絵画歴史のイノベーション その6ポップアートの誕生
ここまでラスコーの壁画からアートの歴史について振返ってきましたが、今回はアンディ・ウォーホル(1928-1987)のポップアートを紹介したいと思います。
ざっくりとアートの歴史を振り返ると、ラスコーの壁画、人物画、風景画などは、当時、カメラのような記憶媒体がなかったために、目の前の人物や風景を記録として残しておきたいということだったと思います。しかし、19世紀以降、カメラの登場によってアート界が大きく変化します。単に記録するということであれば、わざわざ絵画を描く必要はなくなり、カメラで撮影したら良いとなってしまいました。そのため、印象派のような目の前の風景などをアーティストとしてどのように捉えて、キャンバスに表現するのかということになります。それ以降、キュビズム、抽象絵画の誕生などは紹介してきた通りです。
前回はアクション・ペイティングを取り上げましたが、ここまでのアートの特徴としては、アーティストとして自分の内なる思い(考え方など)を世の中に対して、作品を通じて発表したいという動機が強いように思います。つまり、作品の出発点がアーティスト起点となります。
アートとデザインの違い
アートとデザインとは何が違うのでしょうか?一般的にはアートはアーティストの内なる思いを作品を通じて世の中に対して表現することです。そのため、一般的なイメージとしてアーティストとは画家のようなものが強いですが、音楽家、建築家、作家、映画監督、俳優、お笑いなどもアートだと思います。
一方、デザインとは何かと言えば、商品を作る起点が自分ではなく、お客さんからの依頼によるものです。お客さんからこんな感じのデザインが欲しいという要望に対して、イラストなどを作成し、提供することになります。他では建築物でも戸建(住居)を考えた場合、通常、お客さんの要望を受けて建築するために、アート作品というよりも商業商品という認識だと思います。
このようにアートとデザインの間には深い溝があったように思います。
デザインをアートにしたアンディ・ウォーホル
まずはアンディ・ウォーホルの作品を観てみましょう。一番有名な作品はカラフルに描かれたマリリン・モンローでしょう。他では日常品であるキャンベル・スープ缶などもモチーフにしています。同じモチーフを色合いを替えてたくさん並べたり、キャンベル・スープ缶については200個も並べています(笑)
たくさん並んだ作品とかを見ると、アート作品という気もしますが、基本的にはイラスト(商業デザイン)ではないのかと思ってしまいます。
ポップアートでアンディ・ウォーホル以外の有名人を上げるとしたら、ロイ・リキテンスタイン(1923-1997)でしょうか。
こんな感じの作品(イラスト?)は観たことないですか?きっとあるはずです。
アンディ・ウォーホルのすごさ
アンディ・ウォーホルがこのようなアート作品を生み出した背景として、アンディ・ウォーホルは油絵などの美術を専門的にしていたわけではなく、大学では広告芸術を学んでいます。今でいう商業デザインですね。つまり、彼の作品がイラストに見えてしまうのは当然で、20代のときは雑誌の広告やイラストを仕事にしていました。
しかし、30代のときに、イラストレーションの仕事を辞めて、アートの世界に移り、先ほどのキャンベル・スープ缶をモチーフとした作品を作り、ポップアートを誕生させるのです。
アンディ・ウォーホルのすごさは、同じモチーフを大量に並べているのは、アメリカの資本主義による大量消費やその空虚さ、非人間性を表現しているのですが、さらに、一般的にアートはこれまでは油絵などで描かれた1点ものでしたが、アンディ・ウォーホルはシルクスクリーンプリント(版画の一種)によって作品を大量に作成することに成功するのです。
なんかすごくないですか?作品のコンセプトが、大量消費される社会を揶揄しているのですが、自分の作品自体も大量生産したのです。なかなかですね。
ポップアートについて少し補足しておくと、ポップ(POP)とは大衆的なものを意味します。つまり、これまでのアートは一部の知識層や富裕層(ヨーロッパだと貴族)が対象だったわけですが、アメリカで生まれたこのポップアートは対象が大衆(庶民)だったのです。そのために、誰でも観て分るもの、モチーフは日常的なもの、身近な存在である必要があり、また誰でも作品を手軽に買える必要もあり、シルクスクリーンプリントによる作品作りをしたのだと思います。大衆に寄り添ったアートと言えるのでしょう。
とはいえ、私にはアンディ・ウォーホルの作品はどう見ても、イラスト(商業デザイン)にしか見えないのです(笑)
次回は、「絵画歴史のイノベーション その7具体美術の誕生」を紹介します。
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