Charles Lloyd / Forest Flower
このアルバムは1966年9月18日、モントレー・ジャズ・フェスティバルでのライブを収録したもので、当時としてはかなりのセールスを記録したらしい。
それが原因か、翌年の1967年、チャールス・ロイドはダウンビート誌で「ジャズ・アーティスト・オブ・ザ・イヤー」に選ばれている。
ではこのアルバムでチャールス・ロイドの目の覚めるような素晴らしいサックス・プレイが聴けるのかと言うと、?マークが付く。
タイトル曲である《Forest Flower》は Sunrise と Sunset の二部構成、メドレーで演奏されている。
このアルバムの目玉曲でのチャールス・ロイドのサックス・プレイは、ふわふわと茫洋としたもので、以前のように力強くブリブリ吹きまくる、ジョン・コルトレーンを彷彿とさせるプレイではない。この曲で目立っているのはキース・ジャレットの溌剌としたピアノとジャック・ディジョネットのワイルドでパワフルなドラムだ。
ではチャールス・ロイドは何をしているのか?と言えば、プロレスの試合を例にとると、自分では技を繰り出して攻めず、若い対戦相手の技をとことん受けながら、試合全体の流れを微妙にコントロールする老獪なベテラン・レスラーのような役割だ。
《Forest Flower》では自分自身を目立たせるのではなく、ピアノのキース・ジャレットとドラムのジャック・ディジョネットの素晴らしさを際立たせることに重きを置いているようだ。そして二人が放つロックっぽいスタイルを上手く曲に溶け込ませている。つまりチャールス・ロイドはある種の”媒体”として機能している。
タイトル曲以外では、ノリのいい8ビートの曲、キース・ジャレット作の魔法・魔術を意味する《Sorcery》ではチャールス・ロイドがフルート吹いている。後にキース・ジャレットが編成するカルテットの原型のような曲だ。
そしてベースのセシル・マクビー(ファッション・ブランド名ではない)作の凛々しいバラード・ナンバー《Song of Her》を経て、アルバム最後の曲《East of the Sun》では速いテンポでチャールス・ロイドがサックスをブリブリ吹きまくる。まるで《Forest Flower》演奏時の借りを返すかのように、キース・ジャレットを向こうに回し、これでもか!と攻撃的なチャールス・ロイドのプレイが炸裂する。そしてキース・ジャレットも手数の多い鋭いプレイで応えるのだから、盛り上がらない筈がない。
さてタイトル曲の《Forest Flower》だが、訳すと”森の花”、実にジャズっぽくない曲名で、まるで60年代後半のフラワーームーブメントのテーマ曲みたいな曲名だ。何故チャールス・ロイドはこのような非ジャズ的で”詩的”なタイトルを曲名に選んだのだろうか?
この曲が最初に録音されたのはチャールス・ロイドがチコ・ハミルトンのバンドで音楽監督として活躍していた時。チコ・ハミルトンのアルバム『Man from Two Worlds』(1963年)に収められているので、60年代後半からサンフランシスコを中心として発生した「 LOVE & PEACE 」のフラワームーブメントとは時間的に考えて無縁だろう。
これは全くの推測ではあるが、《Forest Flower》はチコ・ハミルトンへのオマージュ的な曲ではないだろうか? チコ・ハミルトン / Chico Hamilton の本名はフォーレストストーン・ハミルトン / Foreststorn Hamilton。このForest繋がりは全くの偶然だろうか?