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Art Ensemble of Chicago / Full Force

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Full Force / 1980

2004年8月20日に他のサイトへ掲載した原稿を加筆修正しました。==================================

1966年に結成されたアート・アンサンブル・オブ・シカゴ(以下、AEC)は一般的にフリー・ジャズのグループとして認知されている。

確かにAECの音楽はフリー・ジャズ風ではあるが、それ以前のブラック・ミュージックであるビバップ、スイング、デキシーランド、戦前の古いブルース、そして黒人のルーツであるアフリカの民族音楽などのエッセンスも含まれていて、それらをごった煮にしたような音楽をAECは創り出す。

AECはシカゴのAACM(創造的音楽家のための協会)から生まれたグループで、5人のメンバー全員がマルチ・プレイヤーで、打楽器(パーカッション)も担当する。

打楽器(パーカッション)は物と物をぶつけ合わせたり、擦り合わせたりして音を出す楽器で、そこから生まれる音は、人間が道具を使って創り出した最古の音であり、音楽の原型、ルーツなのかもしれない。

臨機応変に全員が打楽器(パーカッション)を担当するということは、AECをの音楽を理解する上で重要なポイントのようだ。

『Full Force / フル・フォース』の冒頭を飾る約19分の大曲《Magg Zelma》では様々な打楽器(パーカッション)や管楽器などが生み出す混沌とした音の世界が進化論的に展開・発展し、音楽が生まれる過程が絵巻風に描かれている。

曲は様々な打楽器(パーカッション)などによるランダムな音の並列配置から始まる。そしてランダムな音のカオスが少しずつ整理・調整され、秩序だったものになり、輪郭を持った音楽となる。しかしその音楽も、突然崩れたり、分裂したり、万華鏡内のイメージの様に絶えず変化する。

それはアフリカで生まれた人類が、何かのきっかけで石や木をぶつけ合わせたり、擦り合わせたりして色々な音を生み出し、それらの音が時間を経て少しづつ組み合わさった結果、音楽は生まれたと主張しているかのようだ。

話は逸れるが、AECのライブではアフリカの原住民のように顔にペイントを施し、民族衣装を身に纏うメンバーの中、レスター・ボウイだけが、まるで科学者のように白衣を常に纏う。音楽とは科学であると考えるボウイの役割は、プリミティブな姿に扮する他のメンバーが放つランダムな音に秩序と進化を与える ”道化役” をグループ内で演じることだろうか...

約50秒程度の小曲《Carefree》を挟んだ後の三曲目、チャーリー・ミンガスへ捧げられた《Charlie M》ではレスター・ボウイの哀愁を湛えた、輝きのある重く分厚いトランペットが素晴らしい。続く《Old Time Southside Street Dance》では凶暴化したビバップが突然覚醒したかのようにロスコー・ミッチェルがテナーをブリブリ吹きまくる。この曲はチャーリー・パーカーへのオマージュだろうか?

ブラッ ク・ミュージックの集大成としてのジャズ、ブラッ ク・ミュージックのルーツとしてのアフリカ民族音楽、その原型としてのランダムな無調音のカオス。『Full Force / フル・フォース』は聴く進化論・逆進化論のようなアルバムだ。

And More...

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Nice Guys
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Urban Bushmen
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The Third Decade

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