見出し画像

Deodato / Prelude

画像1
Prelude / 1973

実に破廉恥で、恥知らずな行為だ。

カラヤン指揮ウィーン・フィル演奏によるリヒャルト・シュトラウスが1896年に作曲した交響詩《Also Sprach Zarathustra / ツァラトゥストラはかく語りき》は映画「2001年・宇宙の旅」(1968年)でオープニング・テーマ曲のように扱われ、一躍有名な曲になった。

それから5年後、《Also Sprach Zarathustra》はデオダートの手によりキャッチーなエレクトリック・ジャズ風にアレンジされ、フュージョン時代の幕開けを象徴する曲と化した。

クラシックの曲、それも映画でオープニング・テーマ曲風に使われ、世の中に既に知れ渡っていた有名曲の一部を、今度はスタイルを変えてサビの部分だけ再使用する。つまり他人の褌の褌を使うのだから、これはかなり廉恥で恥知らずな行為だ。この方法はヒットした曲をカバーするのとは少しばかり訳が違う。

しかしこの破廉恥で恥知らずな行為が生み出した《Also Sprach Zarathustra》と同曲を収録したアルバム『Prelude』がヒットしたのは、そこには何人も、如何とも抗しがたい”快感刺激音楽”がたっぷり含まれているからだ。またこのアルバムを制作したレコードレーベルはCTI。”快感刺激ツボ”を押さえるのが実に上手いレーベルなのだから快楽度数は増幅される。

ブラジル・リオデジャネイロ生まれのデオダートは作曲家であり、アレンジャーであり、キーボード奏者でもある。リオデジャネイロで育ったのだから、デオダートは”快感刺激度指数”の高いサンバやボサ・ノヴァをたっぷり聴いて、吸収・消化・骨肉化しているのだろう。

『Prelude』では全編にサンバやボサ・ノヴァのリズムが漂っていて、デオダートの奏でるエレクトリック・ピアノ独特の浮遊感と共に、アルバム全体に漂う心地良さ、快感刺激要素の一つとなっている。

このアルバムではタイトル曲の《Also Sprach Zarathustra》以外にもクラシックの名曲がが収められている。クロード・ドビュッシーの出世作でもある管弦楽曲《Prelude to the Afternoon of a Faun / 牧神の午後への前奏曲》がそれで、フルートのソロが奏でるのどかなテーマの後にリズミカルなアドリブパートを組み込みんだ、トロピカルなテイストの曲にアレンジされている。

その他の曲もメロウなものからノリのいいものまで、見事な仕上がりのものばかり。これは高度な演奏力と編曲力が伴ったクロスオーバー / フュージョン系ジャズの教科書的なアルバムと言えるだろう。

このアルバムの成功に気を良くしたのか、二匹目のドジョウを狙い、デオダートは己の”必勝バターン”であるクラシック名曲アレンジに打って出る。次作の『Deodato 2』で狙ったのはジョージ・ガーシュウィンの名曲《Rhapsody in Blue / ラプソディ・イン・ブルー》。そして更にクラシックらしい曲としてモーリス・ラヴェルの《Pavane pour une infante défunte / 亡き王女のためのパヴァーヌ》も付け加えるている。

しかしこの辺りでデオダートの必勝バターンだったクラシックの名曲アレンジも終わりを迎えたようだ。

And More...

画像3
Deodato 2

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?