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Vanilla Fudge / Vanilla Fudge

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Vanilla Fudge / 1967

2004年7月20日に他のサイトへ掲載した原稿を加筆修正しました。==================================

ヴァニラ・ファッジは後にハード・ロックの源流の一つと数えられるが、このデビュー・アルバムをリリースした頃、ハード・ロックという表現は未だなく、彼らのスタイルはアート・ロック、またはニュー・ロックと呼ばれていた。

デビュー当時のヴァニラ・ファッジの特徴は、オリジナル曲で勝負するより、他人の曲を徹底的にアレンジし、その曲があたかも自分たちのオリジナルであるかのように作り変えてしまうところだ。

このアルバムでは、ビートルズの《Ticket to Ride》や《Eleanor Rigby》、カーティス・リー・メイフィールド《People Get Ready》、ゾンビーズの《She's Not There》、シェールが1966年にヒットさせた《Bang Bang》、そしてシュープリームスが1966年にヒットさせた《You Keep Me Hangin' On》などを大胆なアレンジでカバーしている。

ビートルズの《Ticket to Ride》ではオルガンと重々しいドラムから始まり、エコーの効いた、まるで喘ぐようなヴォーカル・パートへと進み、引き攣るようなギター・パートやコーラスが重なりあう。これは本家・ビートルズの《Ticket to Ride》に勝るとも劣らない、ほとんどオリジナルとも言えそうなヴァニラ・ファッジ流の《Ticket to Ride》だ。

シュープリームスが歌った《You Keep Me Hangin' On》は約3分くらいの曲だが、ヴァニラ・ファッジはスローなテンポにアレンジし、約7分の曲に仕上げている。冒頭の印象的なフレーズの後、唸り暴れまくるベースと糸を引くような粘着質のドラムの上にギターとオルガンのサウンドが重なり、喘ぐようなヴォーカルとコーラスが加わる。

芸術的に換骨奪胎され、ヘヴィで歪んだサウンドに作り変えられた上記の二曲を聴いただけで、なぜヴァニラ・ファッジのスタイルがアート・ロックと呼ばれていたかが理解出来る。

4人のメンバーの中で特筆すべきは、ジミー・ペイジも一緒にプレイすることを望み、後にジェフ・ベックとバンドを組む事になるティム・ ボガート(ベース)とカーマイン・アピス(ドラム)のリズム・セクション。

ヴァニラ・ファッジがスローテンポで演奏しても曲がダレないのは、この二人に確かな力量があったからこそ。そしてこの二人の力量をベースに、軽快なビートやスピード感を求めず、故意にスローなテンポで演奏し、曲に重厚感を与えるスタイルこそヴァニラ・ファッジの「おはこ」であり発明品だ。

ポップでシンプルなジャケット・デザインも含めて彼らのデビュー作であるこのアルバムは最高の出来。これぞ当時のニューヨーク・ロックシーンを代表するバンドの名作と言える。

60年代後半は、ジャズも含めて、新たなサウンドが擡頭してきた時期。もしタイムマシンが発明されたら、この頃のニューヨークへタイム・スリップして、ヴァニラ・ファッジを生で聴いてみたい。

おまけ:シングル盤について
《You Keep Me Hangin' On / キープ・ミー・ハンギング・オン》のシングル盤は約3分の長さに縮められた。サイケな柄とピンク色のジャケットのインパクトは強烈だった。

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