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Three Dog Night / Naturally

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Naturally / 1970

スリー・ドッグ・ナイトは実に変わった7人編成のバンドだ。

(その壱)ダニー・ハットン、チャック・ネグロン、コリー・ウェルズという三人のヴォーカリストが、ソウル・R&B風、バラード風、ロック風など、それぞれのスタイルに合った曲を歌い分ける。

(その弐)オリジナル曲はほとんど作らず、三人のヴォーカリストそれぞれが、自分のスタイルに合った曲を自ら選び、カバーする。選ぶ曲は当時未だ無名だったミュージシャンの曲が多い。

(その参)米国産のバンドだが、バンド名の由来はオーストラリアの先住民、アボリジニが「寒い夜には一匹の犬と、もっと寒い夜には二匹の犬と、極寒の夜には三匹の犬と寝る」という風習から。

スリー・ドッグ・ナイトは一つのバンドでありながら、三人のヴォーカリストが各々のスタイルをカバー曲で披露する、複数の顔を持つバンドと言える。

ほとんど無名だったミュージシャンは、スリー・ドッグ・ナイトに曲を取り上げられることにより、印税を得るだけではなく、知名度もアップする。結果として、これはある意味で見事な”利益還元システム”だ。

このシステムで日の目を見たミュージシャンは、ハリー・ニルソン 、ランディ・ニューマン、ローラ・ニーロやポール・ウィリアムズなど多数。

しかし時は1970年。時代は、ジェームス・テイラーやキャロル・キングなどが名アルバムをリリースしていた、シンガーソングライターの全盛期。オリジナル曲を作らず、カバー曲一本槍で勝負した姿勢は不思議だ。

しかしそんな時代だからこそ、巷には隠れた素晴らしい曲が溢れていたのかもしれないが・・・。

なにはともあれ、リードヴォーカル三人体制で、カバー曲のみで勝負するバンドはスリー・ドッグ・ナイト以前にはなかったし、スリー・ドッグ・ナイト以降、多分これからも現れないだろう。

さてバックバンドだが、メンバーは三人のヴォーカリストのスタイルに合わせる必要がある。求められるのは音楽的な個性ではなく、きっちりバックからヴォーカリストを支えることが出来る、スタジオ・ミュージシャン並みの適応力と応用力だろう。

このアルバム『Naturally / ナチュラリー』は、そんなスリー・ドッグ・ナイトの戦略的な特徴と、売れ線を嗅ぎ分ける三人のヴォーカリストの嗅覚、そしてバックバンドの力量が生み出した名盤だ。

「小難しいメッセージとか、ド派手なアドリブとか、俺たちには必要ないんだ。俺たちの曲を聴いて、世界中のみんなが楽しんで、盛り上がってくれたら、それで結構!それが最高!」

どこからともなく、連中のこんな呟きが聞こえて来そうだ。

少しばかりアダルトな雰囲気を醸し出しながらも、グルーブ感たっぷり。佳曲揃いの好アルバム。最後の曲《Joy to the World / 喜びの世界》は大ヒット。しかしこれほど能天気でオプティミスティックな曲も珍しい。

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