできるでしょうが、ビジョニング支援のやり方がわからないという場合にはそうした提案を行うことも難しいはずです。

ここでは「HP制作」と「ビジョン策定」という具体的な例で説明しましたが、経営戦略と事業と組織、そして財源はすべて連動していますので、実際にはあらゆる機能支援において、その機能的なテーマにおさまりきらない課題に直面することが考えられ、それらすべての支援方法に精通するというのは当たり前ですが難しい話です。また、NPOはその活動分野や事業内容、組織の運営形態等によっても課題の表れ方が本当に多様ですので、機能支援を提供しながらさまざまな経営課題にも支援範囲を広げていくというのは難しいでしょう。

ではどうしたら良いのでしょうか。どのようにすれば団体支援を適切に行えるようになるのでしょうか。この「団体支援のやり方がわからない」という課題にしっかり向き合い、一定の考え方や可能性のある方向性を示すというのが本連載の(というか私自身の)目指すところのひとつです。今後の記事でさらに考えていきたいと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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NPOコンサルや伴走支援者になりたかった数年前の私のような方に向けて仕事をする中で感じたことや考えたことを書いています。 支援者育成やNPO支援の仕組み化などに取り組んでいくために、もしいいなと思ってもらえたら、サポートしてもらえると嬉しいです。